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【空想に焦がれる者】アストラル・ライザ

『勇者は、その膨大な魔力と卓越した剣術で魔王を打ち倒し、世に平穏をもたらした。』 『一説によれば、「双子山」を象徴する大渓谷は、勇者が振り下ろした剣撃によって生まれたと言われている。』 『一説によれば、「溶岩の噴水群」は勇者が魔力を地に伝え、それに応えた大地が溶岩を地表まで押し上げたことで発生したものだと言われている。』 私が幼い頃、親に読み聞かせをされた時、鮮明に印象に残った箇所だ。私の中の勇者像は、山を割るほどの魔力、世界と心を通わす意志の力、魔王を倒す勇気の3つで構成されていた。その全てが、温室育ちで退屈な日常を過ごしていた私には輝いて見えた。 成人の儀を終え、王都で聖女として人々をお守りすることになってからは、一人でいられる時間が訪れると、必ず「自分が勇者様だったら。」という妄想に浸り、必殺技まで考えた。 けれどそんな妄想が実際に役に立つ日はなかなか来なくて、毎日毎日聖なる力を持て余しながら人々と共に神へ祈りを捧げたり、悪霊に取り憑かれたという人に加護を授けたり。こう言ってしまうのは聖女としてアレかもしれないが、作業感が強くて飽き飽きする。 「私の考えた技を実際に使う日って…来るのかな……」 「ええと…聖女様、今なんと?」 「あっ!いえ、別に……ただ少し、昔の勇者様の伝承を思い出しまして……ええと、何用でしょうか?」 おっと、こんな妄想ばかりの聖女様に色々してくれるお世話係の子が来てしまった。ブツブツ言ってた技名とか…聞かれてないよね? 「あ、あの…女神様、聖堂の前に謎の不審人物が…」 不審人物…単なる不審者だろうか。ここ最近は空気がピリついている気もするし、多分ストレスか何かで奇行に走ってしまっているのだろう。 「聖堂付近を巡回していた騎士たちはどうしました?」 「それが、聖堂内で倒れていて……」 え?うそ。あの人たちとは面識もあるけど、相当屈強そうだったのに…しっかり戦えちゃう不審者って感じ…?もしかして、今まで考えてきた必殺技を使うチャンス?なら即答するしかないよね!仕方ないよね! 「わかりました、私が出ましょう。」 「え…聖女様!?何を……」 やった〜〜〜〜〜〜!!!!初めて技が使える〜〜〜〜〜〜!!!!!不審者さんには申し訳ないけど、私の考えた必殺技にぶちのめされてもらっちゃおうかな〜??? 「任せておいてください、私が解決してきます。」 _____________ 時代は流れ、数年後のとあるダンジョンにて。 「へえ〜、あんた聖女だったのか。あまりにも強いうえに回復魔法とか微塵も使わねーから、僧侶にしちゃ変だなとは思ってたが。」 「なんなんですかこの本は……私の妄想とか過去の話とか全部……!!」 「ふと思ったけど、エ……いや、ライザ…さんってたまに敬語崩れるよね。今のを見た感じ、敬語じゃない方がスタンダードだったり…?」 「ゆ、勇者様まで私を…あーーーもう!そう!そうですよ!聖女が僧侶のフリして勇者パーティに忍び込んですみませんでした!でも後には引けないのでこのまま連れて行ってください!」 「すんげえ早口…」 「ま、まあ…僕たちもライザさんの力は頼りにしてるし、今更って感じだけどね。」 「で………でも…………聖女様の力を…ど、独占するのは……良くないんじゃ………」 「んま大丈夫だろ。こいつがパーティに入る時、やたらこっち見てきたフードの女がコイツの従者なら、俺たちがパーティとして勝手に連れてくのを認めてくれてたってことだもんな。」 「ああ、あの人か…確かにすごい形相でこっちを見ていたし、店を出る時は満面の笑みで腕を組んで頷いていた……多分そうだろうね。」 「あの人、いたんですか…」 「逆に気づいてなかったんだ…」