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マオ・ラン

幼い頃、物心ついたのは姉が『捧げられた』時だった。村のしきたりだったし、古くからの神との約束だった。1年、年若い女子を『捧げる』……下らない因習だよな? 破れば村を飢饉、災害が襲う。だから、仕方ない。そう、自分を騙し続けていた。 心の内にモヤモヤと残っていたモノ、食われた姉、妹、女の友人の1人……全て、傍で見ていた。 神、とやらは……最初に食われていく姉を見た俺が泣くでもなくただ、ひたすら呆然としていた事を気に入ったのか、村の知り合いが、友人が、肉親が食われている様を見せ付けていた。俺は、何も出来なかった…… 何かが変わったのは……9歳の時ある旅僧が来た時、あの時、村は露骨に旅僧を除け者にしていたと思う。 俺も決して近ずくなと言われていた、だが、ガキはルールを破りたがるもの、俺は宿にこっそりと向かって、尋ねた。 「アンタ、神様って信じてるか?」 「神様…と言うよりは、仏様を私は信じているよ。」 「ふーん、変なの。神様は居るのに。」 「フフフ、君も何れ分かる。考え方なのだ。そういえばこの辺りには守り神の伝承が語られていたね……だからかい?」 「……神様、居るよ?」 「ん?」 「だから、神様はいるの。」 その後詳細を話した時、その僧の顔はどんどん青ざめていってたなぁ……その後に、僧に、村を出ないかと、誘われたんだった。 すぐに返事をしなくてもいいから、だから興味があるなら3日後来なさい。来無いならば2日後来なさい。とね。 親に話した後、そりゃもう反対されたわ、なんなら罰だとか言われて縛られて、縄で打たれたんだ。 んで、まぁ… 2日経てども、3日経てども来やしない俺を心配してくれたのか、僧は俺の家を尋ねたんだ。勿論両親は縄打たれた俺を出す訳もない。それに僧を嫌ってたしな。烈火の如く拒絶してたのは分かる。怒声が響いてたし…… ま、だからこそ怪しんだ僧侶は俺を掻っ攫って逃げてくれたんだけどな。まぁ出る時1悶着あったのは覚えてるが、ハッキリとは覚えてねぇ、すまん。ただ、気付けば街に着いていたのは覚えている。 大きな街へ初めて来た俺は、先ず常識を教わった。読み書き、算術、地理、そして仏の教え…僧侶は、俺の先生見たいだったな… そこで、彼処が腐った邪神の村だと気付いたんだ。自分でも恐ろしいねぇ…だって親しい人が殺されるのを見て「当たり前だ」と思ってたなんて。 まぁ、当たり前なんて人それぞれだってのはそうだが…んで、俺はあの神とやらをぶっ倒したいという欲を持ったんだ。 だから、鍛えて、槍を持った。 鍛えて、鍛えて、死ぬほど、血反吐を吐けども吐けども、尚鍛えた。一点、ただ一点を貫く為に。 かくして俺は少年時代を終えたわけだ。 言い忘れてた…俺は名を貰った。腐った村の親に付けられた名前を棄てて、僧侶に。 矛や槍の冴えがまるで嵐のようだからと マオ ラン(矛 嵐)という名を。 他にも字やらなんやらはあるが省く 俺は、武を鍛えた。数々の相手と死合ったり、猛牛を投げ飛ばしたりした。 夜遊びもした…生憎と俺は色男だったもんでね そして俺にも自信が付いたんだ。之ならば神を殺せるのでは、とね。そこで、俺は仲間、を連れて村に行ったんだよ。 結論から言おう。惨敗した。何もかもへしおられた。仲間も、俺も…惨めだった……奢っていたのだと分からされた。 この槍は、仲間が最後に俺に託した槍だ。 命をとして造られた槍…それでも、勝てなかった。為す術もなく。負けた。 だが、神は俺を嘲嗤い、俺を覚えていたのか、放って棄てた。負けた証を刻み込むように、目に呪いを刻んで…… 俺は、もう全てがどうでも良くなっていた。 敗走し、そして女と酒に溺れ、やさぐれていた。罪もそれなりにやった。暴力的に振舞っていたと思う。 周りの者の薄汚れた心全てが見えてしまったから、もう自分が違うのだと、何もかも、何もかも…全部がどうでもよかった。 敗走した俺は唯の負け犬だった。 僧侶は、すっかり老けた手で、俺を殴った。 軽くて、重い一撃だった。頬を引っぱたかれた感触を今も覚えてる。何度も何度も、何度も何度も… 俺は抵抗しなかった。僧侶の心は、余りにも、余りにも優しさで包まれていたから。 余りにも俺を想いながら殴っていたから… 僧侶は淡々と言って、何かを投げつけてきた。 「之をくれてやる、出ていけ。」 それが、この布なんだよ。 まぁそこから俺は…立ち直るしか無かったわな、無理やり自分を奮起させて、槍を振るい、鍛錬に明け暮れた。1分でも1秒でも早く、あの邪神を貫く槍を完成させる為に。 だから、俺は世界を回った。砂の国、雪の国、山の国、島の国…西洋にもいった。色々な人がいて、色々な武があった。そして、色々な感情があった。 俺は、5年の時が経った時、帰る決意をした。武を磨き、槍で心臓を貫く事だけを鍛えた。慢心も、油断も無かった。 だから、準備は怠らない……予定だったんだが…… 偵察ついでに村を覗いた時、少女が、今正に、『捧げられ』そうになっていたんだよ。 体は勝手に動いていたね、直ぐに一団の後を付けて、気付けば神に捧げられる寸前まで行った。そこでもう腹括って、俺は飛び出した。 後は………案外、勝負は一瞬で付いた。 人生の積み重ねた経験、自分の技の技量、才能……文字通り、全てをかけて、俺は邪神の心臓を貫いた。 だが、俺は最後、余りに人の身に余る、神を殺すレベルの技を使ったせいか、五体が砕け、十日十晩、生死の境をさまよったんだよ。 まあ、これでハッピーエンド。ってやつかね…すまんな、之はただ、誰かに聞いて欲しかっただけなんだ。こんな長々語って悪かったよ。 それじゃ、いってくるわ。