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【だるまさんがころんだ】百眼鬼様

元々は小さな集落にのみ信仰され祀られてきた百眼様と呼ばれる神様であった。 だが、流行病により集落の人々は殆どが死に絶え、生き残った者も集落を離れていき、百眼様は時代と共に忘れ去られていった。 しかし、中途半端に残った信仰と死に絶えたという事実は人々の中で畏れを生み、ねじ曲がった噂がまことしやかに囁かれるようになる。 いわく、 「いつでもどこでも見張られている」 「気に入られてしまうと目玉を取られる」 「視線を感じたら目玉を隠せ」 「目の色が違う者は鬼の使いだ」 「気に入られた奴と話していると一緒に目玉を取られる」 「他人の目玉を取り出し捧げれば自分は助かる」 など、様々な噂が飛び交い、いつしか百眼様ではなく、百眼鬼様という怪異として畏れられる様になってしまった。 そして、、、 怪異としてその猛威を振るい… などという事はなく、別に何もしなかった。する気もなかった。ただただ見続けていた。 人を… 景色を… 空気を… 営みを… それだけで満足だった。 それだけで百眼鬼は幸せだったのだ。 自我を持ち始めた時期はもう覚えていない。だが、始めは真っ暗だった。何も見えなかった。 常に暗闇。真っ暗な孤独。 理不尽な人の声。罵倒。 悲痛な叫び。悲しい声。 痛み、痛み、痛み、恐怖。 そして、消失… アレは、なんだったのか。 そして気付けば今度は世界があっという間に広がり、落差に頭が割れるかと思った。 アレがもしかして、産まれると言う事なのかも知れない。 百眼鬼は自分の姿が分からない。 世界を見る時は他人の目から全てを見るから。 百眼鬼の姿は誰にも見えず、見られる事もなかった。故に、知らなかった。自分の姿を。 今まで、その事を特別気にしてはいなかったが、意識してしまうと無性に気になり知りたくなってしまった。 全てを見て知りたくなる衝動だけは百眼鬼は抑えられない。それが百眼鬼に与えられた役目といわぬばかりに。 始めのい~っぽ♪ そんな声が百眼鬼の耳に届いた。 どうやら、子供達が何やら遊びに興じている。 だるまさんがころんだ という遊びで、鬼の見ていぬ隙をついて動き、鬼に見られず鬼に触れれば勝ちという遊戯らしい 百眼鬼は無性に参加したくなった。 しかし、百眼鬼は周りから見えない。どうしようもない。 だが、そこで… 「次は誰が鬼やる~?」 「さっちゃんはー?」 「えー!!また私~?」 「まだやってない子でやろうよー」 「んー、じゃあどうしよっかー?」 「あっ!あそこの子は?えっと…」 「ん?あれ?誰だっけ…?」 「うめちゃん、ひどくない?」 「えっ!?でも、えー…???」 その時、不思議な事が起こった。 子供達の視界を共有していると、一つの不確実な姿が映し出されたのだ。 それは紛れもなく私の姿で百眼鬼の姿だった。自身の姿を見た事はなかったが、それだけは感覚としてすぐに理解出来た。 自分が鬼と呼ばれているのは知っていた。だから、その姿も鬼らしいおどろおどろしいモノの想像していたが、全然違った。 その姿は、周りで遊ぶ子供達とたいして変わらないような幼い少女の姿をしていた。その驚きを噛み締める前に子供達が言葉を畳み掛けてくる。 「えっと、ごめんね?何ちゃんだっけ?」 「上の村の子?」 「でも、今までも一緒に遊んでたような?」 「さっちゃんはさっちゃんだからな~」 「どういう意味それ?」 「まってまって、みんなで話かけたら喋りずらいかも」 やはり、子供達には私が見え、この幼い少女は確実に百眼鬼なのだ。ならば… 「もも…」 「えっ…?」 「もも…って、名前」 「「「「しゃべった~!!」」」」 名前はテキトーだ。流石に百眼鬼と言って子供達を怖がらせるのは気が引けた。 「そうそう!モモちゃんだったよね!ごめんね?」 「そうだよ。モモちゃんだよ。何で忘れてたんだろ」 「ほらねー?やっぱり私の言ったとおりじゃん」 「さっちゃんはいつもそんな感じだし」 「なにをぉ~」 何故か私は存在してる事になっている。子供ゆえか百眼鬼としての力なのか、よく分からない。世界は分からない事でいっぱいだ。 でも、それより… 「鬼…」 「えっ?」 「鬼……やりたい」 一瞬の沈黙の後… 「「「「おぉぉ~!!」」」」 「えぇ!この流れで!?」 「この子、できる子ですぜ!旦那!」 「さっちゃん誰に言ってんの?」 「でも、次の鬼探してたし丁度良かったよね」 「いいじゃんいいじゃん!やろうよー!」 ガヤガヤと騒がしいが、了承は得られたみたいだ。 「よっしゃー!手加減無しで行くぞー!」 「さっちゃん、イジメよくない」 「なにをぉ~」 「まぁまぁ…モモちゃん、気楽に遊んでくれたらいいからね」 「うん」 「……モモちゃん。すごい楽しそう?だね?」 「……?うん」 そんな風に見えるか? 自分の表情というのはよく分からない。はやくやりたい。 「じゃあ、みんな始めるよ~?」 「モモちゃん、始め方わかる?」 「始めの一歩…」 「そうそうそう!それを、開始の合図として大声で叫んでね」 「じゃあ、みんな散らばれ散らばれ~」 「ばればれ~」 鬼の私を中心に子供達は遠くに散開していく。そして始まりの合図の時、 「始めのい~っぽ♪」 その後、子供達の間でだるまさんがころんだで滅茶苦茶強い鬼の子が居るという噂が、まことしやかに囁かれる事となった。 ※【百眼様信仰の起源】※ もはや誰にも知る事のない真実だが、百眼鬼のその幼い少女の姿は、とある集落が飢饉に陥った際に盲目ゆえに真っ先に人柱として選ばれてしまった、命を捧げる事となった盲目の幼き少女と同じ姿であった。 両親は悔やみながらも、自らで自身の娘の命に手を掛け、百眼様という信仰の対象を独自に作り上げ祀り上げた。 丈夫に…産んであげられなくて…ごめんね。苦しい思いを…辛い思いをさせて……すまない。 何の罪滅ぼしにもならないが せめて、来世というものがあるなら、次はたくさん世界が見られるようにと、モモ(桃)という本来の名前をモモ(百)に変え眼を付け、百眼様というカタチで願いを込めたのだった。 ※なんちゃってネタバラシ♪ (意味怖みたいな?) この物語では、百眼鬼様は怪異として猛威は奮っていませんが、場合によっては普通に目玉を抉り出す等、猟奇的展開や子供達が被害にあっていた可能性がありました。 やはり、怪異ですからね。畏れられ恐怖されるからこそ存在が許されているような存在です。 ですが、そこに興味が自分自身に移った事や、鬼を中心とした遊びに加わったこと。尚且つ知ること、見ることを遊びで共有し百眼鬼としての怪異性を限定的に留めた。 更には、子供達が無自覚に噂として百眼鬼の噂を流行らせ、百眼鬼をよく分からない目玉を取り出す化物から、よく分からないけどだるまさんがころんだが滅茶苦茶強い鬼の子にしてしまった。 偶然に、いろんな奇跡が重なってほのぼのとした平和でちょっぴり不思議な話に収まったという訳です。 まさか無自覚で妖怪退治してしまうとは、この子、出来る子ですぜ!旦那!……なんてね。 おしまい。