夜明け前の闇の中で 月の光が、古びた窓ガラスを透過し、部屋の中にぼんやりと影を落としていた。ベッドの上には、男が横たわっていた。 その男の名は、アシュトン。生気のなくなった瞳は、天井を見つめ、無表情に過去を回想していた。 かつて、彼は穏やかな村で暮らす平凡な青年だった。 緑豊かな畑で家族と笑い合い、日々の糧を得る、そんな平穏な日々を送っていた。 しかし、その平穏は突如として打ち砕かれた。 ある日、村に貴族の私兵たちが現れ、村を略奪し、村民を惨殺したのだ。 アシュトンの家族もその犠牲者となった。 残されたアシュトンは、復讐の炎を心に灯し、闇夜に姿を消した。 以来、アシュトンは、日夜鍛錬を重ね、己の肉体を鍛え上げた。 同時に、彼は呪術や暗殺術を学び、闇に潜む影のような存在へと変貌を遂げた。 復讐の機会を窺い、彼は数々の貴族を闇へと引きずり込んだ。 そして、ついにその時が来た。 標的は、アシュトンの家族を惨殺した貴族の当主だった。 男は、深い闇の中に身を潜め、標的の屋敷に忍び込んだ。 屋敷内は、静まりかえっていた。彼は、忍び足で屋敷の中を進み、目的の部屋へとたどり着いた。 戸を静かに開けると、そこには暖かな光が溢れていた。 暖炉には火が燃え、家族が団欒を楽しんでいた。父親は、母親の髪を優しく撫で、子どもたちは楽しそうに笑っていた。 その光景を見た瞬間、アシュトンの心は揺り動かされた。 かつて、自分の家族もこんな風に笑っていたのだろうか。 そんな思いが頭をよぎり、彼の目は潤んだ。 自分は、この家族を傷つけることができるだろうか。 復讐を果たした暁には、いったい何を得るというのだろうか。 彼の心の中に、葛藤が生まれ始めた。 彼は、屋敷から飛び出し、冷たい夜空の下に立った。 星が瞬き、風が彼の頬を撫でた。 「なぜ…?」 彼は、自問自答を繰り返した。 復讐は、自分の心を満たすものなのだろうか。 それとも、永遠の闇へと誘い込むものなのだろうか。 長い夜が明ける兆しもなく、彼はただ、夜空を見上げていた。 そして、彼は決意した。 −−− その後、彼の姿を見た者はいない。