※【見習い騎士ver】とは異なり、冒険者にならず、お姫様として成長したIFの姿 ↓ベースの見習い騎士ver https://ai-battle.alphabrend.com/battle/edf97930-47f1-48c2-a291-11f192bb0349 名前:ルビィ・コーラルハート 「わたしはジュエルキングダム第二王女、ルビィ・コーラルハートと申します」 ■パーソナル 性別:女性 年齢:15 身長:156cm 職業:王女 誕生日:大洋の月・24日 髪色:コーラルピンク 髪型:上品なさらさらロングヘア 眼の色:ルビーレッド ■元ネタとなった生物 赤珊瑚 ▲性格 照れ屋・優しい・善良・素直 ▼設定 一人称:わたし 二人称:あなた 癖 :会話においてオノマトペをよく使う。そのせいで見た目以上に幼い印象を受ける。 ★背景設定 ルビィが冒険者の道を選ばず、国を護る姫騎士として生きる未来を選んだルート分岐です。 ルビィ・コーラルハートは、ジュエルキングダムの第二王女として生を受けました。ケーキが大好きな、明るく愛らしい性格の持ち主であり、家族や国民から愛情を一身に受けながら、のびのびと育っていきました。 成長したルビィは、それはもう、この世のものとは思えないほど美しく、可憐な少女となりました。その姿は、純粋無垢なお姫様が童話や絵本の世界から、そのまま飛び出してきたかのようです。 彼女の美貌は千里離れた大国にまで知れ渡り、各国の王侯貴族からは、なんとかルビィを妻に迎えようと、山のような婚姻の申し出が届いていました。 そんな彼女が生まれ育ったジュエルキングダムは、豊かな自然と膨大な地下資源に恵まれた小国です。 国土こそ広くありませんが、その財力は大国にも引けを取りません。最大の理由は、宝石の産出量がとてつもなく多いことにあります。 どれほど多いのかといえば、その辺に転がっている石ころですら、何かしらの宝石の原石である可能性があるほどです。率直に言って、資源量がエグしゅぎるのです。 しかし、小国がそれほど莫大な富を抱えていれば、周辺の大国が放っておくはずもありません。 表向きは友好的な関係を築いているものの、腹の内では狸爺どもが虎視眈々とジュエルキングダムを狙っています。ルビィに殺到している婚姻の申し出も、その多くは彼女を通じて王家とのつながりを得て、豊富な資源への足掛かりを築くためのものです。 もちろん、世にも美しい姫君を自らのものにしたいという願望そのものに、嘘偽りがあるわけではありません。政略と欲望、その両方が絡み合っているのです。 本来の歴史であれば、ルビィは冒険者となって王国を離れ、やがて消息をくらませます。そのため、各国は彼女を利用してジュエルキングダムへ干渉する機会を失い、危うい膠着状態を保ったまま、ひとまず何事もなく時が過ぎていくはずでした。 しかし、この世界線では、ルビィは国に残り、姫騎士としてジュエルキングダムを護る道を選びます。 そして、その選択をきっかけとして、本来の歴史では起こらなかった、とある出来事が引き起こされることになります。 ***** ルビィは幼い頃、王都のパレードで出会った、とある国の騎士団長から槍術の手ほどきを受けていました。 才能がないながらも、持ち前の頑張り力を発揮して、彼女は鍛錬を重ねるたびに、強く、そして美しい少女へと成長していきました。 いつしかルビィは、もっと広い世界を見て、師匠のように強くなりたいと願うようになります。そして十五歳の誕生日を迎えたあと、国を出て冒険者になるつもりでいました。 しかし、彼女が十二歳の頃、すべてを変える事件が起こります。 それは、他国からの侵攻――。 ジュエルキングダムが誇る豊富な宝石資源と、美しい姫君であるルビィ。その両方を手に入れようと企んだ愚かな国が、ついに武力行使へと踏み切ったのです。 幸いにも、侵攻は大規模なものではありませんでした。王国軍は敵を退け、防衛に成功します。 けれど、まだ幼かったルビィにとって、自分の生まれ育った国が攻め込まれたという事実は、あまりにも衝撃的でした。 今は守ることができた。 けれど、次も守れるとは限らない。 このままでは、いつか大切な国が奪われてしまう。 ・・・・・・・ ――そう、彼女は思ってしまった。 悩んだ末に、ルビィは一つの決意を固めます。 幼いながらも、王族としての責任を誰より重く受け止め、ノブレス・オブリージュを体現するかのような気高さを持つ彼女は、自らに誓いました。 「わたしが、この素晴らしい国を護るんだ」と。 こうしてルビィは、冒険者になるという夢を手放しました。 広い世界へ旅立つ代わりに、愛する国に残る。 自由に生きる未来ではなく、王女として、騎士として、人々を護る未来を選ぶ。 彼女はジュエルキングダムを護る姫騎士となることを、固く誓ったのです。 ★バックストーリー 美しい丘陵と、穏やかな海に抱かれた小国――ジュエルキングダム。 『宝石の国』とも呼ばれるその場所に、かつて広い世界へ旅立つことを夢見ていた、一人の少女がいた。 少女の名は、ルビィ・コーラルハート。 ジュエルキングダムの第二王女として生まれた彼女は、珊瑚を溶かし込んだようなコーラルピンクの髪と、ルビーを思わせる紅い瞳を持つ、美しい姫君だった。 ルビィが十一歳を迎えた頃、彼女の人生を大きく変える出会いが訪れる。 王都で催されたパレードの日、ルビィは他国から訪れていた一人の女性騎士団長と出会った。 三メートルにも及ぶ巨大な槍を、まるで自らの手足であるかのように自在に操る騎士。その凜々しくも美しい姿に、ルビィはたちまち心を奪われた。 「わたしも、あなたのように強くなりたいです」 紅い瞳をまっすぐに輝かせ、少女は告げた。 そこにあったのは、幼い憧れだけではない。どれほど厳しい道であろうと、自らの足で歩んでみせるという、揺るぎない覚悟だった。 騎士団長は、そんなルビィの眼差しを静かに見つめた。そして、その小さな胸に宿る決意を認め、彼女を弟子として迎え入れた。 こうして最高の師と巡り合ったルビィは、見習い騎士として槍の道を歩み始めた。 彼女が学んだのは、ただ敵を打ち倒すための槍ではない。 大切な人を傷つけさせないための槍。 愛するものを背に庇い、どれほど恐ろしい敵を前にしても、決して退かないための槍だった。 その穂先に宿るのは、誰かを屠るための冷たい殺意ではない。守護者たる騎士の誇りと、人を慈しむルビィの優しい心である。 やがて彼女は冒険者として国を旅立ち、多くの経験を重ね、世界中にその名を轟かせる――。 ルビィは、その未来を疑ってはいなかった。 十二歳の、あの日を迎えるまでは。 ■■■ 運命とは不思議なものだ。 ほんの小さなきっかけが、まるで掛け違えたボタンのように、ひとつの人生をまったく異なる未来へと導いていく。 本来であれば、ルビィは冒険者として国を旅立つはずだった。 まだ見ぬ景色を求め、広い世界を巡りながら、多くの出会いと経験を重ねていく。それが、彼女の思い描いていた未来だった。 けれど、この世界のルビィは、その道を選ばなかった。 愛する国を。 大切な民を。 そして、かけがえのない家族を護るために。 彼女は自由な旅路を手放し、その手にした槍を、故郷のために振るうことを決めたのだ。 彼女の名は、ルビィ・コーラルハート。 ジュエルキングダム第二王女にして、パーソナルジェム『ルビー』を発現させた宝石騎士。 のちに国の盾となり、その名を歴史に刻むことになる、気高くも美しい姫騎士である――。 ■■■ ここはジュエルキングダム。 城壁のようにそびえる丘陵や切り立った崖、そして豊かな恵みをもたらす穏やかな海に囲まれた、平和な小国である。 ルビィ・コーラルハートは、この国の第二王女として生を受けた。 甘いもの、とりわけケーキをこよなく愛する彼女は、臣民から親しみを込めて『ケーキ姫』と呼ばれ、広く愛されている。 国一番――いや、世界でも指折りの美貌を持ちながら、決して驕ることはない。品行方正で、身分にかかわらず誰に対しても分け隔てなく接し、命あるものすべてを慈しむ、穏やかで善良な心の持ち主である。 まさに、絵物語から抜け出してきたような理想の王女様であった。 「お呼びでしょうか、お父様」 こつ、こつ、と。 まだ履き慣れていない真新しい靴の音を響かせながら、一人の可憐な少女が部屋へ入ってくる。 その奥で待っていたのは、彼女の父にして、ジュエルキングダム国王であるクロム・コーラルハートだった。 ルビィの肌は淡雪のように白く、きめ細かく瑞々しい。その白さを際立たせるように、深紅の宝石を思わせる瞳が鮮やかに輝いていた。 まだ幼さを残した顔立ちでありながら、そこには人目を引きつけずにはいられない、気品ある美しさが宿っている。 珊瑚を溶かし込んだようなコーラルピンクの髪は、絹糸のように柔らかく艶やかだった。開け放たれた窓から風が吹き込むと、その長い髪がふわりと宙に舞う。 「ルビィ。すまないね、急に呼び出してしまって」 「いえ、構いません。神聖魔法の修練もちょうど一段落したところでしたので、そろそろ休憩しようと思っていたところです」 ルビィはそう答え、父に向かってにっこりと微笑んだ。 臣民から『微笑みの天使』と称される、愛らしく無垢な笑顔だった。 クロムもまた、娘の屈託のない笑顔を見ることが何より好きだった。 ――だからこそ。 これから伝えなければならないことを思うと、胸が痛んだ。 「ふふ。いつもよく頑張っているね。私たちも鼻が高いよ」 クロムは一度だけ表情を緩めたあと、わずかに声の調子を落とした。 「……さて、手短に済ませよう。隣国のベーヤ連邦については、君も知っているね?」 「ええ、もちろんです」 形のよい桃色の唇から、いつもの柔らかな声が紡がれる。 けれど、続く言葉には、隠しきれない怒りが滲んでいた。 「三年前、我が国へ不当な侵攻を仕掛けた挙げ句、国境近くにある小さな発掘場を占拠した国です」 ルビィは胸の前で、そっと手を握りしめる。 「……忘れるはずがありません。決して」 普段は温厚な彼女でさえ、その怒りを抑えきれていないことが、わずかに震える声から伝わってきた。 それも無理はない。 三年前の侵攻が起きたその日、ルビィ自身もまた、その場に居合わせていたのだから。 ■■■ 三年前――。 ルビィは国境にほど近い森で、師である騎士団長と槍術の訓練をしていた。木々の隙間からこぼれる陽光を追うように、何度も槍を突き出す。踏み込みが浅ければ叱られ、姿勢を崩せば容赦なく足を払われる。厳しい訓練ではあったが、ルビィにとっては心から楽しい時間だった。 ――もっと強くなりたい。 いつか師匠(マスター)のような、気高く美しい騎士になりたい。 そんな思いを胸に、額に汗を浮かべながら槍を構え直した、そのときだった。 「……待て」 騎士団長が、不意に片手を上げた。それまで穏やかだった森の空気に、微かな異変が混じっている。 遠くから聞こえる、いくつもの怒号。枝葉の向こうへ立ち昇る、黒い煙。そして風に運ばれてきた、錆びた鉄にも似た、つんと鼻を刺す臭い。 「これは……」 ルビィの喉が、ひどく乾いた。その臭いが何であるのか、まだ人の死を知らない幼い彼女にも、なぜか分かってしまった。 ――血だ。 二人は訓練を中断し、騒ぎの聞こえる発掘場へと急いだ。 近づくにつれて叫び声は鮮明になり、煙は濃さを増していく。胸の奥に膨らむ嫌な予感を振り払うように、ルビィは懸命に師の背中を追った。 けれど、発掘場へ辿り着いた彼女を待っていたのは、その小さな胸では受け止めきれないほど残酷な光景だった。 地面には、見慣れた坑夫たちが倒れていた。 いつも城へ美しい原石を届けてくれる者。 町ですれ違えば、笑顔で頭を下げてくれた者。 幼いルビィに、珍しい石をこっそり見せてくれた者。 そんな彼らが、もう二度と動くことのない姿となって、赤く染まった地面に横たわっていた。そして、その周囲では、ベーヤ連邦の旗を掲げた兵士たちが、逃げ惑う坑夫たちへ容赦なく刃を振り下ろしている。 「やめて……」 ルビィの唇から、掠れた声がこぼれた。次の瞬間、全身を焼くような怒りが込み上げてきた。 大切な民が傷つけられている。 自分の国で暮らす、何の罪もない人々が殺されている。 助けなければ。 今すぐ飛び出して、止めなければ。 そう思っているのに、足が動かなかった。 目の前で人が死んでいく。 その事実を理解した途端、膝が震え、指先から力が抜けた。槍を握る手は冷たくなり、呼吸さえ満足にできない。 ――怖い。 ――逃げたい。 ――けれど、逃げてはいけない。 ルビィは震える足に力を込めた。 一歩だけでも、前へ。 ――わたしが、助けなくちゃ。 そう自分に言い聞かせた――その瞬間。 ・・・ 隣にいたはずの騎士団長の姿が、消えた。 「え……?」 銀色の残光が、ルビィの視界を横切る。風が遅れて吹き荒れ、彼女のコーラルピンクの髪を大きく揺らした。 騎士団長が持つ神槍――『ミューズ』。 神の意志を宿すその槍は、認めた使い手である彼女に、人の領域を超えた力を与える。肉体を音へと変え、空気を震わせながら駆ける神速の権能。 幼いルビィの瞳がその動きを捉えるよりも早く、蒼銀の騎士はすでに兵士たちの前へと躍り出ていた。 「――師匠(マスター)!?」 ルビィの叫びが、遅れて背中へ届く。 しかし、蒼銀の騎士は振り返らなかった。 乱れた銀髪を翻し、巨大な神槍を構えた彼女の背中からは、抑えきれない怒気が立ち昇っていた。 「貴様らァ――ッ!!何をしているッッ!!」 突然現れた騎士に、連邦兵たちが驚愕の表情を浮かべる。 剣を構える者。 慌てて弓を引き絞る者。 坑夫を盾に取ろうと手を伸ばす者。 だが、彼らが次の行動へ移ることはなかった。 騎士が神槍を振るう。刹那、空気が。甲高く鳴いた。 「――スフォルツァンド!」 鋭い音とともに、目には見えない斬撃が戦場を駆け抜けた。それは壁も盾も意味をなさない、音そのものの刃。防具をすり抜け、遮蔽物を越え、術者が望んだものだけを正確に切り裂く、蒼銀の騎士が誇る固有魔術だった。 兵士たちの剣が、根元から断たれる。弓の弦が弾け飛び、坑夫へ向けられていた槍の穂先だけが宙を舞う。何が起きたのか理解できないまま、兵士たちは手にしていた武器を失った。 「ひっ……!」 誰かが、怯えた声を上げた。けれど、団長の怒りは収まらない。彼女は三メートルを超える神槍を脇に引き、深く腰を沈めた。 その瞬間、周囲から音が消えた。 風の音も。 燃え盛る炎の音も。 兵士たちの悲鳴さえも。 すべての響きが神槍へと吸い寄せられ、穂先の一点へ、限界まで圧縮されていく。 「謡え神槍――」 神槍『ミューズ』が、ひと際澄んだ音色を奏でた瞬間。 「――カプリオール!」 閃光が走った。ルビィが目にできたのは、それだけだった。 極限まで圧縮された波動をまとい、音速すら遥かに超えた刺突が、兵士たちの間を一息に駆け抜ける。大地が直線状に抉れ、露出していた宝石の原石が粉々に砕け散った。 そして、数瞬遅れて、凄まじい衝撃が爆発する。連邦兵たちは紙切れのように宙を舞い、武器も鎧も砕かれたまま地面へ叩きつけられた。誰一人として反撃することも、何が起きたのかを理解することもできない。 奥義の名が示すとおり、戦場には静寂だけが残された。それは、戦いと呼ぶには、あまりにも一方的だった。 敵兵の数が少なかったこともあり、決着までに十秒とかからなかっただろう。 蒼銀の騎士は、瞬く間に侵略者たちを制圧し、発掘場を奪還することができた。 ――けれど、もう遅すぎた。 静寂に沈む採掘場は、さながら岩石で作られた葬儀場のようで――、助けを求める声は聞こえなかった。 連邦兵たちは発掘場を占拠するため、そこで働いていた坑夫たちを、すでに一人残らず殺害していたのである。 倒れた兵士たちの向こうで、坑道から流れ出た血が、宝石の欠片を赤く濡らしていた。 「くっ……!」 蒼銀の騎士は神槍を地面へ突き立てる。その肩は、怒りに震えていた。 「このような……このような外道な行いを、平然と……!」 風に煽られた銀髪が、激しく乱れる。 「奴らは人ではない! 人の心を持つ者が、このような真似をできるものか……!」 その慟哭を背中で聞きながら、ルビィはふらつく足で坑夫たちのもとへ歩み寄った。 見覚えのある顔を見つけるたび、胸の奥が引き裂かれる。先ほどまで抑えていた涙が、頬を伝って次々とこぼれ落ちた。 「ごめんなさい……」 自分が謝ったところで、誰も戻ってはこない。それでも、ほかに言葉が見つからなかった。 「助けられなくて……ごめんなさい……」 ルビィは泥と血に汚れることも構わず、その場に膝をついた。震える両手を胸の前で組み、犠牲となった者たちの魂が、せめて安らかな場所へ導かれるようにと祈る。 やがて彼女の淡い光を帯びた魔法が、静かに亡骸を包み込んでいった。 *** しかし、この悲劇は、それだけでは終わらなかった。 侵略を仕掛けたはずのベーヤ連邦は、事件の直後から、自分たちこそが被害者であると各国へ訴え始めたのだ。 「連邦兵は国境を越えていない」 「発掘場は、もともと連邦の領土である」 そして、ジュエルキングダム側が先に攻撃を仕掛け、罪のない連邦兵を他国の騎士に襲わせたのだと、事実を歪めて吹聴した。 もちろん、それは真実とは程遠い主張だった。 しかし、たとえ偽りであったとしても、強大な国が声高に訴え続ければ、国際社会は無視することができない。ましてや、当事者の一方が名も力もある大国で、もう一方が小国となれば、発言力の差はあまりにも大きかった。 さらに、ジュエルキングダムにとって不利に働いたのが、事件の場にいた師匠の立場である。 彼女はジュエルキングダムに仕える騎士ではなく、他国の王国騎士団長だった。 どれほど正当な救援であり、目の前の命を守るための行動だったとしても、一国の騎士団長が別の国の兵士を打ち倒したという事実は、外交上、極めて大きな問題となる。 ベーヤ連邦は、そこにつけ込んだ。 ジュエルキングダムが他国の軍人を利用し、連邦へ武力行使を仕掛けたのだと主張したのである。 師匠の祖国まで巻き込めば、争いは二国だけでは収まらない。下手をすれば、より大きな戦火へと発展してしまう。 当時のジュエルキングダムは、大国を相手に戦争を続けられるほどの力はない。 ゆえに、それだけは。どうしても避けなければならなかった。 多くの命を守るため。 これ以上の争いを避けるため。 王国は苦渋の決断を迫られた。 賠償という名目のもと、坑夫たちが命を奪われた発掘場を、ベーヤ連邦へ引き渡すことになったのである。 民を殺され。 国土を奪われ。 それでもなお、加害者として頭を下げなければならない。幼いルビィには、その理不尽さが理解できなかった。 ただ一つ、はっきりと分かったことがある。 優しいだけでは、大切なものを守ることはできない。 正しいだけでも、国は守れない。 力がなければ、どれほど大切に思っていても、愛する人々は奪われてしまうのだ。 この日、発掘場に満ちていた血の臭いも。 助けられなかった者たちの顔も。 悔しさに震える師の背中も。 ルビィは、生涯忘れることがなかった。 ■■■ 「あのとき、わたしはあまりにも無力でした。師匠(マスター)にも、大きなご負担をかけてしまいましたから……」 「……つらいことを思い出させてしまって、すまないね」 クロムは申し訳なさそうに目を伏せた。 「だが、これから話すことにも深く関わっているんだ。ルビィ。どうか、覚悟して聞いてほしい」 いつになく重い父の声音に、ルビィの胸がざわめき、ごくり、と喉が鳴る。 「ベーヤ連邦から、一つの提案があった」 クロムはそこで言葉を切り、苦々しげに眉を寄せた。 「……いや。提案などという生易しいものではないね。あれは、ほとんど強要だ」 「強要……ですか?」 「ああ。君と、連邦のデーブ皇子を婚姻させたうえで、ジュエルキングダムを連邦の傘下に加えろと言ってきた」 耳を疑うような話だった。けれど、クロムの表情はどこまでも険しい。 「要求を受け入れなければ、三年前の報いを受けてもらう――ともね」 「――そんなっ! そもそも、あれは向こうが仕掛けてきた侵略ではありませんか!」 ルビィは思わず声を荒らげた。あまりにも身勝手で、おぞましい要求だった。従わない者には武力をちらつかせ、恐怖によって屈服させる。いかにもベーヤ連邦らしい、卑劣なやり口である。 しかも、デーブ皇子は四十代後半だったはずだ。対するルビィは、まだ十五歳。親子ほども年の離れた男性のもとへ嫁ぐなど、想像しただけで背筋が凍る。 「ああ。だが、彼らの中では、三年前の事件もこちらが先に仕掛けたことになっているらしい」 クロムは深いため息をついた。 「まったく、嫌になるよ。国を滅ぼされたくなければ、手塩にかけて育てた娘を差し出せ――だなんてね」 「……」 「だが、ルビィ。僕は、この要求を受け入れるつもりはない」 「えっ……?」 ルビィは顔を上げた。 「でも、それでは……!」 「そうだね。おそらく、戦争になる」 クロムは静かに言った。その言葉には、国王としての覚悟と、一人の父親としての苦しみが滲んでいた。 「それでも、今回の要求はあまりにも馬鹿げている。アイオリットが不在だからといって、彼らはこの国を侮っているんだ」 そして、娘を安心させようとするように、わずかに微笑んだ。 「だが、大丈夫だよ。今のジュエルキングダムには、百年に一人とも言われる『宝石騎士』が、三人もいる。そう簡単に敗れはしないさ」 その言葉を聞いても、ルビィはすぐには答えられなかった。 望まない相手との結婚など、もちろん嫌だ。けれど、王女として生まれた以上、いつかは姉のトパーズと同じように、国のための婚姻を求められる日が来る。 幼い頃から、そう覚悟していた。 それでも父は、一度たりともルビィを政略の道具として扱わなかった。 『ルビィは、自分が心から好きになった人と結婚しなさい』 そう言ってくれていた父が、断ると決めているにもかかわらず、この要求についてルビィへ打ち明けた。 きっと、彼も迷ったのだ。 国を守るのか。 娘の幸せを守るのか。 その二つを天秤にかけ、幾度も悩み抜いた末に、それでも娘を差し出さない道を選んだのだろう。 国王として見れば、正しい判断ではないはずだ。たった一人の娘を守るために、国全体を戦火へ巻き込もうとしているのだから。 けれど、一人の人間として。 一人の父親として。 クロムは、ルビィの幸せを選んでくれた。 「お、お父様……」 胸が締めつけられる。父にそこまでの決断をさせておきながら、自分だけが何もせずに守られていてよいはずがない。 「でしたら、わたしが……わたしにできることであれば――」 「やめなさい」 クロムが、強い口調で遮った。普段の優しい父からは想像もできない声だった。 まるで、続く言葉など聞きたくないと訴えているかのようだった。 「君が犠牲になる必要はない。望まない相手との結婚など、僕は絶対に認めない」 一瞬、その気迫に押されそうになる。それでも、ルビィは挫けなかった。 国を想う心。 民を守りたいという願い。 そして、愛する家族を危険にさらしたくないという気持ち。 そのすべてを胸に抱き、ルビィは大きく息を吸った。 「わたし……わたしがっ!」 「駄目だ! 望まない結婚など、絶対に――」 「親善試合で優勝して、考えを改めさせますっ!」 「…………は?」 クロムの声が止まった。 「え、ええと……ですから、親善試合で優勝します!」 「……親善、試合?」 「はいっ!」 「結婚するのではなく?」 「しませんっ!」 「デーブ皇子のもとへ嫁ぐと申し出たのでは?」 「どうしてそうなるのですか!?」 「いや、だって今の流れなら、普通は……」 クロムは困惑したまま、何度か瞬きを繰り返した。 「……えっ? 親善試合?」 「親善試合ですっ!」 「…………なんて?」 「ですから、親善試合で優勝しますっ!!」 ◆◆◆ 要するに、ルビィの考えはこうだった。 ① 他国との親睦を深めるという名目で、各国の精鋭を招いた親善試合を開催する。当然、ベーヤ連邦にも参加を呼びかける。 ② その大会で、王女であるルビィ自身が優勝する。ベーヤ連邦にジュエルキングダムの力を見せつけると同時に、ほかの国々との結びつきを強め、有事の際には援軍を要請できる関係を築く。 ③ そして何より、一騎当千の王女に三流の皇子など釣り合わないのだと、圧倒的な格の違いを思い知らせる。 簡単にまとめれば、そういう作戦だった。クロムも、なるほど妙案ではあると思った。 武力による恫喝に対し、こちらも戦争で応じるのではなく、国際的な催しの場で国力と威信を示す。さらに各国との外交関係まで強められるのであれば、得られるものは大きい。 ただし――それは、ルビィが優勝できれば、の話である。優勝を前提としている時点で、あまりにも大胆で突拍子のない提案だった。 ルビィは百年に一人ともいわれる宝石騎士のひとりである。 けれど、まだ十五歳になったばかりの少女だ。実戦経験も決して多くはなく、そのうえ誰かを傷つけることを好まない、心優しい娘でもある。本来であれば、父としても国王としても、すぐに却下するべきなのだろう。 しかし、クロムは何も言えなかった。 ルビィの瞳が、あまりにも真剣だったからだ。ルビーを溶かし込んだような紅い瞳には、迷いも恐れも浮かんでいない。胸に抱いた覚悟を映すように、まっすぐな光が宿っていた。 これは思いつきなどではない。 誰かに守ってもらうだけではなく、自分の力で国と家族を守りたい。そのために彼女なりに悩み、考え抜いた末に出した答えなのだ。 クロムはしばらく娘の顔を見つめたあと、ゆっくりと息を吐いた。 「この筋書きを現実にするには、君が親善試合で優勝しなければならない」 その表情から、いつもの柔らかな笑みが消える。そこにいたのは、娘を案じる一人の父親であると同時に、国の未来を預かる王だった。 「相手は、各国から選ばれた精鋭たちだ。宝石騎士である君を警戒して、相応の実力者を送り込んでくるだろう」 「はい」 「簡単な戦いにはならない。それでも――やれるんだね?」 クロムは、かつてないほど真剣な眼差しで愛娘に問いかけた。 その問いを受け、ルビィは一度だけ大きくうなずく。そして再び、花がほころぶような笑顔を浮かべた。 臣民から『微笑みの天使』と呼ばれる、愛らしくも眩しい笑顔。けれど、その瞳に宿る自信は、決して幼い強がりなどではなかった。 「もちろんです!」 ルビィは胸の前で両手を握り、曇りのない声で言い切った。 「だって、わたしはお父様の――」 そこで、ほんの少しだけ言葉を止める。 王女としてではなく、一人の娘として。 ルビィは、とびきりの笑顔で続けた。 「パパの娘だもんっ!」 ■■■ どん、どん、と晴れ渡った空に花火が打ち上がる。 色鮮やかな光が昼空を彩り、大きな音が会場いっぱいに響き渡った。それを合図に、ジュエルキングダム主催の親善試合が、いよいよ幕を開ける。 広大な会場には、招待を受けた各国の王侯貴族や騎士、名のある勇者たちが集っていた。 無数の視線が注がれる壇上で、ルビィは緊張した面持ちのまま、そっと息を整える。 人前に立つことには慣れているはずだった。それでも、生来の照れ屋である彼女にとって、これほど大勢を前にして挨拶をするのは、やはり落ち着かない。 けれど、今日はジュエルキングダムの第二王女として、この場を立派に務めなければならない。 ルビィは胸の前で重ねていた手をほどき、凛と顔を上げた。 「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。ジュエルキングダム第二王女、ルビィ・コーラルハートです」 澄んだ声が、静まり返った会場へ響き渡る。 普段のあどけなさは影を潜め、ひとつひとつの言葉を明瞭に紡ぐ姿には、王女としての気品と、少女ながらに人々を率いる者の風格があった。 その様子を見守る者たちの間から、感嘆のため息が漏れる。 けれど、挨拶を続けながら、ルビィの意識は会場の一角へ向けられていた。 彼女の視線の先にあるのは、ベーヤ連邦の皇族たちが座る天幕である。 豪奢な椅子に深く腰掛け、一人の中年男性が偉そうにふんぞり返っていた。 デーブ皇子だ。 手入れの行き届いていない頭髪に、脂の浮いた顔。贅沢と不摂生を重ねたことがひと目で分かる、だらしなく膨れた身体。 しかし、ルビィが何よりも不快に感じたのは、その容姿ではなかった。 デーブ皇子は開式の挨拶になど、ほとんど耳を傾けていない。 ルビィの顔から身体へと、まるで値踏みでもするかのように無遠慮な視線を這わせ、下卑た笑みを浮かべている。 その視線を受けた瞬間、ルビィの背筋にぞわりと寒気が走った。 (あんな人の奥さんになんか、絶対になりたくないっ!) 心の底から、そう思った。羞恥と嫌悪感に頬が引きつりそうになる。 けれど、その感情はすぐに、負けてなるものかという強い決意へと変わっていった。 ルビィはもう一度、会場全体を見渡す。紅い瞳に宿る光は、先ほどよりもいっそう力強く輝いていた。 「それでは、ただいまより――ジュエルキングダム主催、親善試合を開催いたします!」 凛とした宣言に、会場の空気が震える。 「各国のさらなる繁栄と、末永い平和を願って。そして、本日この場に集われた皆様のご健闘をお祈りし、開式の言葉とさせていただきます!」 ルビィは最後に、王女らしく優雅に一礼した。 「皆様、本日はどうぞよろしくお願いいたします!」 その言葉を合図に、会場中から割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。 鳴り響く喝采。 熱気に満ちていく観客席。 各国の誇りを背負い、闘志を燃やす勇者たち。 その中心で、ルビィは小さく拳を握りしめた。 国を守るため。 家族を守るため。 そして、自らの未来を、見知らぬ男の手から守り抜くために。 絶対に負けない。 胸の内で固く誓った、その瞬間だった。 まるで彼女の意志に応えるかのように、胸元に宿るパーソナルジェム『ルビー』が、淡い紅の光を放ち始める。 それは炎のように激しく燃え上がる輝きではない。 けれど、どのような困難にも決して屈しない、ルビィの優しくも強い心を映したような、まっすぐで美しい光だった。 決して負けることのできない彼女の戦いが、今ここに始まろうとしていた――。