その妖鬼の男は、一切の素性が明かされない。 狂気の傭兵団、十三ルーブルの銀翼のNo.2であり、異端の天使が最も信頼を置く懐刀。それ以外の情報は何も無い。 ただ、その天使を護る為だけに存在するような鬼。 その顔に刻まれた幾つもの刀傷はもう古く、しばらく戦っていないように思えるが、それでも尚、彼の発する威圧感は銀翼の天使とは別ベクトルで狂気的だ。 きっと、天使との別れが来るその時は、石となった小さい膝より低く傅いて、太刀を置き、ただぽつりと。 「…お疲れ様やった。ゆっくり休みなはれ。ボス。」 そう、シワを深くしながらつぶやくだろうと思えてしまう。そんな想像が簡単にできる。それくらい、天使や天使の描く世界に心酔し、寄り添っている。 一目見ただけでも、この下っ端諜報員の俺でも分かった。今、この電報を打っている指が震えている。どうにも、俺にはその種も歳も超えた愛情が、狂気にしか見えない。 化け物が、化け物を。愛するだって? 奴らは人類の脅威だ。確実に。 追記 すまない。途中から日記になってしまった。中央合衆国諜報員としてあるまじきことだが、少し錯乱していた。 本当に報告したいことは、あの平次と呼ばれる妖鬼のスキルと魔力について。 あの妖鬼には、それらが一切 ーーーーーーーーーーーーーーーーー ー中央合衆国政府議事堂に置き去りにされていた、鮮血が染みた不審な魔力電報よりー ーーーーーーー 個人スキル “生まれ出ずる日”覚醒2.0 触れた他人や物の中に自分を妊娠させる能力。自分の成長速度は悍ましい程速く、最短3分で腹を破って誕生する。誕生に時間を掛ければ掛けるほど今の自分に近い存在が誕生し、1か月もすれば剣を持って誕生する。 物の中に妊娠させた場合は、腹蹴りによる振動や内部破壊を引き起こし、誕生=乗っ取りとなる。 この自分達は皆自我を持ち、長く妊娠していると自ら個人スキルを持つこともある。 ちなみに、これによってルナの肉体には無数の平次が潜んでおり、ボディガードや逃亡の手引きを行っている。 武器 月光刀 2.0 丈夫でよく手入れされた太刀。生まれ出ずる日の影響を受けていて、妊娠50年目。中の平次にも個人スキルがある。 妊娠した平次の影響で、斬った部位の魔力を食べたり、肉を食べたり、刀だけで動いたり、生きている武器だ。 平次個人スキル “日没”覚醒2.0 半径10m範囲の対象を闇黒の空間に入れ込む能力。この空間は入れ込まれたことを知覚できず、入れ込まれても別に変化はない。 しかし、平次のみはこの別空間に肉体丸ごと入って自由に行動でき、攻撃も透け、一方的な攻撃が可能。 タイムリミットは5秒間。