そこは三日月の夜だった。だけど家の窓から覗く暗がりに星の光は降っていない。ガス香る熱帯夜に目覚めた私は、眠気のままに考えた。夜に酔わされた頭は、思考の道をフラフラ間違え、間違えながら、考えた。私は今、この街を出たい。とても。 「そのためにどうするの?」 無意識に口から漏れ出た問いは、私の心を深く抉った。だって可笑しいでしょう?これまで、私が何度そう思ったって、何も変えてこなかったというのに、今になって何をどうすると言うの?首を締め付けるような疑問の重さにいつも視界がクラリとした。でも、今回の私は違った。私の夢を馬鹿にしないでくれた過去の私のために、夢ばかりで見える彼女達に、今の自分が、いつの自分にも顔を合わせられる自分であるために、諦めちゃ、駄目な気がしたんだ。 深い呼吸の後に、溶質調整器に駆け寄り体を腕で支えながらコーヒーを、一杯。 飲みながら、感じている時は甘いその飲み物に、その時だけ、勘違いをする。しかし、飲み終わる時は来る。やはり苦い、慣れない。でも頭はスッキリした。成分のお陰でという訳ではなく、感情の落ち場所になった、そのお陰で。やっぱり後の苦さを考えるより、その更に後にどう思うかを考えた方が性に合っている。 「今までありがとうな、我が家、それと私。ちょっくら、自分を改造してくるわ。」 昨日まで見ていたものとは比べ物にならないほど暗い夜明けに、私はスチームパンクの庭を飛び出した。その暗がりの向こうに、私の求める私があった気がしたから。