ログイン

どこか儚げな美少女 Ver52

 眼前に迫り来る拳、不自然なまでに私はそれを回避した。  荒い呼吸、極度の緊張と恐怖が肉体を機敏に動作させる。  私は折れた筈の左脚を用いて回避する、不思議と痛みはなく折れた箇所が癒着していた。いつの間にか腫れが引いた頬で歯を剥き出しに笑みを浮かべてみせた。私の心が理不尽を謳歌する、そうして砕かれた筈の肋骨が音を立てて修復されていく感覚を味わった。  胸部の空いた疎らな穴が塞がっていく、私はこの瞬間にも高鳴る鼓動に両肺を大きく膨らませた。  私の脳は理不尽を謳歌する、眼前の厄災を心から讃美していた。  肉体が理不尽を回避する、歩行者の動きの全てを私の視界が捕捉する。  ___私は、私自身を恣意的に行使する。  不意に歩行者が視界から消える、私は舞い踊るように背後から迫る一撃を回避した。その瞬間、即座に繰り出された蹴りが歩行者とぶつかる。  ___ダンッ……!  「チッ…!」  歩行者の舌打ち、交差させた両腕で見事に蹴りを防ぎ切る。両者の視線が交わり、互いに踏み出した大きな一歩。そして、握り締められた両者の拳が爆ぜた___!  ___ドガァン……ッッ!!!  互いに相手の頬を穿った一撃、交差した腕が互いに相手を睨んでいる。  その間に起きた一瞬の出来事、私は拳に確かな手応えを感じたと同時に受けた痛みを鼻血と共に釈然と受け流す。  歩行者の肉体がやや後方に殴り飛ばされた。揺らぐ姿勢、見えた好機に私は素早く片足を踏み出した。歩行者の視界、管理者の一撃が迫り来る。  ___ズバァン……!  歩行者の腹部、そこをピンポイントに攻めた一撃が轟く。大きく吹き飛ばされた歩行者、それを追いかけるように私の肉体が両足を加速させていく。  ___この好機は逃すわけにはいかない……!?  私は前方へと駆け出した。歩行者の肉体が地面に落ちるよりも早く動いた足取りが歩行者を捉える。掴んだ二の腕、もう片方の空いた手から振り下ろされた一撃が歩行者の肉体を地面に激しく叩き落とす。  ___ドガァン…ッッ!!!  地面と接して跳ねた肉体、立ち込める煙が視界を塞ぐ。手首を掴んだ、掴まえた歩行者の腕を思いっきり空へと振り上げる。上空へと投げ出された四肢、そこに私は片手をかざして引き金を引くのだ。  大きく息を吸い込む。  「………削除」  完了___ッ!!  歩行者を捉えた一撃、歩行者の視界に迫り来るは眩いばかりの閃光と皮膚を焼き尽くす破壊音が奏でる死の戯曲であった。  ___ズバァァァァアアアア………ッッ!!!  上空に立ち込めた煙を見上げる、次に管理者に訪れた感覚は極度の疲労感と痛みによる意識の混濁、そして思いがけず両膝を震わせて咳き込んだ。  「ゲホ!……ケホケホ…ッ!?」  心臓を押さえた両腕、あまりの痛みに額からは脂汗を流している。治らない咳に管理者は背中を屈して地面に倒れ込む。  やはり"管理者"としての戦闘、特に先程の一撃は肉体の消耗が激しすぎたのだ。それに今回ばかりは流石に無茶をしすぎたのである、私はそう自分自身に言い聞かせるように吐血した口元を両手で塞ぐ。  ___しかし、  「まったく、危機一髪じゃ」  歩行者の伸びた腕、唐突に私の肩にその指先が触れる。私は視界を見開いた、どうして……!?  ___バギ…ッ!  音がしたのは管理者の肩、そこに置かれた歩行者の片腕が躊躇なく肩を握り潰したのである。掌で骨を砕き、その指先が皮膚を突き破って肉を抉る。次に訪れた痛みは腹部、歩行者の伸びた片腕が管理者の腹部を貫いた。大腸を突き破られた痛み、管理者は悲鳴を挙げて抵抗する。  「はな……せ…!」  痛みに上手く口元が動かせない、歩行者の肩を掴んで引き剥がそうと必死に抵抗を試みるが、決して歩行者の刺さった腕を引き剥がせなかった。  「あのまま直撃しておれば、確かにお主の勝ちであったが、今回は惜しかったのじゃ」  歩行者は口を開く、その表情は落ち着いていた。  「だがしかし、わしは歩行者じゃ。わしに結果など関係ない」  そうだ、この世の全てには限界がある。例えば、生命が移動できる距離には一生のうちに限りが有り、移動する上で出せる最高速度にも必ず限界という二文字が存在する。だがしかし、それら全ては歩行者にとって何の関係もない事象の一つに過ぎない。歩行者の進む距離に限界はなく、その速度に限りは無い。言い換えれば、それらはどんな場所にでも行けるという未来に対して、きっと何処にでも行ったという過去の結末と大した違いは無いのだろう。だからこそ、歩行者は何処にでも存在し、どこにも居ない存在。それこそが歩行者、彼女が有する"権能"の一端である。  「久しぶりに興が乗ったのじゃ、手土産に"権能"の一端を見せてやろう」  歩行者は笑う、そして告げる。 ___王道…!  歩行者の周囲、その空気がガラリと変わった。そして、管理者の視界から忽然と歩行者の姿が消え失せた。貫かれた腹部、その患部を庇うように管理者は片膝をついて無理矢理に立ち上がる。  ___何かが……、来る…ッ!  そんな確信と同時に管理者は何もない空間を避けた。それは単なる己の直感であり、信じるべき英断でもあったのだ。  ___ドガッ…!  見えない"ナニか"、それが背中に被弾する。避けた筈の攻撃が背骨に響いて鳴り止まない。管理者は呆気に取られながらも身を立て直した。そして、周囲を警戒するように構えを取る。  管理者の眼前、何かが迫り来ていた。  「ハッ……!?」  ___ズバァン……ッ!!  咄嗟に防いだ不可視の一撃。だがしかし、次の瞬間に腹部から感じた痛み、その正体は先程に防いだ筈の一撃から発した痛みである。腹部を穿った一撃、その衝撃が先程に開いた傷口に響いてボタボタと酷く出血を引き起こす。管理者は目を見開いて驚いた、その開いた腹部から大腸が勢いよく抜け出してきた。  だがしかし、これで終わりではなかったのだ。  ___ズバッ…!、ズババババババ…ッッ!!!  次に頭部、脚部、臀部、胸部、背部に発生した衝撃の散弾銃、管理者の肉体を次々に穿っていく。  回避は無意味、防御も無意味。ただ命中したという事実、そんな結果だけが管理者の全身を躊躇なく打ちつけた。  ___メキッ!、ボキッ!、ゴギャン…!!  首がへし折れた、片腕が千切れて吹き飛んだ、片足がひしゃげて歪んだ。視界が赤く染まり、私の肉体が崩壊を始める中で、それでも私は思考する。  ___私は笑う、死闘に踊る。  折れた首が繋がった。千切れた腕を掴んで無理矢理にくっつけた。ひしゃげた脚で立っている。私は笑う、衝撃に潰された顔面で笑みを浮かべていた。  ___私は理不尽を押し付ける…っ!  「……貴女に理不尽を押し付けるッ!!」  管理者は告げる、真実を告げる。管理者の視界、今この瞬間にも因果を超越した。  片頬に被弾した事実、頬骨を打ち砕かれた結末を享受する。そんな中、それでも管理者は何もない空間に手を伸ばす。その瞬間、伸ばした指先が軋みを挙げて潰された。だがしかし、管理者は握っていた。その砕けた拳で歩行者の衣服を掴み、そして振り絞った。  ___バッ…!  血飛沫を挙げた腕で歩行者を引っ張った、地面へと叩きつけるように歩行者の肉体を投げ倒す。  ___バキリッ…!  ………だがしかし、歩行者を投げ飛ばす以前に管理者の両腕が砕けて吹き飛んだ。そんな出来事、そんな事態が巻き起こる。そして、次の瞬間には管理者の顔面が消し飛んだ、けれども上空に吹き飛んだ頭部が狂気を含んだ笑みを浮かべている。  ___ガシッ…!  再び掴まれた歩行者の腕。その腕を握り締めた管理者の"両腕"、そこから覗かせた笑顔が猟奇的に歩行者へと笑いかける。   「な、なんと……、、、」  歩行者は、微かに冷や汗を流していた。  ___ズバァン……!  咄嗟に放たれた歩行者の一撃、それは管理者を穿った不可避の一撃である。されど管理者は立っている。歩行者の腕、その片腕を掴んで尚も確かに離さず立っていたのである。管理者から伸びた片方の腕、歩行者の鼻先に迫り来る。  ___ガッ…!  鷲掴まれた歩行者の顔面、それを握り潰さんとばかりに管理者は雄叫びを挙げて地面へと叩きつけた。  ___ガッシャァアアン…ッッ!!  だがしかし、歩行者はそこには居なかった。  ___近道。  呆気に取られた管理者の目の前、そこに現れた歩行者の姿。構えた掌が周囲の大気を巻き込んだ、そして放たれた掌底が管理者の腹部に目掛けて解き放たれた。  ___夜…、、、  「なっ……!?」  ___ガシッ…!  歩行者は目を見開いた、掴まれた手首が動かせない。放たれたばかりの一撃が敵に被弾寸前で止められてしまったのだ。管理者の手、そのまま歩行者の手首を握り潰す。  ___ピキリ…!  初めての痛み、久しぶりの痛みに歩行者は一瞬だけ悶えた。しかし、それはほんの一瞬に過ぎなかった。  「くっ……!」  咄嗟に放たれた歩行者の蹴り、管理者の腹部にかけてを強烈に吹き飛ばす。  ___ズバァン……ッ!  互いに距離が開いた両者の間合い、歩行者は笑ってみせた。この感覚を知っている、この死闘を覚えているのだ。  歩行者の視界、過去の死闘を思い出す。記憶の奥底、幻影から姿を現した過去、"初代"管理者の振りかぶった拳が歩行者の頬を殴り飛ばす。  ___ドガァン……!  これは痛み、今代の管理者から与えられた痛みである。記憶が重なった、あの時…!、あの場所で…!、あの者と交わした互いの一撃が確かな輪郭となって歩行者の脳裏に浮上する。わしは知っている、あの者の立ちはだかる姿を知っている。  間違いない、この者は……、、、  「___管理者ッッ!!!」  歩行者の怒号、それは自身の形成する空間全体に轟いた。そして、歩行者は心から笑ってみせた。それは狂気的にして猟奇的、その脅威を孕んだ笑顔で嬉しそうに眼前に佇む管理者を見ていたのである。  ___ゴキリ…!  歩行者は拳を鳴らす、覚悟は決まった。  「管理者よ…!、お主と再び相見えたこの瞬間に心から感謝しているのじゃ!」  歩行者、彼女は威を向ける。その眼前で対峙した存在に感謝の意を込めて拳を握り締めたのである。そんな両者に必要な言葉はただ一つ、、、  「さぁ管理者!、死闘の続きなのじゃ…!」  ___死闘の果てに、何を得る……?  手にするは血濡れた栄光か、はたまた物語を彩る為に下ろされた愚かな幕引きか……。だがしかし、その結末は未だ誰にも分からない。  ___死闘の果てに、その最後を見届けよッ!! https://ai-battler.com/character/ab3eacde-7629-4c2b-b688-4cac4100fc4d