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《雨の公爵》シトレイナ・シトール

シトレイナ・シトール 身長:167cmくらい 体重:62kgくらい 体型:痩せ型 【プロフィール】  シトレイナは、《潤いの女神》ネプルー・ルルの支配下にある『潤いの土地』を治めている三人の公爵の一人だ。  秀麗な水色のポニーテールが目を引く、うら若き娘のようにも見えるが……。  しかしながら彼女は《潤いの女神》ネプルー・ルルの幼馴染であるともいわれている。女神ネプルー・ルルは悠久の時を生きてきた水神であり、故にシトレイナ公の年齢もそれに準ずるのであろうことを鑑みれば、実年齢は——(メッセージはここで途切れている)  他にも二人の公爵はいるのだが、それがサボりがちの老人たる《海の公爵》と、やる気はあっても暴走気味な若い《泉の公爵》であるために、シトレイナ・シトールという三人目の公爵はつまり消去法で、三公爵の「まとめ役」になっていた。  そんなシトレイナ公は、もっとも民衆から支持を得る優秀な指導者であったようだ。 【生い立ち】  彼女シトレイナ・シトール公は今でこそ高貴な身分として扱われているが、生まれ出でた時こそは全く名も無き少女であった。  田舎のデルパ村という小村にて行きずりの男女の間に産み落とされ、気付いた時には両親もとうに亡く、他人の家の犬小屋に住まわせてもらう日々を慎ましく送っていた村一番の青髪の美少女……。  それが在りし日のシトレイナ公の姿である。  そんな彼女の人生が大きく変わったのは、みじめな生活を続けていたあくる日の晩であった。  いつものように草粥で夕飯を済ませ、番犬のハウンドリと共に眠りにつこうとしていた青髪の少女であったが、その日は少し違っていた。  腹が減ったのである。それもどうしようもなく。  体の小さい頃はまだどうにかなっていたが、少女はもう10歳の年齢に差し掛かっていた。食べ盛りとは恐ろしいのである。  番犬のハウンドリと一緒では窮屈に感じられてきた犬小屋を、ハウンドリにも内緒で抜け出して、そして灯りもない夜の外へと歩き出した。  実はその日の昼、猟師のダグザさんが森から猪を狩ってきていたのを少女は見ていた。  あれを丸ごと食べられたらどれだけ幸せだろう、と軽く50回は思ったのだ。その後ダグザさんの家から漂ってきた焼き肉の匂いを……それが鼻をつんざく感覚を、少女はまだ忘れきることができないでいた。  つまりは、そう、少女は、猪肉を手に入れるために危険な危険な夜の森へと足を進めていったのである。  そして結果は次の通りだ。 「たっ……助けて! 助けてぇ〜!!」  火さえあれば獣は襲ってこない、などと聞き齧ったその知識は間違いであったと少女は思い知った。  唯一の命綱として持ってきていた松明は、しかし期待された効果二つのうち『灯り』という一つの効果しか発揮していなかった。  そして今、少女が追われているのは皮肉にも食らいたいと願っていた猪だった。  少女は松明以外に武器らしい武器を持っていない。このままでは猪を食らうどころか食らわれてしまうだろう。 「あうっ!?」  少女は、こけた。  ただでさえ足場の悪い森。不運にも木の根に足をつまづかせた少女はそのままの勢いで地面を舐めてしまった。  だが気絶などしている場合ではない。  猛突進してくる猪が、すぐそこまでに来ているのだ。  少女は急いで立ち上がろうとするが、恐怖からか足がもつれてうまく立ち上がれず。  ここで死ぬ——!?  そう感じた少女が目を瞑った、その時であった。 「今日の晩飯ィー!」  ズガァンッ!!  と、ソレは猪の脳天を割り、その下の大地すらも割り。そして側で見ていた少女の肌をも震わせる強い一撃だった。  その一撃の主は、地肌に食い込んだ鋼の大剣を片手で担ぎ上げ、血振りをするまでもなく速やかに鞘に戻した。  そして空いている方の手は、既に死に体となった猪の首根っこをつまみ上げるのに使われていた。 「"女神様"よぅ! 今日の晩飯は猪の肉でよかったんですかねぇー!?」  その声を、少女はデルパ村の中で聞いたことがなかった。粗野そうな、けれども誠実さも感じさせる不思議な声。  一体、誰なのだろう。  まだ地面に這いつくばっていた少女はどうにか起き上がって、松明をかざして姿を確認した。  ——大男。  その言葉が似合う男であった。  そしてその大男の粗野な声には似つかわしくない、キレイで美しい声がどこからか聞こえてきた。  「良くないよー! もう! シェブリちゃんったらすぐに命を奪っちゃうんだから! メッ! だよ!」  語気からして青髪の少女と同じ……いや、ソレより少し幼いくらいだろうか。その幼女が雑木林をかき分けて、少女にもわかるように姿を表した。 「め、女神様……?」  その幼女は、見るにも神秘的な衣装に身を包んでいた。それこそ『女神様』かと見紛うほどに。  少女がその存在に見惚れていると、どうやらその2人も、この見すぼらしい青髪の少女の存在に気がついたようだった。 「うぉ、びっくりした」 「あれっ、どうしてこんなところに人間の女の子が……?」  大男と女神様。そのどちらも、少女にとっては超常的な存在である。そんな2人に見つめられた少女は、子鹿のように足を震わせていた。  女神のような幼女があっけからんと言い放つ。 「……あれ? ひょっとして人間さんじゃなくて子鹿さん……?」 「バカ女神。人間と鹿の見分けくらいつけろ」  女神に対しても辛辣にツッコミを加えた大男は、転んだままの青髪の少女へとゆっくりと歩み寄っていく。 「ひ、ひっ……!」  あれだけ怖かった猪を一撃で仕留めてしまうような大男が、ズカズカと詰め寄ってくるのだ。悲鳴の一つが漏れてもおかしくないものだが、大男はその怯えた声には気づかなかったようである。  彼はそのまま少女の前に立膝をつくと……。 「ひゃ、ひゃいっ!?」  少女は突然の浮遊感から、おのずと変な声をあげてしまっていた。  大男が、少女を担ぎ上げたのである。  お姫様抱っこならよかったのだが、生憎、彼の片手は猪の屍体で塞がっていた。故に少女はもう片方の肩で担がれていた。  大男は難なく言った。 「どうせデルパ村のガキだろ? 森に迷い込んだのか。しょうがねぇから、送ってやる」  その言葉を聞いた女神のような幼女は、唄うように言った。 「ふふっ、同じ種族だからって人間にだけは優しいのね。シェブリちゃん」  その後は、青髪の少女は大男の肩に揺られながらデルパ村に帰り着いた。  「お父さんがいたら、きっと毎日こんな感じで抱っこしてくれるんだろうな」と間違った見識を植え付けられながら。  無事に、村へと辿り着く。  ただ村に帰っても、シトレイナの帰りを迎える者は誰一人としていなかった……。  後で知った2人の名前。  大男は《涙の騎士》シェブリ・ネブリス。  幼女は《潤いの女神》ネプルー・ルル。  女神ネプルーは、一人前の女神として認めてもらうために各地で旅を続けているのだそうだ。そしてシェブリはその護衛であると。  少女は、助けてくれた2人にお礼がしたかった。だがお礼ができそうな物など、乞食同然の少女には持ち合わせがなかった。  なので、言った。 「私が、あなたの剣になります!」  あの時、少女を猪から守ったのは剣であった。だからこそ、同じようにシェブリを守れる日が来るように。 「ならば力を見せてみろよ」と言うのはシェブリだった。  少女が剣を振るって、シェブリが少女の太刀筋に才能を感じれば旅への同行を許すらしい。  だが剛力のシェブリにとって細身の剣などは持ち合わせがない。故に、少女はシェブリが常用している大剣を振るわなければならなかった。 「ふんっ……! ふんぐぐぐっ! ……ハァハァ」  少女が渾身全力を尽くしても、シェブリの大剣は地面に突き刺さったままびくともしなかった。  数十秒、それを見ていたシェブリは呆れたようにして大剣を引っこ抜いた。 「とんだ茶番だったな。地面に刺さったのすら抜けないんじゃあ論外だ——」  結局、少女は女神の旅に同行することを許されなかった。  だが。 「——勝手に着いてくんな、って言っただろうが!?」  来る日も来る日も、少女は旅に着いて行った。  そしてその度に「もう一度剣を振らせてください」と頼むのである。シェブリは頭ごなしに断るのだが、女神ネプルーが「やらせてあげたらいいんじゃない?」と言ってしまう手前、やらせないわけにもいかないのがシェブリ・ネブリスなのである。  そんな六度目の朝だった。 「や……やったー! 抜けた! 剣が抜けましたよー!!」  ようやっと、青髪の少女は地面に刺さった大剣を抜くことができるようになったのである。 「バカか、まだだろうが。今度はそいつを振ってみろ」  辛辣ながらも、シェブリはしっかりと茶番に付き合っていた。 「ふ、ふんっ!」  青髪の少女が勢いよく大剣を振るった! ……と、言えればよかったのだが、それはお世辞にも「良い太刀筋」とは言えなかった。剣速は遅く、ヘニャヘニャな軌道で、刃の向きもさんざんばらばら。  しかも……。 「……すみません、シェブリさん。また地面に刺さっちゃいました……抜けません……!」  少女は剣を振るうと言うよりも、剣に振り回されていた。  実は、この日少女が初めて大剣を抜くことができたのは、シェブリがわざと浅く刺していたからだった。自重で深く突き刺さった大剣は、今度こそ少女の力では抜けなかったのだ。 「……チッ。貸してみろ」  シェブリがそう言うと、少女は一歩引く。 「す、すみません……」  シェブリに剣を抜いてもらうという行為は、いつもならば試練の終了を意味していた。  だが今日は違った。 「よく見ろガキ。俺とお前じゃ握る場所が違うんだ。どこをどうすれば良いのかって、その諦めの悪い脳みそで次までに考えとけ」 「えっ……は、はい!」  次回に向けてのアドバイス。そんなものを送られたのは、少女にとって初めてだった。  それ即ち、「明日も来い」と言外に言われているようなものだ。 「や……やったぁー!」  両手を挙げて喜ぶ少女。  それを傍目に見た女神ネプルーは、クスクスと笑っていた。 「どうやらあの女の子とは長い付き合いになるみたい……なら、名前が無いと不便よね」  そう思った女神ネプルー・ルルは、青髪の少女にこう名付けた。 「シトレイナ」と。