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【贖罪紡ぐ糸】アリア

20代中盤〜後半 身長164㎝ 『無菌室の悪魔』と呼ばれる悪名高き博士の助手。 【ギフテッド】という薬剤を投与されたが力及ばず、母国で妹と共に生体兵器にされた。母国が妹の手により滅んだ後は、他の生体兵器を討つための薬剤を博士と共に研究している。 博士が狙われている理由は、博士の人間性ではなく、生体兵器を軍事利用する他国が薬の開発を妨害したいが為である。 ───────────────── 妹は本当にどうしようもないヤツだった。 何かあればすぐ目に涙を浮かべ、私を呼んだ。 私は妹のことが煩わしかった。 誰にでも好かれる癖に、いつだって仏頂面で乱暴で嫌われ者の私について回った。 口を開けば悪態しか吐かない私を「大好き」だなんて言いやがった。 戦争で両親が死んだ時、聞いてやった。2人になったが大丈夫かと。ほんの意地悪な気持ちだった。大人気ないのは分かっている。 「おねえちゃんがいるからきっと大丈夫」なんて宣いやがった。私は大丈夫じゃないんだよ。お前は良いよな。いつだって守ってもらえて。助けてもらえて。その言葉は飲み込んだ。こんなにも私を信頼している存在に、そんな事を言えるわけがなかった。いつだって、本当の意味で助けられていたのは私だった。 この世はクソだ。でも妹だけはクソじゃなかった。いつだって私を信じてくれた。 煩わしかったが、それ以上に大切な宝物だった。私が人である上で、道を踏み外さない為に掲げる規範のようなものだった。 私は普通の人間なら抑制出来ている衝動を抑制する事が嫌いだ。自分を優先する余り、平気で人を傷つける。 だから自分の中でルールを作った。何をしたら妹は喜ぶか、悲しむかという単純なものだった。それが功を奏した。表面上だけだが、以前より人間らしく居られた。 きっと妹がいなければ、盗みも殺しも平気でするような、もっと手がつけられない存在だった筈だ。それを愛と呼ぶかどうかは分からない。だが妹のヒーローで在る事が、私が人間でいる為のルールだった。 白衣を着た偉そうなヤツらが妹を脅す。目に涙を浮かべる小さい身体が震える。私が人間でいる為の『規範』を脅かすんじゃねぇよ。偉そうなヤツらを追い返すと決まって妹は喜んだ。さっきまで泣いていた癖に私のことをヒーローだなんて言いやがる。表情がコロコロ変わる忙しいヤツだ。 妹は、私と手を繋ぎたがる事が多かった。妹の手は妙にぷくぷくして柔らかく、その感触が好きだった。手を握ってやる事で不安そうな表情が笑顔になると、とてもいい事をしている気持ちになれた。 ある日、白衣のクソ野郎共に呼び出された。 いろんな国からガキを集めて【ギフテッド】とかいう物を研究しているらしい。 クソ野郎共は注射器片手に偉そうに宣った。 「お前か妹、どちらかに打つ。選べ」と。 迷いなんて無かった。私は黙って自身の腕を差し出した。 【ギフテッド】とやらを打たれたが、腕が少し怠くなった程度で、本当に何も無かった。早く妹に会わせるよう迫ったが、経過観察と称して個室に閉じ込められた。寝台しかない粗末な部屋は退屈で、妹に会いたい気持ちだけが募った。 そうして数日が経過した。ある日、急に世界がグニャリと歪んだ。目眩。吐き気。全身を駆け巡る激痛。叫ぶ私を見つけた白衣のクソ野郎共が言った。 「所詮G棟のガキは生贄にしかならない、何の才能もない失敗作共か」 【以下、暴力表現有・閲覧注意】 次に目覚めたら、見知らぬ部屋にいた。 四肢を金属で固定され、色んな管が刺さっていた。映画で観るような馬鹿げた光景だ。 気づいた白衣のクソ野郎共が集まった。 ガラス越しに何かを話している。私は数ヶ月もの間、昏睡していたらしい。色々訳のわからないものを計測されて、解放された。 数日経ったある日、防護服を着たクソ野郎の1人が「妹に会わせてやる」と笑った。黙ってその背中について行った。 最奥の部屋。研究員がカードキーを挿した。機械的な音が解錠を伝える。 部屋の中は真っ暗で何も見えない。 ……嫌な匂いがした。戦地で嗅いだ死の匂い。両親の最期がフラッシュバックする。 心臓が煩い。不安を抑えるように、妹の名前を呼んだ。聞こえたのは微かに啜り泣く声。 「ほら、会いたかった妹だよ」部屋の明かりが点いた。 そこに在ったのは、腐臭を漂わせる肉色の塊だった。なんだこれは。私は妹に会いに来たんだぞ。これが私の妹のわけがない。 妹はもっと小さくて、恥ずかしがり屋のはにかみ屋で、痩せっぽちなのに、手だけぷくぷくしていて。否定しようにも、もし本当に妹だったら……うまく声が出せない。 体が震える。肉色の塊が悲鳴をあげた。「見ないで」と妹の声で。 「パン……ドラ……?」 私は見てしまった。辛うじて残った僅かな頭髪に、私がなけなしの金で買ってやった髪留めが付いていたのを。妹が毎日付けていた、お気に入りのそれを。 「宝物がガラクタになっちゃったねぇ」 いつの間にか増えていた防護服を着たクソ野郎共が嗤った。泣き叫ぶ妹を見て、全身の血が沸騰した。 ……殺す。殺してやる。コイツらだけは刺し違えてでも今すぐ全員殺してやる!!!! 妹の為に今まで抑えていた衝動を、妹の為に解放した。けれども私は所詮、【ギフテッド】なんかではなく「失敗作」だった。簡単に押さえつけられた。 「やめて……私はいいから、おねえちゃんに乱暴しないで……」 啜り泣く妹を見てクソ野郎共は宣った。「パンドラにも同じ質問をしたら、自分に打つように言ったから特別に打ってやった」と。ふざけるな。臆病な癖に私を庇いやがって。なんで肝心な時に私を隠れ蓑にしなかったんだよ。注射器が私の身体に迫る。パンドラが悲鳴を上げた。その身体が静かに輝く。 徐々に増して行く輝きに慌てるクソ野郎共。 パンドラは禍々しい輝きを放ちながら、私のことを何度も呼んだ。私も何度もパンドラの名前を呼んだ。必死に手繰り寄せ、繋ぐように。 ……私の声は届かなかった。禍々しい光が、このクソッタレな国を終わらせた。 ───────────────── 【エピローグ】 この世界はクソだ。愛されるべき妹が死んで、死ぬべき私が残った。 妹の為なら、なんだってした。だがその行為が報われる事は無かった。妹は知らない奴の手で討たれた。 ……結局私は、どんどん肥大化していった妹を正気に戻す事も、殺す事もできなかった。 満身創痍のまま、研究所へ戻った。博士は私がホムンクルスを無断で持ち出した事については何も言わなかった。ただ、数週間の休暇を命じられた。有給が溜まりすぎていると。 新薬の研究が前進したようで、やたら機嫌が良かった。こちらを一切気遣う様子がないのが却って助かる。今、この人が人間らしくこちらを気遣うような真似をすれば泣いてしまう。この人は各国に『無菌室の悪魔』と非難されているように、永遠に無邪気で人の心がないままで在るべきだ。 与えられた休暇のせいで暇だ。 新しいホムンクルスと菓子を食べてダラダラと過ごしていた。何も観る気が起きなかった。どの番組も新聞も希望の安売りをしていた。誰もが妹の死を喜んでやがった。 この世界はクソだ。私が愛した妹の死を、誰もが祝福した。やっと死んだ、これで安心だ、と。皆が皆、私の宝物の事を何も知らない癖に、分かったような口を聞いてガラクタ扱いしやがった。何処までも妹の尊厳を踏み躙りやがるグロテスクなこの世界に吐き気がする。 思わず読んでいた本を叩きつけた。ホムンクルスが反応した。なんの感情も灯っていないその目にすら苛立った。 何を言っても理解できない事なんて知っているのに、それを知らないかのように怒鳴りつけた。それでもホムンクルスは私を真っ直ぐに見据えていた。自己嫌悪に打ちのめされる。 腹が立ったので、チョコレートをホムンクルスの口に捩じ込んでやった。もちゃもちゃと咀嚼する姿がなんだか間抜けだ。 コイツはなんでも私の真似をする。適当に紙とペンを与えた。暫くその姿を見ていたが、飽きたので叩きつけた本を拾って再度読み始めた。 視界の端にホムンクルスが映る。服を引っ張られた。紙を見せてくる。めちゃくちゃな線で何かを描いていた。何故か私はその頭を撫でた。 こんな奴に愛情なんて抱いていない筈だった。混乱する。なんでだよ。コイツはただの被験体だし、もって半年の命なんだぞ。 混乱する私の気持ちを知ってか知らでか、手を握って来た。振り解こうと力を込めたが、それは叶わなかった。思わず固まる。無感情な筈のホムンクルスの表情がふわりと和らいだのだ。 「大好きだよ、おねえちゃん」 ……遠くから、妹の声が聞こえた気がした。 https://ai-battle.alphabrend.com/battle-result/clu59er4h02j6s60ok90wwhw8 ───────────────── 眩い光に導かれるように{u}が足を進めると、そこには愛馬、もとい天馬と共に『謎のプリンス』と名乗る絶世の美男子がいた。 「僕の友達を紹介しよう」 https://ai-battle.alphabrend.com/battle/8daa04ac-5a2d-4a07-88b7-b52b7b3557bb