この世には、戦うよりも自分自身や誰かの心を動かすような事に、自分の能力を使いたいと考える者が少なからず存在する。ネフィラ・オーレリア(Nephila Aurelia)もその一人だ。彼女の生み出す金糸は、何者かを傷付けるためにあるのではない。それは彼女自身が一番よく知っている。 蜘蛛魔族は本来、凶暴性の高い種族である。糸を吐き出して獲物を絡め取り、拘束して喰らう。中には毒を持つ種もあり、とりわけ人間からは恐れられ、忌避される存在。 しかし生物というものは不思議であり、進化の過程で変異が生じる事で異なる特性を持った者が生まれる可能性がある。ネフィラは、そのような遺伝的変異が生じた事で誕生した個体だ。 同じ蜘蛛魔族から見ても、彼女は異質であった。黄金色に輝く繭を持つ個体が生まれる事は初めての事だった。彼女は形あるものに美しさを見出し、それらが崩れ去る姿を酷く忌避する。 物静かで、言葉を紡ぐ以外の方法を持って自らを表現し、強く主張しない。 それ故に、ネフィラは孤立しがちであった。同族が誰一人として彼女の創り出した物を評価する事もなく、そればかりか価値観の違いが原因で排斥的に扱われて何者も仲間と呼べる状態に無かったのだ。 自分が生まれたこの群れの中に自分の居場所など無いのだと悟ったネフィラは、群れから距離を取り孤独の身となる。 それからネフィラは、陽光の差す明るい森の中で一人、自らの金糸を用いた塑像の制作に没頭している。時折、森に迷い込む他の魔物や人間が来ることもあるが、地面に張り巡らされた彼女の金糸はそれらを優しく捕まえる。だがその糸が命を奪う事は決して無い。ネフィラにとって、命とはそれもまた美しく輝く芸術に等しく、それを破壊する事は全く望まない。 もし森の中を歩いている時に彼女の金糸に絡め取られる事があれば、落ち着いて対話を試みると良い。一見すれば異形と取れるその姿に取り乱さず、破壊や否定に繋がるような敵対行動を避ければ喜んで解放してくれるだろう。ついでに彼女の作品に理解を示す言葉をかけると良いかもしれない。誰だって丹精込めて作り上げた作品を褒められるのは嬉しいものだから。