◯月◯日 何かがおかしい。 先日里親に引き取られたラウルから手紙が返ってこない。 この家を忘れてしまう程現在が満たされているのなら、それは構わない。 むしろそうであってほしいと思う。 だが、何か妙だ。 ラウルは昔から筆まめな子だった。 家を出た後も、何かあるたびに手紙を寄越してきた。 新しい家での暮らしのこと、はじめて食べた料理のこと、庭で見つけた珍しい花のこと。 取り留めのない話ばかりだったが、それでも私は楽しみにしていた。 それなのに、ここ最近の手紙は妙に短すぎた。 筆跡は確かにあの子のものに見えたが、今にして思えば何か違和感があった。 同じことはハーヴェイの時にも起こった。 あの時も手紙の内容が急に素っ気なくなり、やがて届かなくなった。 …もしも。 もしもその手の技術を持つ者ならば、子供の筆跡くらい、簡単に真似られるのではないか? あの手紙は、本当にあの子たちが書いたものなのか? 考えすぎだろうか。 だが、もしそうでないとしたら。 家を離れた子供たちに、こちらから過度に干渉するべきではないと思っていた。 だがそんな事を言っている場合ではないのかもしれない。 一度、二人の里親について調べ直してみよう。 懸念はもう一つある。 現在、2組の夫婦が里親候補として名乗り出ている。 彼らが選んだのは、シランとスピネルの2人。 シランに関しては既に断っている。 あの子は正体を隠して生きるには強大すぎるうえに、まだ力の扱い方も知らない。 あの子はまだ、外の世界に出すわけにはいかない。 …だがこの分では、スピネルの件も断ったほうが良さそうだ。 当面の間は、子供たちを外に出さない方がいいかもしれない。 考えすぎならそれでいい。 杞憂であるならそれに越したことはない。 …それでも。 もしも、そうでなかったとしたら。 もしも、あの手紙を書いたのが、別の誰かだったとしたら。 私は、何に子供たちを引き渡してしまった? あの子たちは今、どこにいる? ───院長アドニスの日誌