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 父上と初めて喧嘩をした、そしてその仲直りが出来ぬまま出発してしまった。  「フィラ!、どこか掴まってろよ!、普段は5日かかる道のりを馬車が悲鳴を挙げるぐらい走らせてんだからな!」  すごく揺れる馬車の中、出発前にザックが手に入れたという最新の強化薬を馬に投与した結果である。  周りの風景が目まぐるしく変化し、徐々に見慣れた景色へと変わっていくのが分かった。  「あと少しで王国に到着するが、門はどうする予定だ?」  ザックの声に私はこう返す。  「私が破壊しよう、このまま馬車を全速力で走らせてくれ」  遠くに見える巨大な城門、私は剣を構えた。  父上から習った技だが、この一撃の使用は控えるように言われていた。  「すぅ……」  "___必死の一撃…ッッ!!!"  城門を吹き飛ばす一撃、馬車の勢いは止まらない、このまま城に突っ込むぞ!  しかし、周囲には倒れた人々が散見され、その誰もが感情を抜き取られたかのようであった。  「おいフィラ!、前に家があるぞ!」  「任せろ!」  ___必死の一撃ッッ!!!  これは常人ならば一生に一度しか放てない技であるが、私の場合は加護のおかげで日に数度だけに絞って使う分には問題はない。  城は目の前だ!、このまま行くぞ!  ___必死の一撃ッッ!!!  城壁を吹き飛ばし、そのまま馬車で侵入に成功するも瓦礫に車体が転がっていく。  「いててて……」  ザックは節々の痛みを伴いながらも起き上がる、どうにか全員無事である。  「貴様ら!、貴様らが城壁を壊したのか!?」  衛兵のお出ましである、ザックは酷く溜息をついた。  「やっぱ、こうなる…?」  フィラは剣を、サハスは槍を、ザックは薬品を構える。  戦いの火蓋は切られた。  「かかれ!」  衛兵が束になって襲い来る、しかし……あまり手応えがなかった。  なんだか、動きにキレがないのだ。  「奴らを止めろ!、我らが王に近寄らせるな!」  その言葉にフィラは激怒した。  「己の兵に十分な食事すら与えられぬ者を王と呼ぶのか!?」  敵は全員がやつれており、十分な食事を取れていない事など直ぐに分かった。  「黙れ!、我らを裏切った勇者風情が!」  しかし、聞く耳を持たない。  ___いや、ここは空腹でまともに物事が見えていないと考えるべきだろうか?  「ザック、サハス……出来る限りで構わない、気絶させて行くぞ!」  「それより良い方法がある!、合図したら奥の通路に逃げ込むぞ!」  ザックは複数の小瓶を取り出した。  「今だ走れ!」  兵士をくぐり抜け、奥の通路に到達したと同時に小瓶の割れる物音と咳き込む衛兵の声が聞こえてくる。  「何をした?」  「前に大量の調味料を入れられる魔法の小瓶を手に入れたんだ、中身はコショウさ。今頃は地獄みたいな事になってるだろうな」  「今回は褒めておく事にしよう」  想像しただけでムズ痒くなってきた、しかし今回はそれで助かったのも事実である。  そして、王に真偽を問わねばなるまい___。  私は、その為にここまで来たのだから……  王は直ぐに見つかった、私を追放した時より幾分か太ったように見える。  私は、ザックとサハスの二人には下がっていてもらう事にした。何故ならば、ここから先は私が決着をつけねばならない問題だからである。  「王よ、私を覚えているか!」  私は問いかける。  「はて?、誰だ貴様は?」  王は私を知らぬとばかりに首を傾げてみせた。  「何をふざけている!、お前の目は節穴であるか!」  私は激怒した、しかし王は笑う。  「ちょうどいい、もはや感情は食い飽きたところだ、ここから先は貴様ら人間を食べるとしよう!」  王の口元から黒い液体が滴るのを見た。  「何を……!?」  私は驚愕するしかなかった。  「ワシは……いや、我は考えたのだよ、魔族に対抗するには同じく我が身を魔族に作り替えるしか道は無いのだと……」  王の姿が変貌する、形容するならば巨大な猪のような肉の塊である。  獣は吠える。  「魔族どもを研究したが、どれも劣化が早くて保存が大変であったぞ。しかし、幾度となく失敗を重ねては魔力に対する研鑽を積んだ末、我はこの究極の肉体を手に入れたのだ!」  「くっ……!」  一撃をどうにか受け止めようとするが、吹き飛ばされる。  ___ズバァン…ッ!  嫌な音を立てて壁に激突した、何がどうなっているのかが分からない。  「我は、魔族を研究する過程で一つの発見をしたのだよ。この世が"原始"と呼ばれていた遥か昔、魔族は感情を糧に世界を支配していたのだ。この原始の魔力に関する研究は肉体の兵器化に大いに役立ったぞ」  異様な魔力の渦が……王の肉体を覆い、更なる強化をもたらしたのだ。  何がどうなっているかなど理解は出来なかった。しかし、一つだけ分かっている事があるとすれば、王は……畜生に堕ちていた、それだけは分かる。  「ず、随分と醜くなられましたね…王よ」  そう言うと、私は激痛の走る肉体を無理に立ち上がらせる。  「醜い?、我が……、ふざけるな!」  速い……ッ!?  咄嗟に防御姿勢を取っていた、私の剣が獣の一撃を捉える。  ___ズバァン……!!  どうにか剣で防ぐ、死闘の加護が私自身を強くさせる為に力を授けてくる。しかし、これは……  笑って動かない膝を奮い立たせ、私は絶叫しながら剣で一撃を弾き飛ばす。  ___ガギィン…!  どうにか気合いだけで拳を弾き返した、だが肉体の消耗が激しい……気づくと、次の一撃が迫り来ていた。  私は、無意識のうちに迫り来る攻撃に合わせて既に構えを済ませていた。  ___必死の一撃ッッ!!!  攻撃を攻撃で撃ち返す、そのまま獣の片腕ごと吹き飛ばす事に成功した。  「ハァ……ハァ…ハァ……ハァ…」  肉体が限界を訴えて片膝をつくが、加護の力でどうにか再び立ち上がる。  しかし、獣は悲鳴すら挙げていなかった。  「我の肉体はこの程度では死せず」  異様な魔力が獣を包み込むと破損した腕が瞬く間に再生していくではないか、私は苦笑いを浮かべて震えた剣先を御する。  「くっ……、本当に馬鹿げている…」  獣は嗤う。  「魔族どもを研究した果てに我は魔族となり、更には魔族すら超える生態系の頂点へと至った、そんな我を傷つける事など許さぬぞ!」  先程の比ではない速度の一撃に内臓が抉り潰され、そのまま背後へと吹き飛ばされる。  「かはっ!」  だが、死闘はまだ終わっていない。  吹き飛ばされる瞬間、私は怪物の腕に剣を突き立てていた。  「死闘は、未だに終わっていないぞ!」  怪物の腕を快音を響かせて切り裂く、それと同時に踏み込んで加速し、怪物の懐に入り込むと瞬時に腹部を切りつける。大量の血飛沫が勇者を真っ赤に染め上げる、しかし勇者は決して止まらない。  床から転がり出ると、怪物の背後に回り込んでは天高く飛び跳ねた。その続け様に怪物の背中に目掛けて己が剣を突き立てる、幾度か突き刺さした後に飛び退いて距離を取る。  そして___、  勇者は思いっきり加速を付けると怪物の全身を撫で切るが如く腕から足先にかけてを切りつけていく。  しかし、怪物は未だに倒れないばかりか尋常ならざる速度で傷が回復していく。  「無駄だ!、原始の魔力を生み出せる我には効かぬ!」  恐ろしいまでに再生速度が早すぎる、しかし……ならば!、私が更に攻撃の手を加速させていくだけだッ!  「死闘の加護よ!、私に勝利の喝采をッ!!」  私は叫んだ……ッ!!  それに応えるように死闘の加護が更なる力を授けてくる。普段は憎き加護の効能も、今の状況では頼もしいとばかりに思えたのである。  そして、喰らえ……ッ!  怪物に向けて、私は剣を振り上げた。  ___必死の一撃!  怪物の肉体を深く切り裂いた……だが、未だに足りてはいない…ッ!!、剣先を翻すと再び剣を振り上げた。  ___必死の一撃ッ!  まだまだ!  ___必死の一撃ッ!  怪物に刃を突き立てる、今の私ならば何度だって怪物に致命傷を与えてみせようッ!  ___必死の一撃ッッ!  ___必死の一撃ッッ!!  ___必死の一撃ッッ!!!  相手の再生速度が間に合わない程の一撃を何度も繰り出していく、私の肉体はとっくに限界を超えて悲鳴を挙げていたが立ち止まる訳にはいかないのだ。  喰らえ……ッ!!  ___必死の……ッ!?  肉体が限界を超えて血を吐いた、私は剣を手放し口元を押さえていた。  「ゲホ!、ゴホ!、ゲホ!、ゲホ!、ゴボ!」  息が出来ない、敵の攻撃が直ぐそこまで…!?  怪物の一撃が、私を殺すべく眼前にまで迫り来ていた。  しかし___、  瞬間、天井が破壊された。  ___バガァン…ッ!!  そこにいたのは父上、勇者の姿である。  「フィラッ!?」   剣を引き抜き、落下速度に身を乗せて怪物の脳天を突き刺した一撃。痛みに怪物は悶えるが、まだ勇者の攻撃は終わっていない。  「よくも娘を…!」  怪物の顔面に炸裂せしは勇者の一撃……ッ!!  ___必死の一撃…ッッ!!!  勇者の一撃が怪物を吹き飛ばした、防御不可能な斬撃に全身を深く切り刻まれていながらも怪物は未だに生きていた。  勇者は笑う。  「さすがに硬いな、いや……これは再生しているのか?」  怪物の肉体が高速で修復されていく、既に立ち上がれるまでに肉体は回復していた。  勇者の背後から娘の叫ぶ声が聞こえてくる。  「アイツは特殊な魔力を自分自身で生み出して再生できる!、だから実質的に不死身なんだッ!」  娘からの助言、ありがたく受け入れるとしよう。  だがな___、  「"魔王殺し"の前で、どこまで保てるか?」  怪物の一撃を剣でいなし、反撃で再び怪物を吹き飛ばす。  ___必死の一撃ッッ!!  全身を切り刻む一撃、怪物の肉体が斬撃の荒波に呑み込まれていく。  城壁に激突すると同時に、再び怪物は立ちあがろうとするが何故か立ち上がる事は出来なかった。  それもその筈だ、明らかに怪物の再生速度が遅くなってきている。勇者が獲得した"魔王殺しの権能"が怪物の不死性を打ち破ったのだ、このままでは勇者に殺されてしまうだろう。  勇者は剣を構えた。  怪物は無理矢理に肉体を動かすと、勇者に向けて突っ込んでいく。  「悲しい事に俺は未だに不完全かもしれない、だがな…お前を倒すにはこれで十分だ」  怪物に剣を向ける。  その時、看破の瞳が未来を捉えていた。  勇者は、咄嗟に退魔の剣を天高く掲げてみせた。  ___"今こそ真の名を知る時である!"  崩れた天井から落雷に酷似した光が勇者を射抜いた、強烈な光の後に剣を見上げると剣は新たな鞘に収まっていた。  「これは……」  疑問と同時に、勇者は脳裏に女神の姿を見た。  "確かにアンタに相応しい武具を送り届けたよ。"  まるで、あの女主人に酷似した女神様であった。  怪物の一撃を受け止め、鞘に収まった状態で怪物を殴り飛ばしてみせる。  ___バゴオン……ッ!!  そして、勇者は鞘から改めて剣を引き抜いた。すると、その刀身には真名が刻まれていた。  神聖文字だが、勇者は直感的に読むことができた。  それは___、  "___神殺し『ペパレス』"  女神の名を冠した聖剣である、ここに全ては完成したのだ。  勇者は構える、怪物は表現できない恐怖に震えていた。  これは___、  妻を救えなかった己の過ちを…!  そして___、  これは守れなかったリリィへの悔恨を…!  それから___、  これは、辛い思いをさせてきたフィラに対しての愚行……!  最後に___、  これは、決して忘れる事など出来ないマリアに犯した俺の消える事のない罪である。  "___それら全てを以て懺悔とする。"  「喰らえ怪物!、これが俺の……」  ___懺悔の一撃であるッ!!  天を切り裂いた一撃、怪物を両断する。  肉体が再生できない、怪物は両断された身を保てずに床へと音を立てて倒れ伏した。  「おのれ……、肉体が……」  万物を殺す権能"魔王殺し"に加え、神すら殺す剣"ペパレス"による一撃を受けたのだ。姿形を保てているだけでも奇跡である。  勇者は、怪物に刃先を向けた。  「あの世で懺悔でもしていろ」  最後に怪物の残骸を切り裂く一撃、その一撃により怪物は魂を破壊されてしまい完全に死亡した。  そして___、  それと同時に、王国の完全なる崩壊が決定した瞬間でもある。しかし、その事については少しばかり続きがある。  数年後、崩壊した王国を再建しようと立ち上がる者が現れた。  その名は………、  ___"フィラ・ラハト・ラブルステッド"  新たな女王の誕生である。  国民は新たな王を歓迎し、心より祝福していた。  女王は、城の自室にいた。  その右腕には赤ん坊が抱えられていた、可愛い双子の赤ちゃんである。  「ザック……、貴方にはこの子達を任せました。」  「はいよ、ところで……もう名前は決まってるのか?」  「えぇ、男の子の方は"ジョン・リベイル"、そして女の子は___」  ___"マリア・リベイル"  と、名付ける事にした。  旧友から取った名前である、きっと彼女が此処にいればこの事を承諾してくれた事だろう……そう、フィラは考えた。  それに打って変わり、どこかザックは心配そうな声を上げていた。  「でも、本当に良いのか?、母親のお前がいなくて……この子達にとって、それは…」  しかし、フィラは笑ってみせた。  「だけど、代わりにあなたが一緒に居てくれる。ずっと子供達を見守ってくれると信じているから、そうでしょ?、ア・ナ・タ♪」  なんと、この子達の父親はザックであったのだ。  「分かった、善処しよう。」  ザックは帝国に向かう、ただ今回は"ザック・リベイル"としての帰還である。  どうか、彼らの人生に祝福があらん事を……  私は王となった、理由は初代国王の孫娘にあたる人物だからである。あの一件以来、図らずも私は王位を継ぐ立場となっていた。  だから、父は提案したのだ。  リベイルの名をザックが引き継ぎ、私はラブルステッドの名を冠するという事を……  帝国とはザックが話を付けてある、リベイル家の保護と代価として勇者の国有化を認めた。  現在はザックが勇者代理を務めているが、あの子達が大きくなれば立派な勇者となる事だろう。  私は……それが楽しみでもあり、心配でもあった。  だが、そのおかげで帝国側から王国と魔王国との終戦を手助けしてもらえた。  今はまだ互いに憎しみ合うばかりの両者だが、きっと時間がそれを解決してくれると私は信じている。  そして、今から魔王国から来たというマリアの息子と初めて会うところである。  やはり、マリアに似て美人なのだろうか?、もしや意外とワイルド系だったりして?  そんなこんなで時間がやってきたのだ。  「は、初め…まして、ぼ…僕の名前はジュディーハート・センバルと申します。」  なんとも可愛いらしい少年が現れた。  しかし___、  「やっぱり、顔立ちはお母さんそっくりね」  私は、懐かしさを覚えながら少年の頬に触れていた。  「は、母を知っているのですか!?」  「えぇ、だって一緒に旅をした仲間だもの!」  少年は、自身の目を輝かせて呟いた。  「母の話をたくさん聞いてみたいです!、ダメ…でしょうか?」  私は微笑んで答える。  「ふふっ、喜んで…!」  テーブルで互いに紅茶を嗜む、そして私はマリア……そう、原初の魔王と呼ばれる人物について語り聞かせる事にした。  「んー、どこから話したものかしら……」  そうだ___!  これは魔王の物語、私は今から語り聞かせる物語に"魔王シリーズ"という名を与えた。  それは悲劇かもしれない、もしかしたら後悔するだけかもしれない……  だけど、この子には全てを包み隠さず話すとしよう……… 「"初代勇者"ハロルド・リベイルは誓う、決してこの罪を忘れず償い続けると………」  これは魔王との物語、そして今は語られぬ昔々の物語……。 https://ai-battler.com/character/5823e02a-71a6-4043-bbbb-b41278678204