「こんにちは、黒いお友達。今日もいいお天気ね。あ、ちょっと鱗が剥がれかかっているわ。直してあげたいけれど、あなたの鱗は私のお針子さんには強すぎるみたい」 彼女はそう言って、クスクスと笑った。 ヴァジュラーグは語らない。ただ、低い唸り声を上げ、鼻から熱い息を噴いた。けれど、彼女はそれを「照れている」と解釈し、彼に最高に甘い果実を差し出した。 その時から、奇妙な友情が始まった。 ヴァジュラーグは、彼女が作業に集中している間、その傍らで静かに翼を広げ、彼女を風から守った。 彼女は彼に、物語を話した。 いつか訪れるという、世界を飲み込むほどの「災厄」について。そして、その災厄を打ち破る「勇者」について。 「私はね、その勇者さまのために、最高の衣を縫わなきゃならないの。どんなに激しい炎に呑まれても、どんなに鋭い刃が襲っても、勇者さまを守れる、愛と勇気の衣をね」 彼女は、空っぽの型紙を広げて、困ったように眉を下げた。 「でも、困ったわ。勇者さまがどんな体型か、全然わからないもの。大きすぎるかも、小さすぎるかも……。ふふっ、もし勇者さまが、あなたみたいに大きかったら、私、一生かかっても縫い終わらないわね」 ヴァジュラーグはその言葉に、小さく鼻を鳴らした。 彼にとって、衣などというものは脆弱な布きれに過ぎなかった。しかし、彼女が針を動かすたびに、その布に宿る「意志」のようなものが、彼の魂に触れるのを感じた。 それは、彼が持っていた破壊的な力とは対極にある、創造の力。 誰かを守りたい、誰かのために尽くしたいという、静かだが揺るぎない情熱。 されど災厄は無慈悲に、そして恐るべき早さで全てを飲み込んだ。 竜は完成しなかった衣を、その為に必要な道具を、彼女の代わりに護り続けている。 いつか揺るがぬ勇気を以って、彼女が待ち続け、そしてこの地から災厄を退けんとする者を。