――『宿命を拒み、宿命を継いだ男』―― 「未来は決まっている。」 エルドは、その言葉が大嫌いだった。 エルドは辺境の小さな村で生まれた。 村には代々受け継がれる予言があった。 「この村は百年後、滅びる。」 誰も逆らわなかった。 村人は受け入れた。 「宿命だから。」 しかし、一人だけ違った。 幼いエルドは叫ぶ。 「未来なんて、変えられる!」 青年となったエルドは、世界中を旅した。 災害を止める。 戦争を防ぐ。 疫病の治療法を見つける。 滅びると予言された都市を救う。 誰よりも努力した。 誰よりも人を助けた。 しかし。 結果だけは変わらない。 戦争は別の理由で始まり、 疫病は別の土地から広がり、 都市は別の災害で滅ぶ。 どれだけ抗っても、 結末だけは同じだった。 旅の果て。 彼は誰も知らない神殿へ辿り着く。 中央には巨大な石碑。 そこには無数の名前と、 人生の終わりが刻まれていた。 生まれた日。 死ぬ日。 出会う人。 別れる人。 全て。 世界中の生命の一生が記されていた。 エルドは震える。 「……これは何だ。」 その時。 神殿の奥から一人の老人が現れる。 老人は静かに言った。 「宿命の記録だ。」 老人は石碑の最下段を指差す。 そこには、 まだ刻まれていない一行があった。 やがて文字が浮かび上がる。 エルド・モイライ その下には、 彼の人生が書かれていた。 旅立ち。 出会い。 敗北。 絶望。 そして── 「宿命を継ぐ。」 エルドは怒りに震えた。 「ふざけるな!」 彼は剣で石碑を斬る。 砕けない。 魔法を放つ。 傷一つ付かない。 何度壊そうとしても、 石碑は最初から壊れていなかったことになる。 彼は膝をついた。 初めて理解する。 「宿命とは……変えられない結果か。」 老人は微笑んだ。 「違う。」 「宿命は、お前を縛るものではない。」 「お前が背負うものだ。」 その瞬間。 老人の身体が光となって消える。 石碑は崩れ始めた。 世界中で、人々の運命が揺らぐ。 老人は最後に言う。 「私は、宿命の番人。」 「役目は終わった。」 「次は、お前だ。」 エルドは逃げようとした。 拒もうとした。 しかし、 石碑に刻まれた最後の文字が光る。 『継承』 その一文字と共に、 宿命そのものが彼へ流れ込んだ。 エルドは静かに目を閉じる。 「未来は変えられると思っていた。」 少しだけ笑う。 「違った。」 「未来は、選び続けた先で宿命になる。」