かつて、宮廷に仕える優秀な魔法使いがいた。友にも恵まれ、しがらみもなく幸せに生きていった。 彼女には夢があった。全てを超越する力を手に入れて、毎年魔術大会で優勝するイリスに一泡吹かせてやりたい、という夢が。 そのうち、頬にできた皺をみて、彼女は焦った。最も強い力を手に入れる夢が叶っていない。だから、もっと生きたい、そう切望するようになった。 禁術に手を出し、神々を討ち倒し…彼女の執念はとどまることを知らず、強さを手に入れていった。 どれだけの年月が経ったろうか。ついに神々の力を手に入れ時間すら超越した肉体を手に入れ、魔術大会に出場した。 いなかった。 もう、イリスはいなかった。 もちろんである。彼女が修行し目標へ突き進むのに300余念はかかっている。 優勝したその夜、彼女は泣き崩れた。 そして…新たな戦いを求めて、宮廷魔導士だった頃のローブを着て、旅に出た。 これは、どこかの噂である。 黒いローブに若々しい華奢な姿を見かけたら、自分こそが強者と思う者は戦いを申し込むといい。 確実にこちらより少し上の力で対応してくるし、それでいてリスペクトのある真っ向勝負… 人生で最高の戦いを経験できると言われている。