人類最古の壁画には、 それらしき“空白”が描かれている。 何も描かれていないのに、 そこだけが確かな輪郭を持っている。 学者はそれを偶然と言った。 だが同じ空白は、 時代も文化も越えて繰り返される。 古代中国の竹簡に── ロシア北方の修道院写本に── フランス革命期の禁書目録に── 世界中の記録に、 異なる名称のみが残されている。 姿の記述はない。 形の証言もない。 ただ共通しているのは、 “理解できなかった”という事実のみ。