〜とある諜報員の日記〜 ◯月☓日 (金) 今日新たな任務を言い渡された。内容は「ライの研究所の潜入」 ライって言ったら呪いの研究をしているマッドサイエンティスト。『呪いの探究者』『倫理観を産道に置き捨ててきた白猫』とか言われてる研究者。 多分これまでの任務の中で一番ヤバい任務。私の諜報員の勘が訴えてる。これまで以上に気張らなければ ◯月▲日 (木) 遂に明日任務の決行日。決行日までに色々と情報を収集してきたけど、普通に違法な粉とか密輸とか殺人とか法律破りまくってた。裏の住人みたいなもんだし当たり前だけど。 決行日が近づくにつれてなかなか寝付けなくなってきてる。これまでも緊張とかで寝付けなくなったことはあったけど、ここまでひどいのは始めて。 なんか怖くなってきたけど、なんとか頑張ってみよう。 (とある研究所の地下の牢にて) 「……あ……?ぁあ………?あれ……ここ……は……? たしか……わたしは……」『私の研究所に潜入してきた…だろぉ?』 声が聞こえて顔を上げた。牢越しに見えたのは白衣と白いシルクハットを被った白猫の獣人。 純粋としか思えない不気味な笑顔を浮かべたそいつは、ラフに話しかけてきた。 「……!?お前が……ライ……??」 『あぁ、そうだ。私がライ、人呼んで呪いのマッドサイエンティスト……らしい。』 だんだん記憶が鮮明になってきた。たしか私は、この魔女の家みたいな研究所に潜入して、突然体が痺れ…… 『どうやら実験は成功みたいだねぇ。君、突然体が痺れただろう?じつは、私が君にとある呪いをかけたからさ。いや〜、実験が上手くいってよかったよかった。』 「実験…?呪い…?いつからそんなことをやっていた…?私が潜入したときか?」 『いや、もっと前だな。もっともっと前。』 …………何て言ったこいつ?もっと前? 「……もっと……前……??」 『君は覚えていないだろうねぇ。西三丁目の交差点にあるマンションの隣のコンビニ……その時に私達が会ってきたことを。』 「………………は??」 『あの時君はおやつとして獣人用のチャオチュールを買ってきただろう?チャオチュール以外にも、唐揚げ弁当と水も買っていたねぇ。水の味はたしか桃だったなぁ。私も桃のやつが好きなんだよ。』 ………思考が追いつかない。本当にこいつは何を言っている?どういうことだ?なんでこいつはこんなに鮮明に覚えている?というかそもそも、こいつと私がコンビニで会った? 『お〜……困惑しているねぇ。わかった、一つづつ話すとしよう。』 そう言うと、牢越しに立つそいつは困惑して一言も話せない私に、どこか楽しげに話しだした。 『私と君がコンビニで会ったのは34日と9時間前。私はあの時君と同じようにチャオチュールを買いに来ていた。』 『私がどの味にするか吟味していたときに隣にいたのが君だ。』 ………それは……会ったといえるのか………? 『その時に私は隣にいた君になにかビビビッときてねぇ…その時に誓ったのだよ。君を私の"助手"にしようと。』 「……………は????」 口から思わず漏れた。まてまてまてなんだこいつ。話が滅茶苦茶すぎるだろイカれてんのか。いやこいつはイカれてるのか。 というかなんでこいつ楽しげに話してんだ気持ち悪いな。 『それでとりあえず君にバレないようにとある呪いをかけた。この呪いをかければどこにいるのかわかるようになる。分かりやすく言えばGPSだ。』 『家に帰った後君について色々と調べさせてもらったよ。私も色々とツテをもっているのでね。すぐに君が諜報員だとわかったよ。』 仮にも秘密組織の一員なんですけど。そんなあっさり分かるものなの? 『そこからは簡単さ。君の組織のネットワークに入り君の動向や任務を観させてもらっていた。対策もしていたからバレなかったしね。』 マジで何なんだこいつ。なんで隣にいただけの赤の他人にここまで執着できんだよ。というか、組織のネットワークに入り込むなよ。なんでバレてんねぇんだよ。 『そして君と出会って15日が経過した頃、なんと君が私の研究所に潜入する任務を任された!この時私は神に感謝したね。』 あんたの感謝した神、私からすれば死神なんだが。 『ところでコンビニで会ったとき、私が君にかけた呪いを覚えているかい?GPSの役割をしている呪いさ。』 「………そうだったな。」 一気に話されたせいで忘れてたが思い出した。そしてようやく言葉を口から出せた。 『あの呪いにはもう一つの効果があってねぇ、その効果が"効果を発動した日から10日間、対象の眠りを妨げ最終的に体の痺れで死亡させる"という効果だ。』 …………マジで何なんだこいつ???なんだその効果というか最終的に死亡ってなんなんだよ私死んだのどういうこと?? 『まぁというわけで任務決行日に合わせて効果を発動。君が潜入したときに体が痺れるようにしたわけだ。』 『ちなみに君が死んでいないのは、この薬で呪いの効果を一部消したからだ。』 白い錠剤を見せてそいつは笑った。………なんなんだこれわけがわからなすぎる。作り話だとしてもつまらんわくそったれ。 『まぁ、というわけだ。さて、経緯について話した。それじゃ、本題に入ろう。』 『私の"助手"になってくれないか?』 「……………一つ聞かせろ。」 『ん?いいぞ、なんでもなんでも聞いてくれ。』 「なんでこんな回りくどすぎるやり方をした…?うちの組織のネットワークに軽くバレずに入り込むあたり、技術力はあるだろ…。もっと手っ取り早くできただろ…??』 そう尋ねると、目の前のそいつはこう答えた。 『それだとつまらないだろう?それに君のその困惑する顔が見たかったからねぇ。』 …………もう考えるのやーめた。 何気ない晴れの日、いつものように博士に振り回される。時には明らかに食べちゃいけない色の食べものを食わされたり、致命的すぎる欠点をもつ武器の実験台にされたり……。 しかし、慣れというのは怖いものだ。この生活に順応している自分がいる。 元々は諜報員だったが、あの時コンビニで隣にいただけで運命が変わった。 ………いや、べつに変わらない気もする。あの博士とはまた別の場所であっていたような気がする。 そんなことを考えていたら、爆発音と博士の声がした。 『助手くーん!!ちょっと助けてくれないかねぇ!!!』 「………はぁー………今行きまーす。」 今日もどうにか頑張りますかね。