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父なる神の戦車

『汝、わが愛する子よ、わが栄光の輝きを示す者よ、見えざるものを、―――わが神性を、その面(おもて)に見えるものとして示し、わたしが定める行為をその手で示す者よ、ああ、第二の全能者よ! ~中略~ わたしは、汝のうちに無限の力と権能(ちから)を注ぎ込んでおいた。 それは、天国と地獄におけるすべてのものに比類なき汝の力を知らしめ、また、やがて汝によって鎮められるはずのこの度の騒乱こそ、汝が万(よろず)のものの世嗣(よつぎ)、そうだ、汝がまさに世嗣たるとともに、汝が当然の権利である聖なる塗油(あぶら)を受ける王たるにふさわしいことを示す契機であることを、知らしめるためなのだ。 されば、汝、いと強き者よ、汝の父の力を信じて行くがよい。わたしの戦車に乗り、天の大地を打ち震わせるこの迅速な車輪を駆って、出撃するがよい。 わたしの軍勢の全員をひきつれ、強力かつ全能な武器である、わたしの弓と雷霆(いかずち)とを汝の身にまとい、わたしの剣をその強い腰に佩(お)びるがよい。 そして、これらの闇の子等を追い払い、天国のあらゆる境界からいや果ての深淵の中へと墜してしまうのだ。かくすることによって、神と、頭に油を塗られた王である救世主を蔑むことがいかなることか、そこで心ゆくまで学ばせるがよい。』 ~中略~ 父なる神の戦車が旋風(つむじかぜ)のような轟音を発し、炎々たる焔をあげ、車輪の中に車輪があるような勢いで突進していった。 車輪は牽(ひ)かれることなく自らの霊によって動き、四人の智天使(チェラブ)もその先導をつとめた。 その各天使は、それぞれ、驚くべき四つの顔を持ち、その体にも、翼にも、くまなく星のような眼が輝いていた。緑柱石の車輪にもまた眼があり、これらの眼の間からは焔が噴き出していた。 頭上には水晶のような蒼穹(そら)が拡がり、そこには、澄みきった琥珀と虹の七色を鏤(ちりば)めた青玉の玉座があった。 御子(みこ)は、煌めく宝石(ウリム)に装われた、神の制作にかかる天来の武具をもって身を鎧い、戦車に乗られた。 その右手には鷲の翼をもった『勝利』が座を占めた。 腰からは弓と三箭(みつや)の雷霆の入った箙(えびら)が垂れさがっており、御体(からだ)のあたり全体からは、濛々(もうもう)たる煙と、ひらめく焔と、恐ろしい火花とが、すさまじい勢いで渦を巻きながら噴き出していた。 御子は、幾千、幾万の聖徒の大軍にまもられて、前へ、前へと、はるかに遠い彼方から燦然と輝きながら、出撃していかれた。 ~中略~ 四人の天使が、すぐさまその星のような眼を鏤めた翼を拡げた。その下には恐ろしい影が長くつらなった。 御子の戦車の輪が、激流の音か或は夥しい軍勢の怒号のような凄じい音をたてて、猛烈な勢いで回転しだした。 御子は『夜』のように黒々と、ただまっしぐらに背信の敵軍をめがけて進んで行かれた。 その燃えさかる車輪に圧(お)され、勿論神の王座は別だが、さしもの盤石不動の天も隅々まで震えあがった。 瞬く間に御子は敵軍の真只中に到達され、右手にしっかり千の十倍もの雷霆を摑み、前方に向かって投げつけられた。 それは敵軍一人一人の魂に恐るべき一撃となって突き刺さっていった。 彼らはもう茫然自失というか、すべての抵抗力を失い、すべての勇気を失い、持っていた空しい武器の類をことごとく放棄してしまった。