朝霧ひなた。特務補佐官。 配属からまだ日が浅いが、現場投入は既に常態化している。 能力は優秀だ。単純な出力で言えば、同階級の中でも頭一つ抜けている。問題は、その使い方だ。 「久我先輩!!行きます!!」 止める前に動く。 判断より先に踏み込む。 結果として――被害が増える。 「待て。範囲を見ろ」 「大丈夫です!ちゃんと狙ってますから!」 狙ってこれだ。 衝撃の偏向、加算、拡散。 本来であれば精密な制御を前提とする能力を、ほぼ感覚で扱っている。 それでも成立しているのは、単純な出力の高さと――躊躇のなさだ。 「……壁ごと抜く必要はなかった」 「でも早かったですよね!?」 そういう問題じゃない。 だが、完全に否定も出来ない。 実際、彼女の突撃で救われたケースは少なくない。 正しさを疑わない。 自分の行動が間違っている前提を持たない。それは未熟さだが、同時に強さでもある。 「先輩は、どうしてそんなに冷静なんですか?」 「見ているものが違うだけだ」 「……私は、目の前の人しか見えてません」 「ああ。だから危ない」 少し黙って、彼女は笑う。 「でも、それで助けられるならいいです」 ――否定はしない。 あの手の人間は、矯正すると折れる。折れたら、もう使えない。 だから最低限の制御だけ教える。 止めることはしない。 どうせ止まらない。 朝霧ひなたは――そういう人間だ。 ■久我の評価 扱いにくい。 制御も甘いし、判断も粗い。 ……それでも、前に出す価値はある。 ああいう真っ直ぐさは、長くは保たない。現場は、それを簡単に削る。 だから、今は止めない。 あのまま突っ込ませる。 無茶をした分だけ、こちらで拾えばいい。見落とした分だけ、後から補えばいい。 本人が気づく前に、潰れる前に、どうにかなる距離に置いておく。 ――それで十分だ。 あれは、まだ“そのままでいい”。