「組むしかあるまいの」 「貴様、ふざけているのか?」 強く机を叩く音が響く。 セシリアは、仇敵である蟻の女王を前にして怒りをあらわにした。 「先代の恨みも、先々代の怒りも忘れたことはない。その我らと、共闘だと?」 「我が国だけではいずれ滅びよう。 そして、それはそちらも同じ事。 ならば、決まっておろう?」 アリシアは扇を閉じた。 大地を埋め尽くす蟻の軍勢。 空を覆う蜂の群れ。 かつて二つの王国は、長きにわたり争っていた。 両軍は幾度も衝突し、決着はつかなかった。 だがある日、異変が起きる。 巣が焼かれ、兵が蹂躙される。 それは互いの仕業ではない。 ――外敵。 その力で、大地も空も、無差別に侵す存在。 「……現状は」 セシリアは手を強く握る。 「我らとて分かっている。 しかし、そう易々と受け入れられることではない。」 拒否とも取れる言葉を受け、 アリシアは蜂の女王を真っ直ぐに見つめた。 「いや、受けてもらう。 ここで手を取らぬなら、 次に会う時は――互いの亡骸の上じゃ。」 「それにな」 アリシアは続ける。 「妾の胎の限界が近いのじゃ。 あれだけ急激に産んだからの、 一度休ませねばなるまいよ。」 仇敵を相手に自身の手の内を明かす。 それは紛れもない、女王の覚悟だった。 セシリアは目を閉じる。 瞼の裏には様々な想いが渦巻いた。 先祖の恨み。この地を守る者としての誇り。民の助けを求める声。 セシリアは、ゆっくりと目を開けた。 そして——— 戦場が変わる。 地上では蟻兵が壁となり、 空から蜂兵が毒の雨を降らせる。 大地と空が一つになった。 「励むのじゃぞ」 「隊列を乱すな!」 二つの声が響く。 かつて敵だった軍勢は、今や一つの意思として動いていた。 こうして生まれたのが、 女王同盟である。 今日の戦は終わった。 大地には蟻の隊列が整然と並び、 空には蜂の群れが円を描いて巡回している。 完全なる制圧。 完璧な秩序。 その中心で―― アリシアは優雅に腰掛け、紅茶を口にしていた。 「ふむ……今日もよく働いたのう」 その声音は、まるで昼下がりの談話のように穏やかだ。 対してセシリアは、立ったまま戦果を確認している。 「負傷兵、想定内。資源損耗、軽微。次の進軍も可能か。」 「忙しないのう」 「当然だ。戦は終わっても統治は続く」 アリシアはくすりと笑う。 「わらわの兵は、今は休ませておる」 「蜂は休まない」 即答だった。 「常に空を監視し、異変を見逃さぬ。それが我らだ」 しばしの沈黙。 風が、二人の間を通り抜ける。 やがてアリシアは扇を軽く開いた。 「……だからこそ、か」 「何だと?」 「空は鋭く、大地は揺るがぬ」 紅茶を一口。 「噛み合うのじゃな、わらわ達は」 セシリアは一瞬だけ言葉を止め、視線を上げた。 そして、短く言う。 「合理的なだけだ」 蟻は守りを固め、蜂は空を巡る。 互いに欠ければ成立しない、完全な陣形。 未だ刃を収めたに過ぎない蜂の女王を前に、 蟻の女王がまた一口、紅茶に口をつけた。