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どこか儚げな美少女 Ver13

 よっ、皆んな!、元気にしてたか?  俺は2週間ほど病院で寝てたらしい、そんで今日が退院日だ。  手荷物を確認、最後にマフラーを首に巻いた。  それでさ……、  瑞稀のやつは、まだ目を覚さないでいた。  「おーい瑞稀、早く起きないと俺が帰っちまうぞ〜」  そう頬をつつきながら喋りかけるが当然の事に返事はない。原因不明の昏睡状態が続いている……まぁ、植物状態ってやつだな。  俺は頭を掻いた。  「待ってる、ってお前は言ったな……だからさ、俺もお前が目を覚ますまで待ってるからよ、焦らず寝坊しててくれ……」  俺は病室を出た、また明日も来る事にしよう。  きっと、必ず、絶対、明日には目が覚めると信じて……また明日な…!  そう言って、流れた涙を袖で拭った。  あっ、それと告白の件なんだが……………、  フラれた……。  まぁ、まだ希望はあるっぽいがな……、  大体、こんな感じの会話だ。  「そう言えばフウタロー、瑞稀さんが来る直前に私に何か叫んでませんでしたか?」  「えっ…!?、アレ聞こえてなかったの!」  「はい……?、それどころの状況ではなかったので失礼ながら聞き逃してしまいました。」  「マジかー……いや、じゃあ改めて言う事にするよ」  「………?」  「一目惚れです!、俺と付き合ってください!」  俺は緊張した面持ちで少女の顔を見た、すると愛は笑っていた。  「あっ、ごめんなさい……すごく真剣な表情だったので」  ですが___、  「ごめんなさい、その告白は……」  「そうか、俺じゃあ不足だったか」  ____いえ、そうではなく  「えっ………?」  「私はまだ、貴方という人物……山田風太郎という男性のことを何も知りません、なので……この先、フウタローについて私に教えてほしいのです。」  「つまり、一旦フラれた……?」  「そう……ですね、もしくは保留という言い方が正しいかもしれませんね…?」  「そうか……いや、それで十分だ!、愛…お前に見合うだけの男だと必ず証明してみせるよ!」  その言葉に少女は儚く笑った、今にも消え入りそうな姿の奥に確かな存在を感じさせる神秘的な情景に俺はまた惚れていた。  「えぇ、ではこれからよろしく、フウタロー!」  愛はそう呟いた、俺は………少女に恋をした。  儚く笑う少女に恋をしたのだ、だから……この先の人生に溢れんばかりの祝福があらん事を……!  ___と、まぁ……意気込んだはいいが、実際はあんまり自信はないんだがな………。  それから俺は今、瑞稀の家に向かっている。  そもそも家が隣合っていて帰宅するにしても方向的に通る必要があるから結局のところ寄るけどよ。  では、その理由は何だろうか……?  それは___、  第一に猫を譲り受ける為、そもそも元々は愛の飼い猫だしな。連絡は電話で先に済ませてあるし、隣人の俺が受け取りに行った方が話が早いだろうから俺が行く事にした。  第二に謝罪だ、今回の件は夜中に崖から落ちそうになった俺を瑞稀が体を張って助けようとして両者共に落下……なんていう酷い筋書きになっているらしい。  しかし、真実はどうあれ……今回の件は俺が引き金となっていたのは事実だ、瑞稀の気持ちを考えず軽率に行動したのが発端で……そして結局、あいつを救えなかったのだからな………。  俺は苦虫を噛み締め、胸元に触れる。  たしか……俺の肉体には寄生虫がいるんだとか言われた。元々それは瑞稀に寄生していたが、聞くところによると常人なら発狂する程の寄生虫からの介入を瑞稀は超人的な肉体と精神で押し込めていたんだと………、  気づけなかった、何も俺はあいつの苦しみに気づく事ができなかったのだ。  瑞稀はいつも笑っていた、何も変わった素振りを見せず笑っていたのである。  そして___、  先の暴走は強いストレスによって楔が外れてしまった故の結果だったらしい……。  本当に___、  「瑞稀は強いな……」  おっ、瑞稀の家が見えてきたな…!  でっ、あそこにポツン…と立っている一軒家が俺ん家。  そして、その隣にバカデカい豪邸が聳え立ってるのが瑞稀の家だ。  ってか、デカ過ぎんだろ…  武闘家ってのは何をどうやって生計を立ててるんだ?、この地域でも有数の名家だからか?、そして俺の家の隣に何で住んでるんだよ…ッ!?  「ま、まぁ今はそんな事はどうでもいい、気合いを入れろ山田風太郎!」  俺は瑞稀の家の戸を叩く、というか今時インターホンとかないのかよ…!?  引合家の看板が目についた、看板娘の瑞稀がいない現在は誰が看板を守ってるんだ?  すると___、  「誰ですか〜!」  バカデカい門越しに子供の声が返ってきた、誰かは直ぐに分かった。  「俺だよ俺!、フウタロー」  「えっ!?、フウ兄…!」  「そうだ!、ちょっと親父さんに用事があるんだ。そっちで開けてくれよ!、俺じゃあ開けようにも門がピクリとも動かせないんだ!」  「相変わらず弱いなぁ、フウ兄は」  「お前ら一家が強すぎるんだよ!」  ___ガラガラガラ  門が音を立てて開く、この門……毎回思うが何tあるんだ?  そんな門を軽々と開けてみせた人物がひょこりと戸から顔を出した、たしか今は小学……何年生だっけ…?  「よっ、久しぶりだな」  「ふふっ、久しぶり、フウ兄…!」  こいつは瑞稀の妹、引合 火乃香(ひきあい ほのか)、瑞稀と同じで強い、同じ人間かと疑うぐらいには馬鹿げた強さである。  「開けてくれてありがとよ、帰りも頼んだ」  「いいよ〜」  ___ガラガラガラ…!  だから何で平気な顔して閉められんだよ!?、その体の何処に筋肉があるんだ?  「あっ!、パパはこっちだよ」  トテトテと走り去っていく火乃果の後ろを歩く。  ___というか、武闘家って脳筋のイメージがあるが、この家はシャレた庭園をしている。なんだっけ?、なんか庭がすごくて有名な寺みたいな感じの雰囲気がする。  そういえば___、  「今は誰が看板娘をしてるんだ…?、まさかお前では流石にないんだろ、他に適任者は誰かいたっけな?」  しかし、立ち止まって自分自身の顔を指差した火乃香の表情はにこやかだった。  「マジかよ……!」  強いとは言ってもまだ子供だぞ…!?、どうなってんだこの家は___  しかし、その考えは一瞬にして消え去った。  いや、正確には___、  とある人物の放つ存在感に圧倒され、掻き消されてしまったという方が正しいだろう。  ラオウみたい巨漢の髭面が縁側で胡座をかいていた。その組んだ足元には黒猫が寝息を立てて寛いでいた。  こちらを向く___、  「よく来たな息子よ」  「だから息子じゃねぇよ!」  「お前は将来的に瑞稀の婿になる男、息子と呼んで問題あるまい」  「問題しかねぇよ!」  「なんと!、義理の父に向けてなんたる口を!」  ふと思った、瑞稀が俺のことを好きだったのは親父さんの影響な気がする。  「ところでさ、その猫……」  「こやつか、愛い奴であるが仕方ないの」  優しげに猫をこっちに渡された、見た目と言動に似合わず意外と気配りのできる人である。  「ありがとよ、それから………」  瑞稀の事で謝りたいのだが、そんな時のことである。  「あらあら、久しぶりね、フウちゃん」  家の奥から現れたエプロン姿のマダム、彼女は瑞稀の母親……そして出てきた、という事は……。  「おぉ〜!、ママたん大しゅき〜ッ!!」  親父さんがハイテンションで妻に飛びついていく。この人、家族の前だと変なんだよな。  「いやんパパ、恥ずかしいわ…!」  抱きつかれる直前、炸裂した照れ隠しのビンタ……それは音速を超えていた。  ___ズバァン…ッ!!  旦那が壁に垂直に突き刺さる、いつもながらにこの婦人は規格外である。  それから紹介しよう、この女性こそが引合家の現当主"引合 翠(ひきあい みどり)"、その人である。あと……念のために言っとくが見た目はエプロンを着ていて人妻感ある優しげな母親だが、実際のところこの婦人には家事・育児に関する能力なんてものは始めから搭載されていない生粋の武闘家だからな!、この人に料理をさせようものなら屋敷全体が爆発で吹き飛ぶぞ! (※以上は実体験を元にコメントされています。)  だからよく聞いてくれ!、この人のエプロン姿なんてコスプレ同然だからな!、間違っても家事をさせるんじゃないぞ!、絶対だからな!  「あらあら、今すごく貶された気がするわ〜」  「気のせいですッ!?…………あと、それから俺、お二人に話があってきました。」  「あらあら……?、そうらしいわよパパ」  ___ムクリ!  「なんと!、とうとう婿養子になる決心をしたか!!」  「違ぇよ!、でも……瑞稀の話ではあります……」  猫は一旦、火乃香に預けた。  そして畳間に通された俺は、三つ指をついて頭を下げる。  「この度は誠に申し訳ございませんでした!!」  畳に頭を打ちつけた、事の顛末は伝えてある。  「バカな俺を庇って瑞稀は崖から落ちちまった!、この件については俺が全て悪いんですッ!、本当に申し訳ございませんでした!!」  真実はどうあれ、俺が全て悪い……それは事実である。瑞稀を救えなかった!、俺は…救えなかったんだ!  「顔を上げよ、息子よ」  「出来ません!、俺にはそんな資格なんてないんです!!」  何度も畳に額を擦り付ける、いっそこの場で殴り殺してほしい程に俺は頭を下げ続けた。  「いいから顔を上げんか!」  「出来ません!、俺には……俺には………」  上げられる筈はない、そんな事できる訳がない!  「あらあら……、どうしましょうパパ…?」  「ふむ、任せよ」  ___ドカン…!  畳間に走った衝撃、瞬間的に部屋全体の畳が宙を舞って俺を浮かせる。ドスン……と尻餅をついて俺は床を殴ったであろう親父さんを見つめていた。  「これで落ち着いたか、息子よ」  「へっ?、あっ、あぁ……」  一瞬のことに訳も分からず返事を返した俺、すごく混乱していた。  「よいか息子よ」  何を言われるのかと身構えた、罵倒だろうが侮蔑だろうが何でも来い!、俺にはそれを言われるだけの義務がある!  「まず、これは武闘家として述べよう」  んっ………、何だ?  「娘の瑞稀は立派な武闘家だ、そんな崖風情から落ちたところでどうにかなるようには鍛えておらん」  いやいや、それはそれで人間としておかしいだろ…!?  「次に父親として述べよう、娘はバカを助ける程にお人好しではない、つまり娘が本当にお前さんを助けたのだとしたら、それだけの価値がお前さんにあるから助けたのだろう」  ほうほう……、なるほど…?  「最後に息子よ、これは同じ男として述べよう」  ___というか、さっきから息子呼びされてるんだが…!?  「よく聞け息子よ、お前の目は誰かの為に己の身を全て投げ出せる男の目だ。加えてお前さんは、"瑞稀がお前を助けた"、そう言っていたな?」  「あぁ、俺が不注意にも___」  「しかしな息子よ、ワシはそれこそ逆だと思っておる」  目の前に座っていた男は三つ指をついた。  「山田風太郎よ、本当は娘を守ってくれていたのだろう。そうでなければ今頃、瑞稀は既に死んでいたはずだ。だからこそ、己の身を賭してさえ娘の命を守ってくれた事に深く感謝する!」  親父さんは……俺に頭を深々と下げていた、違う俺は……俺は……瑞稀を……!  「だからこそ聞かせてくれ、お前さんの隠している事を全部聞かせてはくれないか?、本当の真実とやらをワシら二人に聞かせてほしいのだ」  胸が締め付けられた感覚、無意識のうちに俺は口を開いていた。  「…………あんまり、信じられる話ではないが……」  俺はポツポツと少しずつ真実を語った。玉蹴りを繰り出す儚げな少女に恋をした事、瑞稀に寄生していたクソムシの事、その果てに何があったのかを語ったのだ。  「ふむ、クソムシなる存在がお前さんに」  「あぁ、今はまだ眠っているらしいが、いつか目覚めては俺を存在ごと食い尽くすらしい……まぁ、時間の問題ってやつだな」  俺は頭を掻いた、話すべき事は包み隠さずに全て話した。  「ふむ、よく話してくれた息子よ。そしてなんと……何という辛い思いを……」  「あらあらパパ、泣いてるの?」  「そうだ……泣いておるぞ、涙が止まらんぞ!」  毎回思うがこの人って案外、涙脆いんだよな……。  「では息子よ!」  「息子じゃねぇよ!…って、何だ?」  「その玉蹴り少女なる者が少しばかり気になる、何やらワシの肝が痛むのだ」  「あらあら、尿路結石かしら?」  「違うのだママよ、何やら昔に因縁があったような気がするが……うむ、思い出せんな」  「昔と言ってもよ、相手は俺より年下だぜ?、そんな訳ないだろ」  「ふむ、そうであるか……しかし、ふむ……」  「まぁ、じゃあ俺は帰るぞ、久しぶりに二人と話せてよかった」  少しだけ…、ほんの少しだけではあるが心が楽になれた気がする。  俺は屋敷を後にした、背後で閉まりゆく門と火乃香の声に振り返らず手だけを振って応える。  俺、山田風太郎は誓う。  必ず幼馴染を救うと誓う。  そして告げる___、  きっとこの先の物語、俺はたくさんの者を失うだろう___。  だが、俺は誓う。  決して絶望に屈しないと誓う、決して恐怖に立ち止まらないと誓う、決して希望を捨てずに前へ進むと誓う。  そして___、  どんな困難であっても俺の憧れたヒーローのように何度でもカッコよく立ち上がってみせると誓おう。  だから……だからよ瑞稀、少しだけ待っててくれよな。俺は必ず……お前を目覚めさせてやるからよ、絶対に…何があっても絶対に……!  俺、山田風太郎は心で誓った。