ログイン

【王のいない王国】戒(かい)

世界は、魔法少女たちによって守られていた。人の負の感情から生まれる“悪”は思念体であり、魔法以外では滅ぼせない。戦えるのは、遥か昔に王の力で魔法使いとなった者たちの血を引く少女たちだけだった。戒はその戦いの外側にいるはずの青年だった。十八歳。何の力も持たない。ただ一つ、大切なものがあった。妹・光莉。「……また怪我してるのか」扉が開く。血の匂い。光莉は何も言わず靴を脱ぎ、壁にもたれる。「平気だって」「やめろよ、もう。そんな戦い」「無理。みんなを守るから」その言葉で、戒は何も言えなくなる。守りたいのは自分も同じなのに、何もできない。  その夜、街の中心で異変が起きる。警報。魔力の暴走。光莉は傷だらけのまま飛び出した。止められない。テレビには戦う魔法少女たちが映る。だが明らかに劣勢。「……死ぬ」戒は地下へ向かう。封じられた禁書。開く。理解する。“破滅の力”。「……守る」それだけで十分だった。  戦場。光莉は膝をついていた。目の前には圧倒的な悪。戒はその間に立つ。「兄さん……?」「終わらせる」禁術が解放される。制御不能の力が世界を歪ませ、悪を消し飛ばす。だが同時に街が崩壊した。瓦礫、悲鳴、血。「……あんた、何をしたの」魔法少女たちの目が変わる。戒は理解する。自分は守る側ではなくなった。「……そうか」背を向け、去る。  旅が始まる。禁術は体を侵食し続ける。ある日、戒は“それ”に出会う。形の定まらない存在。理解を拒絶する何か。厄災。それは戒を見て、興味を持った。力が流れ込む。「……いい、使ってやる」こうして戒は変わり始める。  戦いの中で、戒は自称四天王と遭遇する。連携された攻撃に苦戦するが、禁術と厄災の力を融合する。「完全厄災」その瞬間、戦いは終わる。  やがて光莉の戦いを影から見守るようになる。ある日、仲間の会話を盗み聞く。「光莉が一人で残った」その瞬間、戒は走る。辿り着いた時、光莉は倒れていた。血だらけで動かない。「……どけ」悪の前に立つ。足りない力。「……借りるぞ」光莉の残した光を取り込む。「完全天国」優しい力が世界を包み、悪を消し去る。戒は光莉を安全な場所へ運び、再び姿を消す。  だが現れたのは本物の四天王だった。完全厄災も完全天国も通じない。「……弱いな」その言葉で理解する。「……全部使う」制御を捨てる。「完全地獄」因果すら破壊する力で四天王を殲滅する。  それから日々が過ぎる。戒は悪を倒し続ける。人知れず、妹を守るために。ある日、耳に入る。「魔法少女たちが悪の王に挑む」場所は遥か遠方。間に合う保証はない。「……行くしかない」戒は走る。  一方その頃、戦場。魔法少女たちは総力で王骸に挑んでいた。だが圧倒的だった。一瞬で数人が消える。「……勝てない」誰もが悟る。だが逃げない。「光莉、あんたは逃げなさい」仲間が言う。「嫌だ、私は――」「いいから行け!」その瞬間、魔法少女たちは前に出る。肉壁として。「やめて!」光莉の叫びも届かない。一人、また一人と消えていく。それでも数秒だけ、時間が稼がれる。王骸が最後の一撃を振り下ろそうとする。光莉は目を閉じる。  その時。「……間に合った」衝撃が止まる。戒が立っていた。「後は任せろ」周囲を見る。倒れた仲間たち。「……ごめん」戒は手を伸ばす。取り込む。命を、力を、存在を。人の道を完全に外れる。それでも止まらない。すべてを融合する。「完全世界の王国」さらに進化。「完全世界の王」王骸との最終決戦が始まる。世界が壊れ、再構築される。戒は触れる。「終われ」その性質を与える。王骸は崩壊する。  静寂。すべてが終わる。戒は思い出す。「光莉が普通に生きる世界」それを叶えるため、すべての力を使う。時間を遡る。人類すらいない時代へ。そこから戒はただ見守る。干渉せず、救わず、壊さず。王として。数千年。光莉は平和に生きている。戒のいない世界で。それでも、空を見上げるとき、ふと呟く。「……誰かが見てる気がする」遠くから、その姿を見ながら、戒は静かに座る。「……それでいい」彼は世界を救った。だが、その世界に彼の居場所はなかった。