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【少女ともう一度歩く魂】ゾル

ここに、私とエミリーのこと、記す。 私、ゾルって言う。でも本当の名前じゃない。この体も、本当の体じゃない。 この体はエミリーの。魂は私の。 私は魔族。「ソウルテイマー」っていう。 人の魂を奪って自分の力にする。そうして生きる。 ちゃんとした体はない。魂で作った青白い虚像が、私の本当の体。 私がこの体を手に入れることになった話。 気付いたら、魔物の森をさまよってた頃。人間界と魔界のゲートを出てすぐのとこ。だから、人間を狩りやすかった。 ゲートからエミリーって子がやってきた。白いひらひらした服をきた、綺麗な子。狩るつもりだったけど、助けを求めてきた。言葉、よく分かんなかったけど。 いろいろ話を聞いた。村でいじめられたこと。魔女だと思われたこと。死にそうになったこと。「魔女狩り」って言うらしい。 魔界には魔女たくさんいる。なんで狩られるのか私はよく分からない。 私、森の住人と一緒に守った。スライムとか、人狼とか、色んな住人と一緒に。沢山すごした。私は言葉、よく分からなかったけど、いっぱい一緒に過ごしてくれた。言葉も少しずつ教えてくれた。湖で一緒に遊んだの、楽しかったな。 エミリーは魔女じゃなかった。魔法も知らないし、魔力もなかった。エミリーの村の人間は勘違いしてた。 1ヶ月くらいしたとき。エミリーの体調が悪くなりだした。森の住人と協力して、薬草とか、回復薬とか、いっぱい集めたけど、良くならなかった。みんなで治す方法考えたけど、だめだった。 エミリーの咳が酷くなって、血も吐くようになった。みんなでお金集めて、もっといっぱい薬を集めた。やっぱり良くならなかった。 すごく苦しそうなのに、何も出来ないのが悔しかった。 スライムたちから、エミリーがもう長くないって教えられた。辛かった。いつも人間を狩る時は何も思わなかったのに。普段から何も感じないはずなのに、自然と涙が出てきた。 エミリーは呪われてた。人間から。村から逃げる時に呪いをかけられたみたい。薬じゃ直せない。不治の病みたいなもの。 エミリーが私と一緒に遊んだ湖に行きたいって言った。エミリーはもう歩けなくなってた。もう遊べなくなってた。瀕死のエミリーを抱えて湖に行った。「もっと生きたい」「一緒に遊びたい」って言った。それが最後。エミリーは動かなくなった。 どれだけ泣いたか分からないけど、その後。私は考えた。「もっと生きたい」っていうエミリーの願いごと、叶えてあげたいって思った。エミリーの体から離れていくエミリーの魂。すごく強い力を持ってた。「もっと生きたい」っていう力を感じた。 死んだ人間が生き返らないのは、私がよく知ってる。死んだ魂は、私みたいなソウルテイマーに取られるか、天に還るかのどっちか。 だから、エミリーの魂をもう一度体に戻すことは出来ない。 私はエミリーの魂を吸収して、エミリーの体に入ることにした。ソウルテイマーの体を捨てて。私の中でエミリーは生き続けて、私はエミリーの中で生きる。そうすることにした。 エミリーの体に入って、住人の元に戻ったら、すごく驚かれた。治ったとか、生き返ったとか、なんで裸なんだとか。私が入ったって、説明したけど。 私が入る時に、エミリーの体が熱く、燃え上がって、服が無くなってた。私の魂の力のせいで、体から炎が出るから、住人からマントだけ貰った。今も着てる。大事。 私は人間のこと、もっと知りたい。生きていくため、あと、エミリーが死ななきゃいけなかった理由を知るため。人間はなんで他の人間を傷つけるのか、なんで「魔女狩り」っていうのが起きるのか、知りたい。 他にも、人間の生き方、考え方、楽しいこと、辛いこと、感情とか、もっと言葉も練習したいし、とにかく、人間が知ってることとか、学んでることとかは、全部知りたい。 そうすれば、エミリーが生きているうちにやりたかったこと、分かるかもしれない。 あとは、人間はなんで裸じゃだめなのかとか、人間の名前の付け方とか。「ゾル」って名前はソウルに点をつけてウを抜いただけ。エミリーとして生きるのは、違うから、自分で考えた。変かな。 私はこの体で、人間を知って、やりたいことをやる。エミリーがやりたかったことはまだ分からないけど、とにかく、興味のあることはなんでもやってみる。私の命はそのためにある。寿命が尽きるまで生きて、抱えてきた魂と一緒に天に昇って、向こうで思い出話をする。 それが、今の私のやりたいこと。