ログイン

【韋編悪党】マオ/調理の魔物

 いつもは多くの人が訪れる『山猫軒』の屋台も今日だけは違った。人の寄り付かぬ森の中で静かに暖簾を上げて、迎えたのは三名の客。  店主の少女はいつも通りの無愛想な顔で黙々と料理を作る。慣れた手つきで次々と出来上がる小鉢が客の前に置かれていく。 「…何を間違えれば斯様な結果になるのだ烏よ」  お酌に注いだ酒を飲むエメラルドの目をした大魔法使いは苛立たしく尋ねる。 「何を間違えたのだろうなぁ」  小鉢の豆を啄む烏は他人事の様に告げた。彼もこの様な結果になるとは予想だにしていなかったのだ。 「ふん、一流劇作家が聞いて呆れるな」  大魔法使いは荒々しく机を叩く。 「落ち着けって大魔法使いさんよ。確かに想定とは異なる結末だが、これもこれで悪くない…だろう、お嬢ちゃん?」  唐揚げを口に放る狼はそう言って少女に微笑むが、彼女はやはり何も返さない 「狼、暢気は冗談だけにしておけ」大魔法使いは酒を呷る。「悪の魔物になれる存在は限られている。無駄には出来ぬのだよ」 「へいへい」狼は不服そうに頬杖をつく。  三匹の会話は静かな夜の帳が包んでいく。  酒のつまみには強すぎる毒気の企みを。