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【街の人々に愛されて150年越え】悪魔

初めは、ただの気まぐれだった。 己の欲望のままに目立ち過ぎた行動をした結果、吾輩は幽閉された。嗚呼、忌々しい。あの天使共が。 反省の心などない。ただ愛する者を守っただけに過ぎん。 それに結果として、吾輩が愛した者が望まぬ未来から解放されたのだから、寧ろ晴れやかな気分だ。 檻の中は退屈で仕方ないがな。つける限りの悪態はついてやったがそれも飽きた。 飽きたので脱獄してやった。 そんな吾輩を召喚する者がいた。それは、この街のかつての領主の男だった。 この男は吾輩に何を求めたのだろうか。 単純に力か、ありとあらゆる知識か、それとも秘術か。はたまた吾輩の加護そのものか。 今となっては分からんし、どうだっていい。この男は吾輩の姿を見て、恐れて叫んだのだ「醜い化け物」だと。 様々な生き物を繋ぎ合わせたこの姿がさぞかし刺激的だったのだろう。腹が立ったのでぶん殴ってやった。召喚してくれた事に免じて、一応加減はしてやった。 ここがどこかは知らんが適当に人間界を再度謳歌してやろうと思い、部屋を見渡した。 祭壇やら黒魔術の道具やら、随分と周到に用意してくれたらしい。ふと、足元に気配を感じた。ガリガリに痩せた、みすぼらしい子どもがいた。 生贄まで用意していたとは。それも全て、この愚かな男の言葉で全て台無しになったがな。 景気付けに取って食おうとしたその刹那、子どもが口を開いた。 「助けてくれて、ありがとうございます!!」 ……悪い気はしなかった。ついでに家族ごと食ってやろうと、気まぐれに家まで届けてやった。 「娘をありがとうございます!!」 「貴方は私達家族の恩人です!!」 ……悪い気はしなかった。とうに聞き飽きた悲鳴などより、ずっと心地の良い響きだった。 ガリガリに痩せた街の人間共が教えてくれた。聞けばこの街の領主は悪政を働き、街の人間を虐げているらしい。それは都合が良い。この街を支配してやろう。 子どもを家族の元へ帰し、領主邸へと戻った。タイミングよく領主の意識も戻っていた。必死に命乞いするから取引きしてやった。命を助けてやる代わりに、吾輩を領主にしろと。 領主と呼ばれた男は、愚かだったが話は早かった。晴れて吾輩は領主になった。やたらへりくだる元領主の男に、礼としてその前歯をへし折ってやった。 人間の建造物に入るにはいささか不便な身体だった。人間の姿になってやった。 ガリガリに痩せた人間だらけの汚い街だった。食っても美味くないだろう。肉を与えた。 知識はおろか、読み書きすらままならない愚かな人間だらけだった。あらゆる学問を叩き込んだ。 人攫いが跋扈していた。ふざけるな。吾輩の獲物だ。 人攫い共を役所で金に換えてやった。 風が吹けば飛ぶような、見窄らしい建造物だらけだ。取り壊して新しくした。 純真な魂が育ちやすい場にしてやった。 せいぜいその少ない人数を無理のない範囲で増やして吾輩のために働け。 そうして150年が経った。最早この街は吾輩に対する敬意で満たされている。 あぁ、これか。元領主の前歯だ。初心を忘れないよう、常によく見える所に飾っている。街の人間共が、吾輩に対する敬意を忘れないように振る舞わねばならぬからな。 素晴らしい気分だ。堕天した事も、天使どもに出し抜かれて幽閉された事も未だに腹は立つが、それが無ければ味わう事が出来なかった気分だ。 吾輩は支配欲と所有欲が強い。今度こそ慎重に立ち回ってやる。 神の意志に背き、自分の意思で行動した者の数が罪となった。くだらん。吾輩は吾輩の心の赴くままに気に入った者と共に有るだけだ。 ……彼女もその1人だった。否、今でもその1人だ。手には入らずとも、永遠の輝きとして、今でも吾輩の胸にある。なぁ、サラ。 信念の始まり https://ai-battle.alphabrend.com/battle-result/cls17g3v205vms60o63bdd1h9