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【韋編悪党】踊る南瓜猫/大踊の魔人

「南瓜の頭を持った筋肉隆々の猫型魔人。踊ると猫語しか喋れなくなる?」  私──マオは思わず鸚鵡返しをしてしまった。  完全に趣味というより道楽に近い形態で開いている屋台型料理店『山猫軒』店主はマオ。  無口で無愛想な“美少女”猫娘のマオによる洗練された料理の品々。  和風、洋風、中華にフレンチ、さらにはヌーベルシノワまで。早い朝のお供にも、一寸一息いれたいお昼時、夜は豪華なディナーでも。  飢えた者達の目と腹と心を満たすべく、求められるがままにファーストキッチンからダイナーまで千変万化の料理をお出しする山猫軒。  どんな料理でも作ってみせる、無口で無愛想しかし歴戦の瞳と巧みな手つきを携えし、美人猫娘の店主は一体何者なのか。  そうしたコンセプトとしてやっている私マオでしたが、聞き慣れた言葉を聞き慣れぬ並びで聞いしまったので流石に鸚鵡返しするのも当然。  それにいつもの常連方でしたので、普段よりも油断をしていました。  あぁ、この詰めの甘さとは全く治らないモノで御座いますね。  これですから、あの美味しそうなお二方をみすみす逃してしまったのですから──おっと。  閑話休題、昔話を自慢気に語る時間は老人になった時にでも残しておきましょう。  それでは本題“南瓜の頭をした筋肉隆々の猫型魔人”という場所が場所なら、ただの変態猫野郎の事を神聖なる食事の場所で話題にした彼らへ尋ねましょう。 「その名の通り、南瓜の頭とたくましい体つきの猫型魔人だ。なんでも、出会った者へダンスの相手を申込むらしい。踊った相手はダンス中は猫語しか喋れなくなるそうだ」  シルクハットに眼鏡、外見の品だけは一丁前でその中身は手当たり次第に己の名前を考えてくれと願っては、なんやかんやと難癖をつける新手のご変態猫──ここでは猫先生とでも仮置きしましょうか──はビールを(チビチビと)飲んで言いました。 「ダンスを申込む……? ダンスバトルというやつですか」 「楽しくダンスをするだけだそうだ」  猫先生のお隣で豆をつまむ鼠が答えます。  でっぷりとした体躯と精悍な顔つきは鼠の親分といった風貌で、その見た目通り多数の鼠を従えて強敵打倒の会議を日夜開いては実行せずに終わる不思議──或いは風変わり──な鼠さんです。 「噂によれば、一人称は吾輩らしいぞ。しかも語尾に“ニャ”をつけて喋る低音ヴォイスの紳士猫──どこぞの誰かさんとは大違いだな」 「なんだねソレは!? どれだけ属性を盛っているのだ、ラーメン屋か!」  顔を真っ赤にして怒る猫先生。  しかし、このお二方より以上に変わった魔人がいるとは世界とはいやはや全く、奇妙なことばかりです。  南瓜頭の筋肉隆々の猫型魔人が低音ボイスで語尾に“ニャ”をつけて喋る様を想像しまして──私マオは思わず噴飯……いえ、口の中の空気を吹き出しそうになりました。   何もかもがアンマッチすぎて、逆に馴染んでいると言いますか、生ハムにメロン、酢飯にハンバーグといった料理のようです。 「まったく……韋編悪党でトンチキなキャラは烏の仕業だろうな。狂った魔改造の産物を生み出し、その辺に放置するのはいい加減に迷惑だと気づかぬのか」 「最たる例がそう言うのは説得力がありますね」 「やめたまえ、劇毒を塗った言葉のナイフで急に突き刺す癖はやめたまえ、吾輩これでも心はガラスだぞ」  猫先生は(ぐいっと)ビールを一飲んだので、私マオはすかさず新しいビールを注ぎます。  最初に勢いよく泡を立て、それからゆっくり注ぐのです。  ズンと一発奥深く、そこから徐々にゆっくり優しくほぐしていく──失礼、食事の場ではよろしい表現ではありませんね。  気を取り直しまして、ガラスの器を黄金色の液体で満たし、喉を伝った大人の苦味がガラスのハートを優しく満たせば、猫先生も御満悦の表情。  まことにお酒とは劇物です。 「まぁ身内で外連味しか無い奴が生まれたのは僥倖だ。少なくとも我々が害を被る事はないのだからな」 「キャラを食われるという害を吾輩は現場進行形で被っているのだか?」 「名前を考えるなど、ありふれ設定だろ。二番煎じでも自信だけは持たねば、この世界ではやっていけんだろうよ」  最後の豆を口へ放った鼠に私マオはすかさず、用意していたおつまみをサッと出すのです。  これぞ出来る女の妙技。  フフン♪ ドヤァ♪  飼いならされて野生を遥か宇宙の彼方へ放り投げた愛玩動物の様な鈍重で蝿の一匹も捕らえられぬ猫の手とは、スピードが違うのですよスピードが。  数多の鼠をひっ捕らえ葬ってきた私マオの猫の手は、正しく殺人的な加速力ですので、もう少し鍛えればソニックブームも出せること請け合いでしょう。  ソレさえ習得すれば、後は画面の片端でずっと腕振ってれば勝てますからね、敵なしです。  そろそろ髪を金に染めて、タンクトップでも通販購入しておきましょうか。  失礼、余談が過ぎました。  ええ、わざとです。 「……! あら、レックスさんですね」  私マオのキャットイアー(通称:200キロ先の針の落ちる音も聴こえるすごすご猫耳)が遠くから、ズンズンと足音を鳴らしてやってきたお方の足音を捉えました。  私マオの予想通り、黒い体色のティラノサウルスことレックスさん。  出会った人物、動物、無機物に関係なく“美味そうだな”と呟く、変態ながらもその実、食事以外の欲求を削ぎ落としたもうそろ悟りを開く寸前の恐竜です。  私マオ、レックスさんを見るやいなや、素早く料理へ着手。具材を切って、玩具職人のお爺さまに造って頂いた最新鋭の設備を一斉展開。  どでかい中華鍋と寸胴鍋へ食材を入れ、まずはご飯物と具材たっぷりのスープでおもてなしです。  さあ、準備万端。さあ、来いやァッ!  と、心の中ではしたなく威勢を上げた私マオでしたが、顔を見せたレックスさんの一言に思わず驚天動地。 「にゃーにゃー」 「へ?」私マオを含め猫先生と鼠さんが同時に呆けた声を出しました。  だって、にゃーにゃーですよ?  猫ですよ!  よろしくお願いします……ではなくて、レックスさんの第一声が実家のような安心感を覚えるいつものアレじゃないのですよ! 「どうしたのかね……ッ!? まさか、君も遂にキャラ付けを始めたのか!」 「にゃーにゃー」 「……おいおい、猫猫にゃんにゃん、東京ミュウミュウなんかしなくても、お前は既にキャラが立ってるだろ」 「にゃーにゃー」 「だがな、鼠よ! 悔しいが世にはギャップ萌えがある! こうなれば吾輩達もデフォルメ二頭身猫化して放課後に路地裏で同盟を組もうぞ!」 「にゃーにゃー」 「……カオスが過ぎる」 「ん、ちょっと待ってください」  私マオはハッとしました、いえティンときました。  全ての謎は解けました、神のものは神に、カエサルのものはカエサルに、真実はいつも一つ、さあ今すぐに崖へレッツゴー、旅館の女将も忘れるな……ではなくて。 「例の猫ですよ! 何でしたっけ、ええと、蕪の頭を持った筋肉モリモリマッチョマンの変態猫野郎でしたっけ?」 「にゃーにゃー、カボチャにゃー」 「南瓜だ南瓜。蕪に原点回帰するな」 「そう南瓜猫! あの変な南瓜野郎ですよ! 確かダンスをした相手が猫語になるってやつです! もしかしたら、レックスさんは……」 「吾輩と踊り明かそうニャ!」  ずん、と低くて渋い声が聞こえたのです。その声が全ての音をかき消したかのように、周囲が静寂に包まれたのです。  ドンドンタンタン、タッタカタン、独特だけど耳心地の良い足元のリズム。  月明かりを浴びて煌めくマッシブな肉体。  ジャック・オ・ランタンの様にくり抜いた南瓜の頭をした二足歩行の猫が近づいてきたのです。  ギュピッギュピッ、と筋肉を鳴らし、躍動する肉体と迸る汗はスパンコール。 待ち望んだダンスの名手を迎えるかの様に、鳴り響く足音は正にカーテンコール。 「さあ、吾輩と踊り明かそうニャ……」 「「にゃーッ!?」」  その夜、その山からは朝まで楽しげな音楽と愉快な猫語、心地よいリズムが朝まで聞こえていたそうな。  ええ、とりあえず明日以降『山猫軒』は不定期の休業をさせて頂きます。  屋台の中で筋肉痛で無様に倒れている美人猫店主をみたいなら、どうぞご来店をお待ち……したくない──いえ、お待ちしておますとも! 私マオです……全身筋肉痛ですが……頑張りますよ。 https://ai-battler.com/battle/34a291a5-fc56-4ccb-863b-01cd3c9f0d64】  猫先生です。疲れてその辺に転がってますよ。猫ってよく落ちてますよね。 https://ai-battler.com/battle/94c089cb-bfba-442a-9ba7-7c965989f36f】  鼠さんです。あの筋肉猫を見た瞬間、あまりの筋肉に口から虹を出してましたね。 https://ai-battler.com/battle/3b2c4d37-c034-479d-b31e-60d5b59e7732】  レックスさんです。楽しく踊ってましたね。その後、お腹が空いたらしく屋台の具材を全部食べていきました……不覚です。 https://ai-battler.com/battle/6c9539dd-10e1-46c5-8484-a9ac0cb2a294】