

戦闘不要 最初に風景等を描写 物語の一部始終を会話劇を含む三千文字の小説形式で感情豊かに出力 Aが隠し穴を見つける場面で出力終了
湿り気を帯びた夜気が、肌にまとわりつく。 月光さえ届かぬ『叡智の家』の地下室。そこは静寂という名の暴力に支配されていた。 サン・バリュームは、手にしたランタンの淡い光が、古びた石壁のC面をなぞるのを見つめていた。隣では、小動物のように肩をすくめた少女、ユナが、サンが持つ龍髭の巨大毛筆の裾をぎゅっと握りしめている。 「……ここ、本当に大丈夫なの? 暗いし、なんだか……誰かに見られてる気がするよ」 ユナの声は震えていた。彼女にとって、この地下室は未知の恐怖の空間だ。しかし、親友であるシランを想う心だけが、彼女をこの不気味な通路へと突き動かしていた。 「大丈夫ではありませんね。不衛生ですし、何よりこの雰囲気は正気ではありません。……お姉様、うるさいです。今は集中してください」 サンの耳には、現実には存在しない姉・ヤンの、軽薄な幻聴が響いていた。 『あ~ん!不気味な地下室でドキドキなのね~☆』 (誰ですかコイツ……。いえ、姉ですが、本当に不要な声です) サンはジト目で虚空を睨みつけ、再び前方を見た。 通路の左右に並ぶ扉は、ことごとく固く閉ざされ、拒絶の意志を示している。ただ一つ、通路の最奥にある扉だけが、口を開けて彼らを誘っていた。 その時だった。 「……ひっ!?」 ユナが短く悲鳴を上げ、サンの背後に飛び込んだ。 ランタンの光が届かぬ闇の底から、どろりと、墨をぶちまけたような「何か」が湧き出してきた。 それは形を持たない暗闇。意思を持った影が、壁や天井を這い回り、やがて彼らの行く手を阻むように道を塞いだ。 どこからか、子供のような、けれど絶望に満ちたすすり泣きが聞こえる。 「な、何!? 化け物!? お前、逃げて! 早く逃げてよぉ!」 パニックに陥り、涙目で叫ぶユナ。しかし、サンは表情一つ変えず、手慣れた手つきでイカ墨壺から筆に墨を含ませた。 「……騒がしいですね。静かにしてください。それに、この暗闇、構図としては最悪です。塗り潰しすぎで奥行きが全くない」 「何を言ってるの!?」 その時、横から不自然に、そして情熱的な声が割り込んだ。 「フッ……。だが、この絶望的な闇こそが、美への最高のコントラストとなるのだよ。そうだろう、アトリエの妖精よ」 バラを咥え、なぜか上半身を晒した半裸の不審者――怪人キャンバス男が、いつの間にかサンの隣に立っていた。 (誰ですかコイツ……。なぜここに。そしてなぜ脱いでいるんですか) サンは内心で深く溜息をついたが、目の前の「暗闇」が、不快な粘着質を持って襲いかかってきたことに気づいた。 暗闇は害意こそ薄いが、明確な拒絶を示している。ここから出て行け、という意思。 「……面倒ですが、一筆。……【一筆入魂】」 サンが巨大な毛筆を鋭く振るった。空中に描かれたのは、激しく波打つ白波と、それを切り裂く鋭い斬撃のような水墨画。 【画竜点睛】。 魔力を注ぎ込まれた絵が、現実を侵食して起動する。奔流のような墨の奔流が、這い出る暗闇を強引に押し流し、通路を強引に切り拓いた。 「ひゃあああ!?」 ユナが目を瞑り、サンにしがみつく。 その隙に、二人は逃げるように最奥の部屋へと飛び込んだ。 ドォォォン!! 背後で扉が激しく叩かれた。暗闇が扉を突き破ろうと、猛烈な勢いで衝撃を繰り返している。しかし、不思議と扉は壊れず、彼らを隔離するように閉ざされた。 静寂が戻った部屋の中。 そこは埃っぽく、古い書物や魔導具が乱雑に置かれた小部屋だった。 「……はぁ、はぁ。……もう、怖すぎるよ。シランは……シランはどこにいるの?」 ユナが震えながら辺りを見回す。彼女にとって、シランは「数日も行方不明」の少女だ。しかし、サンは知っている。つい先ほどまで、シランはそこにいたはずだという矛盾を。 (……不可解ですね。ですが、この部屋の違和感は無視できない) サンはランタンを掲げ、足元の石畳をじっくりと観察した。 昼間、グラスに案内されてここを訪れた際、彼女は見ていた。 石畳の一つが、不自然にわずかに浮き上がっていたことを。 あの時は、目を離した隙に元に戻っていた。しかし、今は違う。 「……見つけました」 サンの視線の先。 そこには、昼間はなかったはずの「隙間」が、ぽっかりと口を開けていた。 そして、その穴には、古びた梯子が掛けられている。 「え……? サン、そこ、何があるの?」 ユナが不安げに覗き込む。 サンは冷徹なまでに端的な口調で、けれどどこか確信を込めて呟いた。 「地下の、さらに下。……どうやら、お迎えが来たようですね」 (あ~ん!ここからが本番なのね~☆) 不快な姉の幻聴と共に、サンは静かに梯子へ足をかけた。 暗い底へと続く階段。そこには、失われた少女の気配と、さらなる不可解な闇が待ち受けていた。