とある王国の辺境。首都から遠く離れた旧都の教会の四つ並んだ棺の前に、ひとつ丸まった影がある。 ”勇戦士”ジェフ・ウォンバート。遥か昔、魔王と呼ばれた暴君に勇猛果敢に挑んでいった英雄達の一人。 しかし、今やその名を知るのは学院の大陸史か英雄哲学をとった学生くらいであろう。 かつて、過剰な税収で私腹を肥やしていた暴君を魔王と呼んだ少年がいた。少年は後に勇者の称号を与えられたが、最期の無惨な散り様に、徐々にその名は忘れられていった。 かつて、地方の領民を好き勝手に奴隷として売りさばいた暴君を魔王と呼んだ修道士がいた。修道士は後に英雄達の一人として讃えられたが、魔王に破れた者として彼の肖像画は取り外された。 かつて、魔法の知識を富裕層のみに独占させた暴君を魔王と呼んだ少女がいた。少女は独学で魔法を身に着け、魔王の首に炎をかけたが、その炎は魔王の魔具に弾かれ、後に邪道の呪術師として悪名が広められた。 かつて、無理な侵攻を繰り返し、兵を人と思わないような暴君を魔王と呼んだ戦士がいた。戦士は魔王の配下を次々と薙ぎ倒していったが、勇者を護れず、修道士を失い、魔術師の死骸を見た。彼は今、魔王から最期にかけられた不死の呪いの痛みに耐えながら、流す涙も作れずに、名も消えた仲間達を弔っている。 ”勇者” ランドルーフ・ライトマン。 ”戦士” ジェフ・ウォンバート。 ”修道士”フィタス・サントール。 ”魔術師”メリーナ・カカローク。 英雄達よ安らかに。どうか主の導きにより天楽へ到達出来ますように。 いつかあの日のように、四人で笑い合えますように。