「ヴァイス」について聞きたいって? こいつはALFCシリーズの下位モデル「マリス」に戦闘支援用の計算機を積み込んだ、いわゆる中位モデルでな。人工重力を兵器転用した物理兵装を持たない新世代の人型機動兵器であり、性能は当時の主要企業のフラッグシップモデルと同等かそれ以上。かつ、それらに比べて生産性がかなり高いという夢のような機体だった。複数の重力場を組み合わせて生み出す指向性の高い力場は、攻防一体かつ隙のない強力な兵装となりうる。あらゆる攻撃をものともせず、戦場の全てを支配することすら可能なこの量産機は、市場を席巻する予定だったんだが……技術開発費用を取り返そうとかなり強気の値段設定をしてしまったために、あまり普及しなかったんだよ。 当時の顧客受けを狙って必要もないのに人型にしたのが、開発・生産コストの向上につながったとされててな。後発のハイエンドモデル「エクスマギカ」ではこの点が大きく改善されたのさ。そもそも、この機体フレームは人型と呼べるかすら怪しいものだったんだがな。第一に、自立機動のためのモーターやポンプといった機構が組み込まれていないんだ。じゃあどうやって移動するのかというと、自ら発生させた力場に吊り下げられる形で移動する。この機体は常に、磔にされた罪人のような格好で飛び回っているのさ。「大枚はたいて計算機を積むなら、まずこの飛び方をなんとかしてくれ」あるいは「これは本当に人型機動兵器なのだろうか」と、搭乗者たちは皆思っていたよ。 が、しかし、この人型機体と物理装甲こそが、この機体をマスターピースたらしめているのだ。人型であるが故に脳波感知による直感的な操作が可能となっている。搭乗者は自らの思考一つで、プラグを刺すまでもなく、防ぐ、飛ぶ、切り裂くといった力場操作を難なく行うことができる。コックピット内の微弱な電磁波の変化を感知するのさ。こと「場」を操り、あるいは保護することにかけて、ALFCの右に出る企業はないだろう。また、非質量系の兵装を積んだ機体が増加するにつれ、力場の障壁以外の物理装甲で攻撃を防ぐ必要が出てきたが、この機体は後継機たちと違ってそのことで悩む必要がなかった。後年、この機体はその売り文句と、オーパーツとすら言える性能から傭兵たちの語り種となっている。曰く、『稀代の白い悪徳は、全ての戦場を過去にした』と。 ……ここまで、これを売りつけてきた技術屋の受け売りな。いい機体だと思うだろう? 俺もそう思った。実際、何度も助けられてるしな。ま、買った直後は後悔したが。 で、そんなマスターピースが出てきた戦場は、それからどうなったか? 変わったな。地獄に変わった。 こいつが直接どうこうしたわけじゃないんだが、この機体のシリーズに「エクスマギカ」というハイエンドモデルがいてな。これが大層暴れ散らかしたせいで、各企業が力場生成技術をなんとかものにしようと躍起になった。 力場、つまり人工重力は、擬似的な質量……平たく言えば、そこに物体が存在するかのような空間の歪みを故意に発生させて生成する。エネルギーの物質化を不完全かつ急速に行う、だったかな? ま、なんにせよ、あらゆる企業がこの歪み発生装置の出力を向上させようとしていた。そんな時、ある企業が偶然見つけちまったんだ。空間のエネルギー化を。……正確には空間の物質化だったか? まあ、どっちでもいい。そこからは早かった。誰も力場なんて見向きもしない。空間を糧に、至近距離での核爆発すら耐える機体ごと、空間そのものを破壊するんだ。あらゆるものが消えていったよ。街一つを焼き尽くすほどの熱線を放ちながらな。 それで、世界はあっけなく終わった。 じゃあお前はなんなんだ、って? まあ、ノーコメントとしておこう。 ただ、空間は歪むんだということを覚えておくといい。歪むということは座標や実体があるってことで、当然そこには余白や裏表が存在する。俺は……逃がされた。世界の裏側に。みっともなくな。 どれもこれも、こっちの世界で言ったってしょうがない話なんだがな。 なんにせよ、傭兵がバトルシミュレーションで食っていけるのはありがたい話だ。俺の世界もきっとこうだったら……。どうでもいいか。 さて、おしゃべりはここまでだ。 諸君、ようこそ未来へ。棍棒すら持てなくなった人類の代表が、少し遅れた世界の裏側でお相手しよう。 Apocrypha System all clear. セーフティを解除します。 祈っているよ、君たちの世界に幸在らんことを! ハイルフォルト・バーゼン:「ヴァイス」、出撃する! 保有achievement 【ORIGINAL Rank.34】 [ レイヴン ]: まさか、また生身で闘うことになるとはな。こっちの「人間」は随分強い。この世界はまだ終わるまいよ。 【しんぱんをこえて、いのちはとびたつ】: どこの世界にも馬鹿はいるって言うがね。研究者ってのはどうも碌な人種じゃあないな。だが、まあ、生き物いじろうとしなかっただけまだあいつらも倫理って奴を持っていたんかね。せめて冥福くらい星に願ってやるとするか。 【仮面の下の「万能ロボット」】: 真っ二つにした時のあの爆発・・・。原子炉搭載機でよく見た形だった。あれだけの高速機に積める原子炉をあそこまで小型化するとは、全く末恐ろしいな。