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均衡/能面の殺戮者

齢十二歳均衡は戦争により両親を亡くした。ただ空腹で爆撃により更地となった自宅周辺を彷徨っていると物乞いに襲われる。抵抗しようにも相手の方が体格も力も強かったのでどうしようも出来ず、ただされるがままであった。相手が均衡の命までもを奪おうとした時均衡は能力に覚醒する。安定させた拳による殴打で相手を殺害した均衡に残った感情は世界の無常さへの怨恨とどうしようもない虚しさだけだった。その後均衡は廃墟と化した街で、食事も要らなくなった身体と共にひたすら街を放浪した。いつまで経ってもどこまで行っても人の死体と建物の瓦礫ばかりの殺風景、精神を安定させていなければ均衡はとうに頭が狂っていただろう。いつしか街の終わりに辿り着き、それからもひたすらに歩き続けた均衡の耳に最初に聞こえてきたのは重たい鉛の玉が何発も地面に打ちつけられる音だった。幸いそこにいる兵士は均衡の国と同盟国であり、銃撃も訓練の一環であった。そこの兵士の一人からはからはかつて均衡が所属していた国家はとうに滅びていたと聞かされた。耳も疑ったが何よりも均衡にとって一番信じがたいことは、あの両親を失った忌まわしい日から四年も経過したと知ることだった。それからは兵士の勧めで均衡も戦いの日々に身を落とした。無表情で敵国兵を殺戮する様子は次第に敵国兵に恐れられ、能面の殺戮者という異名まで付けられた。彼はいまや世界の無常へと身を落とした。その無常では生きるも死ぬも無意味である。だとしたら彼が生きていることに何の意味があるのだろうか?何の意味もない。彼は今日も無慈悲に敵兵を殺していくばかりである。