「…!どーやら、奏とバルバレアの皆様たちがやってくれたみたいですわ!!」 邪竜に立ち向かうことを決意した英雄の一人である「ブチコーム・ララティーナ大佐」は邪竜の二つ目の頭を吹き飛ばした光をサングラス越しに見つめながら言った。 「だとしたらこちらも動かなくてはいけませんわね!」 彼女はありったけの弾丸を打ち尽くして弾倉が空になった軽機関銃を投げ捨てると、どこからか愛用の二挺のガトリングガンを引っ張り出す。 「毎回思うんだけどそれどっから出してるんだ…?」 「あら奏。さっきの一撃、お見事でしたわ。」 「おう!バッチリ決めてきてやったぜ。さて、今度はそっちの番だぜ?お嬢!」 「えぇ、任せて下さいまし!」 彼女は自信満々に言い放つと勢いよく走り出す。 大佐は前方から勢いよく向かってくる無数の獣を確認すると、二挺のガトリングガンから暴風雨の如く放たれる弾丸でなぎ倒していく。 「どんどん来やがれですわ!」 絶え間なく襲ってくる獣に向けて言い放つと両手のガトリングを別の大群に向けて再度放ち始める。 その時、最前線で暴れまわる友を眺める奏の背後から”彼女”はゆっくりと現れた。 「はぁあ、休日出勤ね… 料金割り増しよ?逃がさないから!」 「そいつはあんたの活躍しだい、ってところだな! ん?…あれ、確か俺今日出勤だった気が…」 --------------------------------------------------------------- 悪しき魔女によって生み出されし三頭竜。 しかし、三つあったその首もいまや残り一つ。 「これは…ちょっとだけ予想外だった、かな…」 邪竜撃破への隙を作るために絶え間なく向かってくる者達を生成した竜の尾で薙ぎ払いながら思考を巡らす。 戦況は段々とこちらが不利になりつつある。切り札の三頭竜は大きく弱体化し、いつ再起不能に追い込まれても不思議ではない。 「いや、「ちょっとだけ」じゃあないね。私の予想を遥かに超えているよ、君たちは。」 だが、ここで倒れるわけにはいかない。 全ては彼女達のため。 それが「悪」である私が出来る唯一のことなのだから。 「それじゃ、こっちも気合を入れ直さなきゃね。」 そう呟き、こちらに歩んでくる”彼女”に目を向ける。 外見は15歳ほどだろうか。美しい金髪と糸目、眼鏡と旅装を身にまとっている。そしてその姿はまるでおとぎ話に出てくるエルフそのものであった。 注目するはその実力。 戦わずともわかる、彼女は相当な実力者だ。 「これはまたスゴい人が出てきたね。それで?君は何者なのかな?」 「私はただの村娘よ。」 「こんな危険地帯にわざわざ自分からやってくる村娘なんて存在しないよ。」 さて、どうしたものか。 向こうの手札がわからない以上こちらも安易に近づかないことが得策か? いや、こちらはただでさえ数で負けているのだ。誰がどのタイミングで仕掛けてくるのかがわからない上にこうしている間にも敵の増援は増えていく。これ以上一人一人に時間をかけては邪竜が完全に再起不能に陥るのは時間の問題だ。 考えを巡らせながらもう一度目の前の娘に目を向ける。 (ザっと見たところ装備は軽装、近接武器と思われるものは無し。後方支援担当かな?なら…) 次の瞬間、彼女は地面を蹴って高速で間合いを詰める。 (小細工される前に速攻で決めるとしようか。) 瞬時に腕を刀のようなかぎ爪が付いた竜の腕に変化させながら突進し、彼女の頭上目掛けて勢いよく振り下ろす。 (貰ったッ!) その時であった。 「あっ、そこ罠でーす。」 突如足元の地面が光り輝き、轟音と共に爆ぜる。 「…!?」 咄嗟に背後に飛び退き爆発のダメージを最小限に抑える。 回避行動があと数秒遅れていればコートの裾が少し焦げるだけでは済まなかっただろう。 「後衛だと思って油断したわね?「大魔王」に触れようなんて、片腹痛いわ。」 「大魔王…?ハッ、いいね。そう来なくっちゃ。」 指を鳴らし、背後の三頭竜に彼女を攻撃するよう指示する。三頭竜の頭は一つしか残っていないため戦闘能力は三分の一にまで低下しているが、灼熱のブレスで彼女ごと辺り一帯を地獄に変えるには十分だ。 「じゃあこっちも全力で行くよ、「大魔王」サマ!」 竜が大きく口を開き地獄の業火を吐き出さんとしたその時。 【世界が一瞬だけ闇に包まれた】 いや、正確には【世界中の太陽光がこの場に集められた】 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 邪竜撃破に向けて集められた助っ人の一人である【不触(さわれず)の魔法使い】ルピナス。 今、彼女の手によって膨大な魔力と共に世界中の太陽の光が遥か頭上に集められる。 ルピナスは周囲を見渡すと、紅色の瞳を開き ・・・―――我らは詠唱する、念じる、唱える (ささやき、いのり、ねがう) 『遠き彼の地より、星と月の祝福を希う ・・・―――今こそ来たれ煌めく太陽!!』 刹那に静寂と暗闇の後 空から煌めく一柱『ソル』が降り注ぎ 煌めく【太陽】が大地を焼き焦がした。 【不触(さわれず)の魔法使い】ルピナス、三つ目の首の破壊に成功! これにより三頭竜再起不能!