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鬼ジジイ、嘉納零治郎

幼き頃の零治郎は、特別な血筋でもなく、剣術の才能もゼロの「ただの人間」だった。周りには、生まれつき強力な術を持つ天才や、神の加護を受けた勇者のような「不条理な強者」がたくさんいて、彼らが引き起こす理不尽な戦いに何度も巻き込まれ、大切な仲間や日常を失ってきた。 ある時、愛した者を「不条理な運命」によって失った零治郎の頭にこんな疑念が浮かぶ。 「なぜ、奴らの気まぐれな『奇跡』のせいで、地道に生きてきた人間が理不尽に死なねばならんのだ」 その絶望と怒りから、彼は奇跡を願うのをやめ、ただ己の肉体と刀、拳だけを信じて、血の滲むような鍛錬と「理不尽」への喧嘩売りを何十年も、文字通り死ぬ気で続けた。それは気が遠くなるほどの刻の移ろい。一年、十年、やがて齢百三十年。ごく一端の人間なら寿命を迎えているだろう長い年月を全て己の技の磨きにかけた零治郎は、天寿を全うするほんの数年前、その境地に辿り着いた。 その力は、嫌っていた神が情けで授けたような呪いであった。 ある時、修行する零治郎の前に「奇跡」の力に溺れる不届きものがやって来た。 彼は遊びで森の熊を狩り回っており、その右手にもたれる神々しい剣は血に濡れていた。 零治郎は怒る。かつて殺された愛人を思い出して。あらゆる理不尽な奇跡や権能を、その心の底から憎んだ。 その刹那。 彼の持つ剣から「奇跡」が消え失せた。 相手が慌てふためいているところを、零治郎の刃が一閃。男の剣は飛んだ。男は怯え、走って逃げていった。 零治郎は気付き、笑う。最も望む力を、この人生の最後の最後に手に入れたことに。 だが零治郎は気づていた。己に残された時間は残りわずかだと言うことを。 零治郎は決心し、旅に出る。己の残された寿命の中で、できる限りの理不尽を切り伏せることを心に誓って。