「ふわぁ……ここ…とってもきれい…」 世界を救う旅を続けているハクメイはふと目を覚まし、一面に広がる雲海のような地面を見つめてそう呟いた。 ハクメイは世界を救う旅をしている勇者だ。彼女の出生は呪いから始まりその圧倒的な力を恐れた魔王によって覚めることのない眠りの世界に堕とされた。それでもなお彼女の力は文字通り覚醒し、旅のほとんどを眠りつつもついに魔王を討伐したのだ。 「ここは…何処だろう…?」 魔王を倒し、ハクメイの呪いは多少は弱まったものの生まれる前から魂に刻まれた呪いは消えることはなく、今なお一年の殆どを眠りに費やしている。そして眠っている間も夢遊病のように歩いてしまう魔王討伐までに付いた癖により起きた時には大抵どこなのか分からない場所で目覚めるのだ。 ハクメイはあたりを静かに見渡す。辺り一面を覆い尽くすベットのようにふかふかで、雲のように純白な地面。日の出とも日の入りとも分からない傾き、優しく照らす太陽と星々。風は静かに吹きハクメイの長い銀色の髪を靡かせ、天からの光を反射させさらに美しい宝石のように見せる。 「あれは……」 辺りを見渡していたハクメイはふと遠くに何かを見つけ慌てて駆け寄る。 「……良かった…眠っているだけみたい…」 ハクメイが見つけたもの、それは横になっている少女であった。最初は生きているのかすらわからずギョッとしたハクメイであったが、直ぐに寝息が聞こえることに気づき安心した。 「…ん……なに…に…ゃ…?」 ハクメイが駆け寄った足音で起こしてしまったのか少女はナイトキャップに入った耳をピンとそばだたせながら薄っすらと瞳を開ける。 「…ごめん…起こしちゃった…?」 少女は眠気を振り払うかのように軽く頭をふるふると左右に振ってからハクメイの金色の瞳をじっと見つめる。ハクメイは彼女の深い泉のような静かな青色の瞳を見つめ返す。 しばし、どちらからも切り出すことなく静寂が流れる。 「……むぅ……」 少女はそう小さく漏らすと再び目を瞑った。ハクメイはそれを見届けるとふと自分も眠気に襲われていることに気が付き少女の横に、しかし邪魔にならないように気を配りつつ寝転び……微睡みに任せて意識を手放した。 次に目を覚ましたハクメイはあいも変わらず薄暗く幻想的な雲の上に居た。 (心地の良い睡眠だったな……) ハクメイは少し名残惜しく思いつつも起き上がろうとした。 (あれ…なんか…後ろに…?) ハクメイは後ろに何か暖かい物がくっついていることに気が付きそっと後ろを向く。 「…すぅ……すぅ……ぅ…すぅ…」 先程の少女だった。 (幸せそうな寝顔…。起こすのは…よくないのね……) ハクメイはそう言い訳するかのように考えると再び眠り落ちていった。