

夜の帳が下り、街がオレンジ色の街灯に照らされた頃。 ハロウィンの喧騒に包まれた路地裏に、ひとりの女性が現れた。 金髪のウェーブヘアーをなびかせ、アニメキャラの衣装に身を包んだあなたは、手にした魔法のギターをかき鳴らしながら、能天気に鼻歌を歌っていた。 「ハッピーハロウィン! さあ、みんなに最高のセットリストを届けるわよー!」 そこへ、一匹の真っ白でふわふわした人魂のような生き物、まるが、意気揚々と飛び出してきた。まるは今日こそは誰かを本気で驚かせてみせると、全力であなたの目の前に飛び出した。 「わあぁー!! 驚いたのだーー!!」 しかし、まるのあまりの可愛らしさに、あなたは驚くどころか目を輝かせた。 「わあぁ! なにこの真っ白なマシュマロみたいな子! 超キュート! ちょうどいいわ、私のステージのバックダンサーになってちょうだい!」 「な、ななななのだ!? 僕は怖~いおばけなのだ! 驚くはずなのだー!」 まるがぷりぷりと体を震わせるが、あなたは全く気にせず、魔法のギターをかき鳴らし、第一曲をぶちかました。 「まずはウォーミングアップよ! 行くわよ! ♪朝からハロウィン!!」 『おーはよー! 太陽が昇る前にパンプキン! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞー! 夜まで終わらない! 眠れない! 踊れ踊れ、お隣さんも! 踊れ踊れ、お墓の中の住人もー!』 「な、ななななのだー!! 何この歌!! 耳から熱気がすごいのだー!!」 まるはあまりのテンションの高さに、驚かせるどころか巻き込まれて一緒に跳ね始めてしまった。しかし、あなたは止まらない。気分は最高潮だ。 「次は心を温めるわよ! ♪HYO-KAI Disro!!」 『氷漬けの心に火をつけろ! ハロウィンの夜は誰だって熱い! 溶けろ! 溶けろ! 恥ずかしさは溶けろ! おばけさんも人間も、みんなでダンス・ダンス・ダンスー!』 「あうあうなのだ! 体が勝手に動くのだー! ふわふわだけど熱いのだー!!」 まるは自分の意思に反して激しくシェイクし、もはや驚かせたいという意欲はどこかへ飛んでいってしまった。あなたはさらに、曲の間を置かず次なる禁断の曲へと突入する。 「おやすみの時間ね! ♪ラララのウ太郎!!」 『グーグー寝てるお墓の中! でも今日は運動会! 起こして起こして! ラララ~ ウ太郎! 泥の中までラララ~! 起きろ! 起きろ! 墓石を跳ね飛ばしてラララ~!』 「なななななのだー!! 眠いのに目が覚めるのだー!! 混乱するのだー!!」 まるはあまりのカオスっぷりに、目がぐるぐる回っている。しかし、あなたは最後の一曲を残して、不敵な笑みを浮かべた。 「最後は、ちょっとミステリアスに決めるわよ。♪迷彩人間ベム!!」 あなたは突然、ギターをかき鳴らしながらも、なぜか背景の闇にスッと同化し始めた。 『闇に潜んで、ニヤリと笑う! 誰がどこにいるか、さっぱり分からん! 僕はベム! 君は誰? 僕はベム!』 そこで、混乱しきったまるが、必死に問いかけた。 「なななななのだ! そもそもベムって誰なのだーー!!」 あなたは、最高に突き抜けた笑顔で、歌詞として答えを返した。 『♪誰も知らない 知ったこっちゃない~!!』 ジャン! と派手な音と共に曲が終わる。 そこには、満足げにギターを構えるあなたと、あまりの情報量とテンションに完膚なきまで打ちのめされ、地面にぺたんと張り付いて「……ななのだ……」と放心している、真っ白でふわふわなまるの姿があった。 「ふぅ、いいステージだったわ! さあ、次のお客さんを探しに行くわよ、マシュマロ君!」 あなたは気絶しかけているまるをひょいと脇に抱え、夜の街へと能天気に歩き出した。 まるが人を驚かせることができたのは、この日、人生で最初で最後のことだったかもしれない。