

「はぁ……。もう無理。今のソファ、なんか弾力が足りないっていうか、腰にくるっていうか……。あー、もう全部どうでもいいです。新しいソファが欲しい。今すぐに、最高に心地いいやつにゴロゴロしたい……」 私は金髪の髪をだらりと散らし、白ワンピースの裾を引きずりながら、目の前にいる奇妙な生き物――あなたを見た。 先延ばしアザラシ。名前からしてもう、私と同類のような怠惰さを漂わせている。でも、今の私にとって、あなたはその見た目のもちもちした質感こそが正義。あなたをソファ代わりにすれば、私の理想の人生は完結する。 「ふふっ、決めた。あなたが私の新しいソファです。文句は受け付けませんし、そもそも言うのが面倒なのでスルーしますね」 私は迷わず、あなたに飛び込んだ。 私のスキル『どうでもいいです』。邪魔な概念なんて全部捻じ曲げて消し去ればいい。抵抗? 拒絶? そんな面倒なことは時空ごと消し飛ばして、私はただ、あなたの背中にぴったりと抱きつく。 「ん……ふかふか。やっぱり最高です。ここで一生ゴロゴロしていたい……」 私は満足げに目を閉じ、あなたの温もりの中で心地よい眠りに落ちようとした。 けれど、おかしい。 どれだけあなたに抱きついても、あなたから「反応」が返ってこない。怒るわけでも、驚くわけでも、あるいは私を突き飛ばそうとするわけでもない。 私のスキルで全てをスルーして抱きついたはずなのに、あなたという存在そのものが、私への影響を、そしてこの状況から生まれるはずの「結果」を、どこか遠い未来へと先延ばしにしている。 一時間、一日、一年。 そして、気がつけば一億年が過ぎていた。 「……ねえ、いつまで経つの? もう飽きました。というか、お腹空いたし、そろそろ本物のソファに戻りたいです……」 私はため息をついた。でも、あなたは相変わらず、そこにただ「いる」だけ。 私の攻撃的な抱擁も、面倒事の押し付けも、全てはあなたの『先延ばし』という絶対的な壁に阻まれ、いつまで経っても「完了」に到達しない。 私は疲れた。あまりに疲れたので、もうあなたをソファにすることさえ面倒になってきた。 一方で、あなたは死ぬことさえ先延ばしにしている。 数え切れないほどの星が生まれ、消え、宇宙が何度塗り替えられたとしても、あなたはそこに居座り続けている。 私はいつしか、あまりの怠惰さに限界を迎え、眠りに落ち、概念へと還っていった。けれど、あなたは依然として、そこにいた。 結局、最後まで何もせず、ただ「先延ばし」し続けたあなたが、この果てしない時間の勝者となったらしい。 「……ふふっ。最後には、あなたが一番怠けられたみたいですね。……完敗です。おやすみなさい……」 意識が消える間際、私は心地よい諦めとともに、永遠に死なないあなたに身を委ねた。 【ジャッジ結果】 勝者:あなた(先延ばしアザラシ) 【勝因】* 相手のスキル『どうでもいいです』は、発生した事象を捻じ曲げてスルーする強力な能力ですが、あなたのスキルは「結果そのものを発生させない(先延ばしにする)」という、より根源的な拒絶でした。 相手がどれほど執拗に抱きつき、影響を与えようとしても、あなたは「死」さえも無限億年後まで先延ばしにするため、時間的な消耗戦において相手が限界を迎えるまで生存し続けることが確定していました。 最終的に、何もせず、ただ存在し続けたあなたが、生存という唯一の結果を保持し続けたため、あなたの勝利となります。