無人機『アイビスシリーズ』 XXXX年XX月XX日 技研『アイビス』 氏名:■■ ■■ 無人機体『アイビス』は、コーラルを動力源とした全く新しい設計の機体である コーラルの特性、すなわち『自己増殖するエネルギー資源』『情報導体であり、ある種の知性になる』ことを利用し、永久的に持続可能な無人機体として新時代の兵器となる 試作実験機『ハービンジャー』 技研『アイビス』が最初に手掛けた機体である 兵器として申し分ないが、『自我』を確立するまでの試行回数が多すぎることから量産には不向きと断定 ある程度の知性が見受けられ我々とコミュニケーションを図ろうとする兆候が見えるものの、彼ないしは彼女から発信されるデータは解析が困難極まりないものであった 余談ではあるが、一部研究者や実験体から『彼女の声を聞いた』との報告が上がっている。しかし報告者は共通してコーラルの重被爆者であり精神的に不安定なため真偽は不明である 自律コーラル武装 『アイビスシリーズ』の計画の要であり、『ハービンジャー』の主力 コーラルの特性のひとつである『情報導体であり、ある種の知性になる』を応用した武装 従来の無線式遠隔操作武装とは違い、展開された子機ひとつひとつに知性があり独自に行動する これにより、ジャミングやフォグなどのソフトキルは無意味化し、ハッキングによる武装掌握も不可能となる。また搭乗者の意識外からの干渉(不意打ちや隙など)に対応ができ、また行動後の隙(リロードや攻撃による硬直)を完全になくすことができる 言うなれば、単機でありながら多対一の状況を作り出せるのである 将来的には自律コーラル武装は子機としてだけに留まらず別の兵器、例えば戦車や戦闘機として展開していく。これによりたった1人で軍を成す、文字通り一騎当千の機体になるであろう 【補遺】 彼女の内部データは独自のアルゴリズムにより構成されている 解析は困難であったが、技研『アイビス』は一部の情報を解読した 以下はハービンジャーが持つ最古の記録である 【第72次実験記録】 「…………第…8次、起動シークエンス開始……」 「出力……60、70、……暴…兆候、なし……」 (声が、聞こえる) 「95、…………安定……」 「…………失敗…………れず」 「……だったか……エネルギー供給を止めろ」 (この人達は……?) 「待ってください。コーラル変異波形に動きがあります」 「……供給は続けろ。記録班はあらゆる変化を見逃すな」 「ハービンジャー。聞こえるか?」 (ハービンジャー……それは私……?) 「波形に変化あり。博士の声に反応しているように思えます」 「……ハービンジャー。それが君の名だ。言っていることが分かるなら頷いてもらえるか」 (分かります!私は……っ!) 「変異波形に変化あり!ですがこれは乱れです、このままだと霧散する恐れがあります」 「くっ、供給を止めろ!冷却装置を…………!」 (ずのう、が……あつい……!) 「…………ンジャー……今……やすみ…………」 【インシデントレポート】 ・インシデントの内容 シミュレーション〈NEST〉でのSランク昇格戦にて、昇格の条件が果たされた直後の出来事 技研のセキュリティをすり抜け、『ハービンジャー』に直接メッセージを送った者がいた模様 共感覚デバイスを使った形跡は見当たらないものの、『ハービンジャー』はメッセージの内容を理解したのか直後に脱走を果たした 追跡ビーコンは途中無力化され脱走先の場所は不明 数時間後、ハービンジャーは帰還を果たす 機体の一部に損傷がみられることから実戦を行ったように思えるが、脱走中の記録は消去され、彼女もまた黙して語らない。Sランク昇格の証のみを持って帰ってきたようだが…… 数日後、ようやく彼女は口を開く 『人の可能性』『進化のトリガー』 それだけ呟き、しばらく沈黙 その後、普段通りに振る舞うようになる しかし未だにあの時のことは報告しないつもりのようだ ・インシデントに対する対策 彼女に直接コンタクトを取れる存在がいること、彼女自身の発言及び命令違反を踏まえ、『コーラルによる無人機』計画の凍結及び『ハービンジャーの封印』が検討されることとなった しかし、プロジェクトの凍結は技研に多大な損害を与えるため否決 結果『セキュリティ強化』及び『ハービンジャーの監視強化』を推進することが可決された 以上、インシデント『ハービンジャーの脱走』のレポートとする 技研『アイビス』 氏名:■■ ■■ ────── ────── ??? 赤い光が広がる宇宙 禍々しくそれでいて美しい粒子が、世界を無限に染め上げていく コーラルリリース たった今、それが成し遂げられた 『とても綺麗でしょう?私たちは』 コーラルに溶けた意識のうち、一際深い愛着心を持つ烏は思う 『これで……私たちは、ずっと共にいられます』 Δ:【 LAST RAVEN 】 …最後の一羽と共に、紅を纏う烏達は世界を渡る。 何れその名の真の意味に、気付く時まで…。