「さて諸君! これより第一〇五回打倒会議を始める。我々が此度打突すべき敵に選んだのは、かの有名な少女!」 ジメジメとした穴倉に集まるネズミたち。小さな箱の上に立ち、威勢よい声を響かすリーダー格のネズミがいつものアレを始める。 「ボス! かの少女は食べるのが好きなようです。よって絶品の毒入り料理を作ってやればイチコロです!」 「成程。で、その料理とやらは誰が作るのだ? 勿論、私は料理など作ったことがないぞ」 沈黙、ネズミたちは口を閉じる。 誰も自ら名乗り出ようとしないのだ。 …Sunset、Sunrise… 「諸君! 良い朝だな、さっそく第一五五回打倒会議を始めよう。此度の打倒すべき相手は虫めづる姫君だ」 「ボス、簡単ですぜ! 虫どもの弱みを握って俺達の味方に引き込んでやりましょう!」 「おお、中々に悪党らしい名案だ。しかしどうやって弱みを握るのだ? 私は虫の言葉は解らぬぞ」 躊躇、ネズミたちは同胞の顔を見合わす。 お前がやれ、いいやお前がやれ、と。 誰しも他者を頼るばかり。 …Sunrise、Sunset… 「諸君、今日はあの最強の炎の魔女を打破するぞ!」 「ボス、あの魔女はレベルが高い、つまり流行りのレベルドレインでやっつけるのです!」 「ふむ、れべるどれいんってのはどうやるのだ?」 頓挫、ああやはりか。 身の丈に合わぬ敵へ闘志を燃やし、いざ掲げるのは荒唐無稽な作戦の山。 「…新手の拷問か?」 「いつもの討論さ、大魔法使いさんよ」 呆れるエメラルドの瞳へ、慣れた狼はさらりと混ぜっ返す。 恐ろしき大魔法使いに狼が何時もより強気なのは、横でネズミ達の会議を見物する男のお陰だ。 「かっかするなよ、大魔法使い閣下。バカも集まって考えを煮詰めれば馬鹿にならないかもしれないだろ」 ふざけた調子で愉しげな言葉を口にする男だが、その声色は不気味な程に無機質。 「バカを煮詰めても濃縮されたバカが出来上がるだけだ。改変も改悪も不要な存在がこの程度…心底落胆させてくれるな」 ギロリとエメラルドの瞳が狼と男の方へ向けられる。不満と怒りで震える瞳に、狼は口笛を男は煙草をふかしそれぞれ無関係を装う。 「…諸君! 次こそは…」 会議は続き、悪党は踊る。 無生産、無意味で無価値。 だが、それこそネズミの会議なのだから。