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【雨雨降れ降れ豪雨にまで】マーシャルギアス∽イレン

【基本データ】 名前:イレン 性別:女 種族:渓天候 年齢:17歳 身長:165.3㎝ 体重:48.3㎏ 誕生日:9月17日 趣味:雨降らし 特技:キャンプ、水泳、浮遊 好きなもの:雨、面白いもの、初めて見るもの、扇風機 嫌いなもの:船、勉強、古文、漢文、日本語以外の言語、風 ───────────────── 【過去】 〔第0章【幕開け】〕 かつて、深い山々の奥には、渓谷を棲みかとする天狗達が存在した。 彼らは、一般的な天狗とは少し異なる性質を持っていた。 山の頂や森の奥を縄張りとする天狗がいる一方で、彼らは切り立った崖、岩肌を削る激流、霧の立ち込める谷底、そして絶え間なく姿を変える水の流れとともに生きていた。 その一族の名は、渓天狗。 渓天狗は、雨をただの天候として捉えなかった。 雨とは、山を削り、川を生み、谷を満たし、やがて大地を変えていくもの。静かな一滴から、すべてを呑み込む濁流まで、同じ水でありながらまったく違う顔を見せるものだった。 彼らはその変化を読み取り、利用し、ときには自ら引き起こすことに長けていたという。 しかし、渓天狗という存在は、いつしか歴史から姿を消した。 山奥の集落が滅びたのか。ほかの天狗との争いがあったのか。あるいは、渓天狗自身が人目を避けて消えたのか。 確かなことは何も残されていない。 古い文献にわずかな記述が残っているだけで、研究者の間では「実在した可能性のある天狗の一系統」として扱われていた。 中には、渓天狗そのものが伝承上の存在であり、実際には別の天狗の呼び名にすぎなかったと主張する者もいた 。 つまり、渓天狗は絶滅したと考えられていた。 ――その末裔が、まだ生きているとも知らずに。 その末裔こそが、後に「イレン」と呼ばれることになる少女だった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第1章【とある雨者】〕 その「イレン」と呼ばれる者は、傍から見ればただの少女である。 しかし人間ではない。天狗だ。 ただし、本人にその事実を特別なものとして受け止めている様子は、あまりない。 自分の種族について聞かれれば、 「天狗じゃけど?」 と、さも当然のように答える。 渓天狗について尋ねられれば、 「えっ、わっち、そんなすごいん?」 と目を輝かせる。 さらに詳しく説明しようとすると、三分もしないうちに話を聞かなくなる。 「つまり、わっちは伝説の天狗ってことじゃろ! すっげぇ!」 大体の場合、話はそこで終わる。 彼女は難しい話が嫌いだった。 正確には、難しい話を理解しようとすること自体は嫌いではない。ただ、理解する前に興味が別のところへ飛んでいくのである。 「渓天狗は古来より水脈と天候の関係を観測し――」 「水脈ってうまいん?」 「……水脈は飲食物ではない」 「えっ、そうなん?」 そんな調子だった。 彼女は、自分の一族が絶滅したと考えられていることも、学者たちが渓天狗の研究を続けていることも、あまり深刻には捉えていなかった。 自分が珍しい存在だと言われれば、ちょっと得意になる。 古い文献に名前が載っていると聞けば、ぜひ見たいとせがむ。 しかし、実際に文献を見せられると、読めない古語に飽きて、紙の端に落書きを始める。 そこに描かれているのは、たいてい雨雲か、食べ物か、ものすごく強そうな自分の似顔絵だった。 「これ、わっちじゃ! どうじゃ、強そうじゃろ!」 「まだ何も成し遂げていないだろう」 「これから成し遂げるんじゃ!」 根拠はない。 だが、本人の自信だけは一人前だった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第2章【雨雲を好み】〕 イレンは雨が好きだった。 しとしと降る雨も嫌いではなかったが、彼女が特に好んだのは、空が真っ暗になり、風が吹き、雨粒が地面を叩きつけるような荒天だった。 雨が強くなると、彼女は決まって外へ飛び出した。 「雨じゃああああ!」 誰も頼んでいないのに、両手を空へ突き上げる。 水たまりを踏む。 岩の上を跳び移る。 増水した小川を眺めては、なぜか勝ち誇った顔をする。 当然、周囲からは止められた。 「危ないから戻ってこい!」 「大丈夫じゃ! わっち、天狗じゃけぇ!」 「天狗でも流されるものは流される!」 「えっ、そうなん!?」 そして本当に流されかける。 イレンは、危険を理解していないわけではない。 ただ、目の前に面白そうなものがあると、危険を理解するより先に体が動いてしまうのだ。 彼女にとって雨は、怖いものでも、避けるべきものでもなかった。 雨は、世界が大きく動き出す合図だった。 雲が集まる。風が変わる。地面の匂いが変わる。谷底の水音が大きくなる。 そして、世界が普段とは違う姿を見せる。 その瞬間が、イレンはたまらなく好きだった。 やがて彼女は、雨を眺めるだけでは満足できなくなった。 「もっと降らせたら、もっとすごいことになるんじゃないか?」 その考えが、彼女の力を形作る最初のきっかけとなった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第3章【空を降らせ】〕 イレンが自分の能力をはっきりと自覚したのは、まだ幼さの残る頃だった。 その日、彼女は山の斜面にある小さな広場で遊んでいた。 空には薄い雲が広がっていたものの、雨が降る気配はない。地面は乾き、草木も穏やかに風に揺れていた。 イレンは退屈していた。 「暇じゃ……」 木の枝を拾って振り回す。 「なんかこう、ドバーッ! ってならんかのう」 枝を振る。 「バシャーッ! とか、ザバーッ! とか!」 さらに振る。 「ドッカーン! ジャバジャバジャバジャバジャバ!」 何を表現しているのか、本人にもよくわかっていない。 ただ、頭の中には、雨が一気に降り注ぐ光景があった。 空から大量の水が落ちてくる。 岩を打ち、草木を揺らし、地面を水浸しにする。 そんな光景を想像しながら、イレンは空に向かって枝を突き上げた。 「降れーっ!」 その瞬間だった。 空気が変わった。 それまで穏やかだった風が、谷の奥から吹き上がってくる。 雲がゆっくりと集まり始めた。薄い雲の隙間が塞がり、空の色が暗くなっていく。 イレンは、口を開けたまま空を見上げた。 「……ん?」 風が強まる。 遠くで雷が鳴る。 そして、最初の一滴が落ちた。 ぽつり。 イレンの鼻先に当たった。 「おおっ!」 ぽつ、ぽつ、ぽつ。 雨粒が増える。 やがて、地面を濡らす程度だった雨は、瞬く間に勢いを増した。 ザーッ。 ザーザーザーッ。 バシャバシャバシャバシャッ! 視界が白く霞むほどの雨が、広場一帯を覆い尽くした。 イレンは両手を広げた。 「降ったああああああああ!!」 大喜びだった。 自分が雨を降らせたということを理解するまで、数秒かかった。 理解した瞬間、彼女は飛び上がった。 「わっち、すげぇぇぇぇぇ!!」 そのまま滑って転んだ。 「いったぁぁぁぁ! でもすげぇぇぇぇ!!」 喜び方に一切の落ち着きがなかった。 一方で、雨は一向に止まなかった。 広場を濡らしていた雨は、斜面を流れ、窪地に水を溜め、小さな流れを作り始めていた。 イレンは、そこで初めて気がついた。 自分が雨を降らせることはできても、どこまで降らせればよいのか、どの程度で止めればよいのか、まだ何もわかっていない。 「……あれ?」 空を見上げる。 「もうええんじゃけど」 雨は止まらない。 「もうええってば!」 さらに雨脚が強まった。 「なんでじゃあああああ!!」 その日、イレンは、自分の能力がただ面白いだけのものではないと知った。 同時に、彼女はもうひとつのことも学んだ。 自分の力は、気持ちの勢いだけで動かすと、ろくなことにならない。 もっとも、その教訓が彼女の行動を慎重にしたかといえば、まったくそんなことはなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第4章【想定は遥か上】〕 それからしばらくして、イレンは自分の力を試すことにした。 今度は、前回のように偶然雨が降っただけではない。 自分で雨雲を呼び、自分で雨を強め、自分の意思で止める。 それができるようになれば、もっとすごいことができるはずだった。 イレンは谷を見下ろせる岩場に立った。 眼下には細い川が流れている。 周囲に人影はない。 彼女は胸を張った。 「よーし。今日こそ完璧にやっちゃるけぇ!」 まずは、少しだけ雨を降らせる。 ぽつぽつ。 成功。 次に、もう少し強める。 ざあざあ。 これも成功。 イレンは得意げに頷いた。 「ふむふむ。なるほどのう。雨というのは、こう……ぐいっとやって、ばーっとすればええんじゃな!」 説明になっていない。 だが、本人の中では完全に理解したことになっていた。 「ほいじゃ、次は大雨じゃ!」 両手を空へ掲げる。 「降れ降れ降れ降れ降れぇぇぇ!」 雨が強まる。 「もっとじゃ! もっといけるじゃろ!」 さらに強まる。 「まだまだぁ!」 風が唸り、谷に雨音が響き渡る。 川の水位が上がり始めた。 イレンは興奮していた。 ここまでの雨を、自分が呼び出した。 それは彼女にとって、とてつもないことだった。 しかし、雨は彼女の想像を超えて強くなった。 川の流れが速くなる。 岩の間を抜ける水が泡立つ。 斜面から流れ込んだ水が川に合流し、細かった流れは、少しずつ幅を広げていった。 イレンはようやく不穏な気配を察した。 「……あれ、これ、ちょっと多すぎん?」 雨を弱めようとする。 しかし、うまくいかない。 焦れば焦るほど、力の制御が乱れていく。 「止まれ! 止まれ止まれ止まれ!」 雨は止まらない。 「止まれって言うとるじゃろうがぁぁぁ!」 もちろん、空は彼女の怒鳴り声を聞いていなかった。 結局、彼女はどうにか雨を弱めたものの、谷の一部は水浸しになり、道には泥が流れ込み、近くの小さな橋まで危険な状態になってしまった。 幸い、大きな被害は出なかった。 だが、イレンはこっぴどく叱られた。 彼女はしょんぼりと俯いた。 「……ごめんなさい」 いつもの勢いはなかった。 自分が面白がって力を使った結果、周囲に迷惑をかけてしまった。その事実は、さすがのイレンにも理解できた。 彼女は、雨を降らせることができる。 だが、雨が降った先で何が起こるのかまでは、考えていなかった。 その日から、イレンは少しずつ訓練を始めた。 とはいえ、訓練の様子も決して格好いいものではなかった。 「今日は小雨を十秒だけ降らせるんじゃ!」 一秒後。 「うおおおお! 大雨じゃああああ!」 「イレン! 抑えろ!」 「抑えとる! 抑えとるんじゃけど、雨がやる気満々なんよ!」 「雨にやる気というものはない!」 「あるじゃろ! めっちゃ降りたそうじゃん!」 彼女の訓練は、失敗と反省と再挑戦の繰り返しだった。 ただし、反省している時間は短い。 失敗した直後は落ち込む。 次の瞬間には、また別のことを試したくなる。 それでも、彼女は少しずつ覚えていった。 雨の量を増やすこと。 雨脚を強めること。 広い範囲に雨を降らせること。 そして、降らせた雨を止めること。 彼女の力は、少しずつ形になっていった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第5章【豪雨となれ】〕 イレンの能力は、単に雨を降らせるだけのものではなかった。 彼女は、雨の規模を引き上げることに並外れた適性を持っていた。 小雨を降らせることもできる。 普通の雨を降らせることもできる。 そして、条件が整えば、周囲の景色を塗りつぶすほどの豪雨を呼び起こすことさえできる。 彼女の力は、繊細な調整よりも、規模を拡大する方向で際立っていた。 たとえるなら、普通の雨が小さな水路なら、イレンの豪雨は、その水路を一瞬で濁流へ変えてしまうようなものだった。 もちろん、いつでも好き放題に豪雨を起こせるわけではない。 広範囲に雨を降らせるほど、制御は難しくなる。 長く降らせ続ければ、集中力も必要になる。 雨を強めることと、降らせた雨の影響をすべて把握することは、別の問題だった。 そして、イレンには決定的な弱点があった。 能力の規模に対して、考えなしに動くことが多すぎる。 彼女は大きな力を持っていた。 しかし、その力を使う前に考える習慣がなかった。 「このくらいなら大丈夫じゃろ!」 その「このくらい」が、たいてい大丈夫ではない。 「ちょっとだけ豪雨にするんじゃ!」 その「ちょっとだけ」が、周囲にとってはまったくちょっとではない。 それでも、イレンは自分の力を嫌いにはならなかった。 むしろ、もっと上手く使えるようになりたいと思っていた。 自分が呼び出した雨で誰かを困らせるのは嫌だった。 だったら、もっと強くなればいい。 もっと自在に扱えるようになればいい。 そう考えたのである。 ――ただし、彼女の「もっと強くなる」という決意は、しばしば「とりあえず全力を出してみる」という行動に直結した。 そこが、イレンという少女の困ったところであり、同時に彼女らしいところでもあった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第6章【マーシャルギアス】〕 天狗たちの間には、特別な名を授けられる者たちがいた。 その名が、''マーシャルギアス''。 それは集団の名称ではない。 組織でも、部隊でも、階級制度の名前でもない。 特に優れた天狗に対して与えられる、ひとつの特別な名だった。 その名の意味は、おおよそ「長けた目」。 ただ視力が優れているということではない。 物事を見抜く目。 他者が見逃すものを捉える目。 目の前の現象だけでなく、その背後にある本質や、これから起こり得る変化まで見通す力。 天狗として、並外れた何かを見極めることができる者。 そうした存在にふさわしい名として、マーシャルギアスは授けられる。 ただし、どれほど強い力を持っていても、それだけで名を得られるわけではなかった。 力が強いことと、優れていることは必ずしも同じではない。 敵を倒す力があっても、敵の本質を見誤る者はいる。 未来を予測できても、目の前の現実を受け入れられない者もいる。 そして、自分の力を理解していても、それをどう扱うべきか判断できない者もいる。 マーシャルギアスとは、単なる強さの証明ではない。 天狗として、何かを見抜くことに長けた者に与えられる名なのだ。 イレンがその名を得るまでの経緯は、決して華々しいものではなかった。 というより、本人の行動だけを見れば、名を授ける側が何度も頭を抱えるような有様だった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第7章【審判】〕 イレンがマーシャルギアスの名に関わる評価を受けることになった日。 彼女は、会場へ向かう途中で道に迷った。 「……こっちじゃったっけ?」 分かれ道で立ち止まる。 右を見る。 左を見る。 上を見る。 なぜか木の上まで確認する。 「うーん……わからん!」 そこへ、案内役の天狗が通りかかった。 「何をしている」 「道に迷った!」 「案内をつけたはずだが」 「途中で見失った!」 「なぜだ」 「蝶々がおった!」 案内役は、何も言わずに空を仰いだ。 イレンは悪びれもせず、にかっと笑う。 「まあまあ、着いたんじゃけぇ結果オーライじゃろ!」 「まだ着いていない」 「えっ」 当然、遅刻した。 しかも、遅刻した理由を聞かれた彼女は、まったく悪気なく説明した。 「蝶々がおってな! あれがもう、めっちゃ綺麗で!」 評価する側は、頭を抱えた。 この少女のどこに、特別な名を授けるだけのものがあるのか。 その疑問は、誰もが抱いていた。 イレンの雨を降らせる能力は確かに強力だった。 しかし、制御はまだ荒い。 状況判断は大雑把。 説明を聞いている最中に話が飛ぶ。 作戦を立てても、途中で面白そうなものを見つければ寄り道する。 それなのに本人は、いつだって自信満々だった。 「わっちならできる!」 根拠を尋ねても、答えは決まっている。 「なんとなく!」 優秀な天狗を評価する場としては、あまりにも不安要素が多すぎた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第8章【眼が捉えたもの】〕 評価の中で、イレン達はある課題を与えられた。 周囲の状況を観察し、そこに潜む危険を見つけ出すというものだった。 複雑な地形。 複数の進路。 目立つ異変と、目立たない異変。 限られた時間の中で、何が危険で、何を優先して対処すべきかを判断しなければならない。 ほかの天狗たちは、慎重に状況を調べていた。 地面の状態を確認する者。 風の流れを読む者。 周囲の音に耳を澄ませる者。 一方のイレンは、開始早々、空を見上げた。 「……雨が降りそうじゃのう」 評価者が顔を上げる。 「今は課題に集中しろ」 「いや、でも降るじゃろ、これ」 「雲の動きだけで判断するな」 「えー、でも、あの雲、絶対降る顔しとるって!」 雲に顔があるわけではない。 しかし、イレンはそう言い切った。 彼女は地面に目を向けた。 岩の隙間に溜まった水。 斜面に残る細い筋。 風に揺れる草の向き。 そして、谷の奥から聞こえる水音。 それらをひとつずつ観察した。 すると、彼女の表情が変わった。 「……あっ」 さっきまでの騒がしさが、ほんの一瞬だけ消えた。 「ここ、雨が降ったら危ないんじゃない?」 イレンは、ある斜面を指差した。 見た目には、何の変哲もない場所だった。 しかし、その斜面には水が流れ込むと崩れやすい箇所があり、さらにその下には、退路を塞ぎかねない狭い通路があった。 今は問題なくても、雨が降れば状況が変わる。 イレンは、それを見抜いたのだ。 彼女はさらに、別の場所にも目を向けた。 「あと、あっちもじゃ。水が溜まっとる。これ、流れたらこっちに来るじゃろ?」 そして、もうひとつ。 「ここも! 見た目は平気そうじゃけど、下が空洞になっとる気がする!」 すべてが正解だったわけではない。 勘違いもあった。 見当違いの指摘もあった。 しかし、彼女は誰も注目していなかった水の痕跡を追い、地形の変化を読み、雨が降った後の危険を次々に見つけていった。 イレンは、理屈をきれいに説明するのが得意ではない。 見つけたことを、順序立てて話すのも苦手だった。 けれど、彼女の目は、確かに何かを捉えていた。 雨が降る前の世界と、雨が降った後の世界。 そのふたつを、彼女は自然につなげて考えていた。 普段の彼女は、目の前の面白そうなものに飛びついてばかりいる。 だが、雨に関することになると、普段は見落としてしまうような細かな変化を見逃さないことがあった。 それは、長い時間をかけて身についた感覚なのかもしれない。 渓天狗の血に由来するものなのかもしれない。 あるいは、単純にイレン自身が雨を好きすぎるせいなのかもしれない。 少なくとも、その場にいた者たちは、彼女の中にある何かを認めざるを得なかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 〔第9章【与えられた名】〕 評価が終わった後も、イレンは自分が何を評価されたのか、よくわかっていなかった。 「で、うちは合格なん?」 「そう簡単に結論を急ぐな」 「えー、合格か不合格かだけ教えてぇや!」 「お前は少し黙っていられないのか」 「無理!」 即答だった。 長い話し合いの末、彼女には特別な名が授けられることになった。 マーシャルギアス。 その名が告げられた時、周囲の天狗はざわついた。 しかしイレンは、それがどれだけ偉大なのかが分からなかった。 「なんじゃそれ」 「お前は天狗の最高峰と言うことだ」 「マーシャルギアスってかっこいいの」