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【教会の猟兵】アレックス・フォン・ヴェネット

 化け物の殺害専門の掃除屋。教会からの依頼や人々の懇願、それらを受け青年は銃を取り、化け物を殺す。その在り方から人々は尊敬と畏怖の念を籠めて、「教会の猟兵」もしくは「聖人の猟犬」と呼ぶ。  彼は、孤児であり、名前の書いてある紙とともに、森に捨てられていた。それを助けたのは、黄色い皮膚の下に筋肉や動脈が透けて見える8フィートの怪物であった。彼は怪物にまるで祖父に懐く孫の様になっていたが、怪物は彼に人の道を歩んでもらう為に、彼を教会に預けた。その教会の司祭は、怪物の優しい心に感動の涙を流した。司祭は、「すべての人間は神によって造られ、神に愛されている存在である。それ故等しく平等である。」という理念を持っていた。それ為に、怪物の在り方が眩しく見えた。そして怪物にも人の心は宿ることを知った。それから彼と司祭は定期的に怪物と交流をしていた。  そして彼は、誰にでも優しく接する「好青年」に成長することができた。しかしそんな彼の運命は歪み始める。  とある事を識ってしまった。それは怪物と司祭が、彼の出生を調べている時に、彼の亡き両親について調べている時に、発見してしまった事実。そして彼に黙って、墓まで持っていこうとした事実。彼の父は、列強国の名の通った軍人であった。その国は、負け知らずと言えるほどに強かったが、とある戦争が起こった。その戦争は、弱小国で、負けないだろうと言われていた。しかしその戦争に、第三陣営として、化け物が現れた。いや違う。化け物は、単身であり、そして戦争において必要不可欠な大義など持ち合わせ無い、陣営とは呼べぬ化け物が、戦争を蹂躙した。そして、その被害者の中に彼の父はいた。  ここまでならまだ良かっただろう。しかしこの話には続きがある。その化け物は、戦場を去った後、とある村に向かった。その村こそが、彼の生まれた村だった。それを司祭が知ったのは、手掛かりを探している時、村の跡地付近で、怪物が偶然とある手記を見つけたからだ。始めは、ただの日記だと思っていたが、化け物が戦場を蹂躙した日に、こう書かれていた。 "私は、彼女を止めることができなかった。そしてこの子を頼まれてしまった。村に現れた隻腕の化け物は、「ヴェネットの姓を持つ者よ出てこい。さもなくば一人ずつ殺して回る」と言い、見せしめの為に近くに居た村長を殺した。私は、彼女に逃げろと言った。私には彼女を止める義務があった。逃がす義務があった。老い先短い私が向かう義務があった。しかし彼女は、私に子を託し、ロザリオを握りしめ、庭から杭を引き抜き、向かっていってしまった。………だめだ化け物が追ってきたようだ。ならばせめてこの子はこの森に置いていく。さあ化け物よ私は今向かうぞ。この私、ジョンソン・フル・ヴェネットが" と書かれていた。そして何の因果か、彼、アレックスはこの手記を見てしまった。そして戦争の事まで調べ上げてしまった。  そこから彼は、化け物へ激しい憎しみを抱き「復讐者」となった。そして、化け物を殺すための銃と銃弾を作り上げ、教会からの依頼と人々の頼みを受け化け物を狩るの掃除屋となった。だが、化け物をいくら掃除しても、教会のためになっても、人々の頼みをこなしても、清き水の祝福を得ることはできなかった。  彼の在り方はダブルスタンダードである。確かに人に敵対する化け物が居るが、人と友好的な怪物も居る。その事実が彼を迷わせて、腕を鈍らせる。その迷いを相談しようと久しぶりに怪物の元に向かった。  そこで彼は、悪夢に遭遇した。そこでは、宴会が開かれていた。多くの人々が、騒ぎ、料理を頬張り、酒を煽りっていた。その宴会の中心にとある物があった。彼は、それを見た瞬間に、駆け出した。理解してしまった。その答えを否定したかったが、彼の記憶が、思い出が、その答えを肯定する。見間違えるはずもない。そこには彼の命の恩人、彼を心優しい司祭に引き合わせてくれた怪物の首があった。  彼は、宴会の参加者を、押しのけながら向かい、首の前で膝をつき、慟哭した。そして、彼に対する声が出るが、彼の耳には聞こえない。しかし「あの化け物、最後まで無抵抗で気持ち悪かったですね」「ハハ、違いねぇ。しかしこれでこの森の開拓が進められるな」という会話が彼の鼓膜を揺らした。彼は、失念していたのだ。心優しい怪物がいるなら、化け物の心を持つ人間も居るということを。彼は、理解した。そして静かに撃鉄を上げ、号砲を鳴らした。その号砲と共に、彼の心は粉微塵に砕け散った。  その後、その宴会場は、死屍累々?否、そこに生物がいた証は、地面に染み込んだ赤い色のみとなった。皮肉なことに彼は、最も憎む化け物が戦場で行ったことと同じ様に、圧倒的な力を持って、蹂躙した。その後、司祭のもとに行き、共に怪物の墓を作った。  それから彼は感情がなくなった。それらしきものは、ただ壊れた映写機が「好青年」というズタズタのフィルムを映しているだけなのだ。壊れた心では、感情は起こり得ない。しかし、清き水は壊れた彼を、煩悩のない青年を、迷いのない青年を認め祝福を与えた。まるで清き人とは心の壊れた人間であると言うように。そして青年は、掃除屋としての仕事を再開した。  しかし、以前と違い、必ず被害が出てから銃を取る。これは、彼の 怪物 との思い出が、損壊したフィルムに残っている為、あの時の悪夢が砕けた映写機のレンズに焼き付いて消えない為。 故に青年は、悪事を働いた化け物のみを殺す。人々は、青年が人間の味方ではないことを理解している。あくまで化け物の敵なのだ。青年が、教会が、人間を化け物として定義した瞬間、青年は容赦なく引き金を引くだろうということを。  心の壊れた青年の歩みは依然として続く。映写機が全壊する迄、運命が真綿で彼の首を絞め切る迄