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《小さな国の最後の一人》蛮愚なるフンギャロ

今から遠い昔のお話です あるところに小さな国がありました そこに住む人々は心が豊かで暖かく 皆で助け合って 仲良く暮らしていました 心の豊かさとは なんでしょう? 助け合い 譲り合い 分かち合い 励まし合い 慰め合い 認め合い 人と人の間に生まれる 優しい気持ちが やわらかく 心の中で積み重なって 心は豊かに 暖かくなるのです 心が豊かでありたいと 人々は願いました 誰かが何かを願うと 皆がそれを叶えようと 一生懸命に悩み考えて 精一杯頑張りました 願いの叶った人は皆に感謝して 更に一生懸命に 精一杯頑張りました そのようにして お互いに お互いの 願い事を叶えていきました 小さな国は 願いの国と 人々から親しみを込めて呼ばれました しかし どんな願いも叶う訳ではありません 皆の努力も むなしく届かない事もあります 何をやっても上手にできなくて 頑張った結果が空回りして失敗したり 取り返しのつかない間違いをしたり どうにもならない事は 沢山ありました そして 皆が本当に叶えたい願い事は 誰にも 叶える事ができませんでした 一生懸命に悩んでも 精一杯頑張っても 人の命には限りがありました 大切な人と お別れをしなければならない時 沢山の人々が 深い悲しみに覆われて 小さな国は 涙の国に変わりました それは 人々にとって耐え難い事でした 人々は 涙の国を恐れました 涙の国が暮れる度に 人々は手を繋ぎました 大切な人と お互いに顔を見合せながら そして 心が豊かでありたいと 人々は願いました 自分の為ではなく 自分の大切な人の為に ある日の事です 優しい人が考え事をしていました 願いが叶った時の喜びや感謝の気持ちは どんな言葉で表現しても足りないくらい 大きな 大きな 気持ちでした 言葉では伝えきれない気持ちを 形にして表現する方法はないでしょうか? 優しい人は ずっと考えました そうして思い付いたのが 願い券でした 願い券は誰かにお願いをした時に 感謝の気持ちを込めて手渡すものです 願い券を渡して 願い券を貰って 感謝の気持ちが 言葉にできない気持ちが 形になって 人の手を伝わっていきます それは それは とても素敵な事でした 願い券は実に素晴らしいアイデアでした 小さな国に 願い券は瞬く間に広まりました 願い券を渡すと 喜んでもらえます 喜んでもらえると 嬉しくなります でも 願い券を持っていないと渡せません 渡せないと 申し訳ない気持ちになります だから皆 願い券を欲しがりました 願い券を渡す為にも 願い券を貰う為にも 皆が 皆の 願いを叶え合うのでした 小さな国に 人々の感動が まるで波のように広がっていきました こんなに自由な気持ちは初めてでした 今まで誰も知らなかった気持ちでした 心が豊かでありたいと 人々は願いました 人と人の間に生まれる 優しい気持ちが やわらかく 心の中で積み重なって 本当は 誰も 願い事をできませんでした 誰かが何かを願うと 皆がそれを叶えようと 一生懸命に悩み考えて 精一杯頑張ります 自分の願いが皆を悩ませ 苦しませるなら 大切な人の為に 願う事は一つです ・・・何も 願わない事でした でも 願い券によってそれは変わりました 人と人の間に生まれる 優しい気持ちを 人に代わって願い券が担ってくれるのです やわらかく 心の中で積み重なって 全く身動きのできない 息苦しさから 願い券は 人々を解放してくれました ちょっとした頼みでも 願い券を渡しました 大きなお願いをする時には 沢山渡しました 物々交換するのも 願い券との交換だったり 何をするにしても 願い券だと喜ばれました 願い券が無いと お願い事は躊躇われました 願い券が無いと 何も頼めなくなってました 人々のお願い事は様々ですから 願い券を貰う方法も様々でした 辛い事や苦しい思いをしながら  一生懸命に悩み考えて 精一杯頑張って 誰かの願いを叶えて貰えた 願い券は とても 大切なもののように思えました 人々は願い券を 大事に 大切にしました こんなに大切な こんなに特別な 願い券 沢山あったら もっと嬉しくなるでしょう だから皆 願い券を欲しがりました 自分の大切な人の為に 自分の為に 願い券があれば きっと どんな願いも叶いました 願い券の為なら きっと どんな事でもできました 小さな国の人々は 皆が同じ気持ちでした 皆が 願い券に夢中になりました こんなにわくわくしたのは初めてでした 誰も知らなかった気持ちでした 人々のお願い事は様々ですから 願い券を貰う方法も様々でした 人々の中でも賢い人は願い券を上手に使い 願い券を貰う為に 願い券を渡すようにして もっと多くの願い券を手に入れました 皆が感心して 賢い人の真似をしました でも 沢山の願い券を得る為には もっと沢山の願い券が必要になるでしょう 願い券が欲しい 沢山 沢山 沢山 沢山 小さな国の人々は 皆が同じ気持ちでした 願い券を持っている数が少ない人がいました 辛い事や苦しい思いをしながら 一生懸命に悩み考えて 精一杯頑張って でも 少ない願い券で叶うようなお願いでは 僅かな願い券しか貰えませんでした 沢山の願い券を持っている人達は 沢山の願い券を使って 沢山の願い券を得て とても とても 羨ましく思いました そして 自分は惨めだと感じました 自分にも もう少しだけ願い券があったら いつも そんな事を考えていました ある日の事です その人は道端で落とし物を見つけました 束になって纏められた願い券でした きっと落とした人は困っているでしょう 今頃は必死に探しているに違いません 届けてあげようと拾った時に 気付きました 願い券の束は 自分の持っている願い券より ほんの少しだけ 数が多かったのです 誰かが願い券を無くして泣いていました あんなに大切な あんなに特別な 願い券 きっと誰かが盗ったのだと泣いていました 皆は恐ろしい気持ちに襲われました 自分が盗んだと疑われるかもしれません 自分の願い券も盗まれるかもしれません 色々な考えが頭を巡って 恐くなりました 小さな国の人々は 皆が同じ気持ちでした 小さな国に 人々の不安が まるで波のように広がっていきました こんなに恐ろしい気持ちは初めてでした 今まで誰も知らなかった気持ちでした 人と人との間に 少しずつ距離ができました 不安を抱えながら誰かと接することは 煩わしく 耐え難く 苦痛でした 無理して誰かに優しくなる必要はありません 人との距離ができても困ることはありません 人と人との間を願い券が取り成してくれます とても気軽で 自由な気持ちになれました 人と人との間の 心が離れていく度に 人々は 人の気持ちが分からなくなりました 何も 恐ろしく なくなりました とても気軽で 自由な気持ちになれました 小さな国には 人の気持ちを考えもしないで 自分勝手に何でも自由にやる人が増えました 願い券を得る為に 手段を選ばなくなり 人々は 人を騙したり 人から奪ったり そういう事を平然とやる様になりました こんなに大切な こんなに特別な 願い券 騙されない様に 奪われない様に 人々は 心を閉ざす様になりました 固く身構えて 刺々した言葉で突き放して 自分の為に 自分の大切な願い券の為に 騙されて 奪われて 願い券を失った人々は その心の中に 大きな恨みの炎を灯しました 皆さんは恨みというものを知っていますか? 恨みとは 命がこの世に表現できる もっとも大きな 壊す力です 人が 人に対して恨みを抱き 吐き出した時 恨まれた人も恨んだ人も 壊れてしまいます 簡単に 呆気なく 壊れてしまいます 人の心の中の真っ赤な恨みに比べてしまえば 涙の国でさえ 優しいものに思えるでしょう 騙されて 奪われて 願い券を失った人々は 何も 恐ろしく なくなりました それは 恐ろしいことでした それは 悲しいことでした 誰も 分かりませんでした 小さな国に 人々の恨みが まるで波のように広がっていきました 小さな国の人々の間で争いが起こりました 原因は 分かりません 人々は手に 武器になるものを持ちながら お互いに お互いを 傷付けていました 多くの人々が傷付いて 血を流して倒れて 動かなくなった人が 踏みつけられながら 炎が渦になって あちらこちらに広がって 散らばって 散らかって 散々になって 渦になった炎は 瞬く間に燃え広がって 何もかもが壊されても 人々は止まりません 小さな国で起こった 大きな争いは いつまでも 終わりませんでした -------------------- 今から遠い昔のお話です あるところに小さな国がありました そこに住む人々は心が豊かで暖かく 皆で助け合って 仲良く暮らしていました