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【血塗れの黒薔薇】ゴシュトリア・ルージュ

かつて、栄華を極めた《イシュロッテ》という国があった。 そしてそこには、ゴシュトリア・ルージュという傭兵がいた。 一度彼女の微笑みを見れば、だれもが「美しい」と言葉を揃えた。 一度彼女が口を開けば、美しい声に耳を傾けた。 彼女が【R-rose】に乗れば、それは真紅のドレスを着こなすように見えた。 一度戦場に立てば、それは独壇場を華麗に舞うように見えた。 彼女は国の英雄となり、象徴的存在となり、こう呼ばれた。 【イシュロッテの赤い薔薇】。 国民的な美と力、そして名誉を持つ彼女にふさわしい二つ名であった。 やがて、彼女は出会うことができた。 身も心も捧ぐに足る、愛おしく、まさしく運命と呼べる相手に。 しかし、彼女は同時に得てしまった。 代え難く、失い難く、愛おしい存在を。 ある日、彼女は緊急コールを受け、仲間とともに遠征より急ぎ帰還した。 そこで彼女たちが見たものは。 祖国より立ち上る黒煙と揺らめく陽炎。 祖国は、祖国の民は、そして何より愛したその人は。 撃たれ、斬られ、焼かれ、燻られ、潰され、弄ばれ、蹂躙され。 赤く染まっていた。 彼女たちは、見ずとも悟ることができた。 手遅れだったのだ。 国のため。国民のため。彼のため。彼のため。彼のため。彼のため。 失い難いすべてを失い、彼女は怒り狂った。 怒りのままに敵を葬り、機体から這い出た騎手までも惨殺した。 次々と同胞が倒れゆく中、 彼女だけが、骸に覆われた祖国の地に立っていた。 一夜にして、彼女の手によって572枚の花弁が散った。 こうして、彼女の世界は、幸福は、日常は、一夜にして無に喫した。 彼女は変わってしまった。 彼女の美しい顔から笑顔は消え失せ、 その美しい舞踏からは気品が失せ、鬼のような荒々しさが顔を覗かせ、 彼女と共に在った【R-Rose】の鮮やかな赤は更に瑞々しい赤に染まり、やがて黒ずんでいった。 後に兵たちは変わり果ててしまった彼女を恐れ、こう呼んだ。 【黒い薔薇】。 今夜も、彼女は行場のない怒りと喪失感、そして自らの魂をうずめる地を探して彷徨っている。 黒い薔薇。その花言葉は、復讐、永遠の誓い。 そして。 不滅の愛。