私は……誰? 一面の砂漠、私は困惑する自分の頭を抱える。 「私は、一体……?、それに此処は……」 何も覚えてはいない。 記憶喪失、そんな言葉が私の脳を過ぎり、胸を深く突き刺した。 汗が噴き出る、気温の問題もあるが、嫌な汗であった。恐怖、未知に対する感情が私の心を張り裂くように締め付けてくる。 「わ、私は……誰…?」 答えの出ない疑問が、私の体を打ち鳴らす。 夜の砂漠は寒い、私は肩を摩り温める。砂漠を一歩、また一歩、風を浴びて進む。 私は立ち止まる、微かな物音が風に運ばれ私の耳元で囁く。少し違うか、これは何とも言えない…… "不快感" 私は飛び退く、勢い余って砂山を転げ落ちていく。先程、私が居た場所に誰が立っていた。 「「………………。」」 嫌になる静けさが両者の間を隔てる、次の瞬間……。 ______ダッ………ッ!? 相手が山を駆け降りる、速い。 男だ、私の知り得た情報はそれともう一つ……。 _____ドン………ッ!! 男の拳が脇腹を穿つ。男は強い、私なんかと比べ者にならない程に洗練された一撃、次は頬を殴られる。 「ゔっ……!」 頬骨を砕かれた感触が痛みとして伝播する、視界が揺らぐ。数歩、退く間にも息の仕方を忘れていた。 次に呼吸したのは腹を殴られた瞬間であった、肺から押し出された空気を掻き集めるかのように浅い呼吸をかろうじて繰り返す。 苦しくて砂漠にへたり込む、髪を掴まれ強引に顔を引かれる。 「うっ……うぅ、待っ……」 _____ベキ……ッ! 硬い感触が鼻から広がる、血が噴き出すように鼻から溢れて息ができない。過呼吸を起こした口が言葉にならない恐怖で満たされる。 「ヒュー……ヒォロロ………ヒュー……ヒォロロ……」 息が……苦しくて、砂の感触がする。血が砂漠を染める、鮮やかに染め上げていく。 視界が朦朧として、思考はあやふやで、感情はぐちゃぐちゃ、痛みは麻痺しているのか感じない、私は誰なのか分からない。 私、は……誰だっけ…………? _____グルン……! 脳が反転する、そんな感覚。常識が覆る、そんな認識。私が裏返る、そんな瞬間。 私は立ち上がる、反応の鈍い脚を引きずって立ち上がる。私は笑う、感覚のない頬を引き攣らせて笑う。私は分からない、今この瞬間の私が何をしたのか分からない。 ______バァン……ッッ!!! 拳が男の顔面を穿った、殴った衝撃が拳を伝い私自身にも伝わってくる。 何が起きたか分からない。 私は分からない、しかし私の体は知っている。 構えた、打った、そして……。