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【禍根残影を雪に沈めて】遍く死の果に赦しは凍てつき

 雪原に立つ君を見た  君はもう居ないはずなのに、あの日と変わらない無邪気な笑顔で俺を待っていた。もしかしたら夢なんじゃないかと思った。今までの君が居ない世界が夢で、今こうして二人が居るこの世界こそが本物なんじゃないかって、思ってしまった。思ってしまったのは君のせいだ。君が不思議そうに俺を見つめて、「また寝ぼけてるの?」なんて軽く言うもんだから、ここが紛れもなく現実なんだと思うしかなかった。  この二人きりの世界こそが真実なんだ。君と俺が居て、草木も、冬の厳しさを寄り添ってやり過ごす鳥の影も、売り時だと盛り始める3丁目のスープ屋もなくて、一面の雪と君と俺だけが存在するこの世界こそ……真実なんだ。春を待つ地面を覆う深雪の銀色が鏡のように俺の顔を映す。そこにいたのは酷くやつれた、まるでゾンビの様に恐ろしい顔。いつもの俺の顔がそこにあるだけだ。なんてことないはずなのに、俺は雪に沈む自分の顔を見つめずにはいられなかった。そうしなくてはいけないと思ったんだ。だが、でも……、そうしている内に胸の奥が沸き立つ様な感覚を覚えた。同時にぽっかりと心に空白が生まれた様な気持ちになった。嗅ぎ慣れた匂いを感じ、垂れた腕を両の目の前に持っていってやる。知らない内に、俺の手は黒く染まっていた。忘れるはずない、血の色だ。あの地獄で幾度となく染めてきた色。一つまた一つと奪う度に弾け散り垂れ落ちていった命の色。どれだけ風化しようとも、その血の記憶が俺から離れることはついになかった。錆びれてしまった黒い血は罪となって纏わりつく。俺はこんな手で君と過ごしていたんだ。多くの命を奪っておきながら、何故俺は人並みの幸せを享受できると思っていたのだろうか。俺はとっくに穢れていたのだ。  ふと見上げると、もう君は居なかった。雪と俺以外は何もなく、腐ってしまった君の身体ごと周囲の音を吸い込んで沈めていく。代わりに、俺の手が赤く、赤く染まっていくのを見る。あぁ、わかっていた。ここが現実じゃないことぐらい、本当は。  雪が絶えずしんしんと積もる。  俺は今、何をしている? 遠くで何かが潰れる音がする           ぶちゅり、       ぶぴゅ、           ぐちゃ。                 音                 が                 鳴                 る度に感触が増える          血   ごるま染くし新が   と   に   、   目   の   前   が   白   く   染   ま   る 何も見えない