「うん、君たちにしてはよく粘った方だと思うよ。」 紫色の爆炎を吐き、爪と尾を振り回してあらゆるモノを破壊し尽くす邪竜の姿を見つめながら彼女は言葉を続ける。 「この竜は私のありったけの魔力とあらゆる「化け物」どもの悪性を変換させて具現化したんだ。並の魔術師ならたった数秒で消し飛ぶほどの力なのに、ここまで耐えるのは少し想定外だったね。」 「でも、それももう終わりにしよう。」 彼女が腕をかざすと共に、竜の傷口から流れ出た血が大量の怪物へと変わってゆく。 魔力と悪性で形作られた偽りの邪竜から生み出されたそれらは、彼女を止めるべく集まった者たちへと狙いを定めている。 「いい加減諦めてくれる?こう見えても、誰かを必要以上に痛め付けることは好きじゃないんだけど…」 「その顔はまだやるって顔だね。 ハァ…頑固にも程があるでしょ、「アイツ」じゃあるまいし。」 「…じゃあ、これで終わらせてあげるよ。」 彼女が指を鳴らすと同時に、視界を覆い尽くすほどの数の怪物たちが一斉に飛びかかる。 「…それじゃあ、お休み。」 「おいおい、こりゃ思ったよりも派手にやってるみたいだな。」 刹那、「全てが凍りついた」。 数秒前までには何も存在していなかった空間には、天に向かってそびえ立つ分厚い氷の壁が作り出されていた。 「ひとまずはこれでよし。ま、そう長くは持たないだろうけどな。」 独り言を呟きながら一人の男がこちらに向けて歩いてくる。 どこか和を感じる青いスーツと白いネクタイを着用し、下駄が歩くたびカラコロと音を立てる。 何より目を引くのは彼の顔に付けられた「辛」と描かれた雑面とその手に握られた氷で作られたかのような両手杖。それらがより、彼の異様さを引き立てていた。 「さーてさて、あんたらの方は無事か?」 「あー、こりゃ手酷くやられたな。これでも飲みな。少しぐらいはよくなる。」 彼はリターナブル瓶を投げ渡す。中に入っているのは…ジンジャーエールだろうか…? 「ちょっと特殊な調合で作ったドリンクでね、傷や疲労なんかによく効く。ただ、ちょーっとばかし辛口なのは許してくれよ?」 「ん?俺か?そうだな…俺の名前は「鬼瓦 龍」。ただのカレーうどん店の店長さ。」 「本当ならもうちょっとは早く来れたんだが…チャリンコじゃこれが精一杯だったんだよ。さすがにこれが終わったら車の免許でも取りに行くとするかね。」 彼はすぐ横に止めてあるママチャリを横目で見ながらため息をつくと、氷の壁に向き直る。 壁に響きが入ったかと思うとたちまちに壁は崩れ落ち、巨大な邪竜と狂暴な怪物「獣」の大群、そして「獣」の魔女の姿が現れる。 「ハァ…、面倒なのがまた増えたの?まぁ、一人くらい増えたところで何も変わらないんだけどさァ!」 彼女の声と共に邪竜と「獣」たちが一斉に動き出す。 「さて、「最強の助っ人」も集まったところでこちらも皆で反撃開始といこうぜ。」 《「鬼瓦 龍」戦場に参戦!!》 「ん?自分のことを「最強の助っ人」って言うぐらいだから自分の腕に相当な自信があるのかって?」 「バカ言え、俺は最強だなんて存在とは程遠いただ料理人だぞ?」 「それによ、」 「誰も一人で来たとは言って無い。」 刹那、上空からの突然の爆撃により目前の「獣」の群れが瞬く間に消し飛ぶ。 「…全艦突入!」 空を見上げると、そこに浮かんでいたのは無数の空中戦艦。 各戦艦から放たれる砲撃一つ一つが「獣」の群れを的確に撃ち抜き、邪竜の鎧のような皮膚に傷をつける。 「これより《獣の魔女》討伐作戦《Corne d'Alicorne》を発令する!」 「こちらはバルバレア帝国蛮神等対策局の局長、シュトルフ・ゲーンマインデだ」 「当局は、本件を《獣の魔女》ウォーディアンによる人類社会に対する挑戦と受け止め、BBGCBの理念の一つ〘人類の為に最善を〙に従い、《獣の魔女》の確保、制圧、もしくは排除を目的として交戦する」 「各将兵、並びに現地協力勢力に置いては自身のできる最善を尽くせ、我々も全ての戦う者を支援する。」 「…な?言っただろ?しかもこれだけじゃあないぜ?」 その直後、背後に数えきれぬほどの無数の扉が現れると、そのうちの一つが開き、一人の女性が現れる。 「何とか間に合ったようでよかったですね。やはり彼らの扉を先に繋げておいて正解でした。」 「私です、「扉」の魔術師です。おや?貴方に合うのは初めてでしたか?」 「扉」の魔術師と名乗る女性は眼鏡を押し上げながら簡単には自己紹介を済ませた。 「まぁ、それはいいでしょう。ひとまずは今皆様が気になっている疑問についてお答します。」 「現在私は、背後の扉の全ての接続先を「この戦場内にいる全ての人物と縁のある人物の元」に設定しました。我々を空から支援して下さる方々も私の術式で「艦隊まるごと」戦場上空に直接送り出させて頂きました。遠距離攻撃を持つ竜に直接近づくのは困難ですからね。」 「私の予想だと他の方々ももうじき到着する予定です。扉同士の距離が長いほど転送時間が増加してしまいますので。」 「私はここで扉の術式を維持します。前線での戦闘は皆様にお任せしましたよ。」 「さあ、反撃開始です。」 《未来への道を切り開くためにこの地に集う一騎当千の「英雄」たち、戦場に続々参戦!》 _____________________________________ 「…こんな夜中に誰?今日はうちに凸ってる子が多すぎるよ、全く。」 「えっ、お前誰?えっと…うちにテレビはないですよ…?そもそもこんな山奥じゃWi-Fiすら飛んで無いし…」 「いいから来い?どこに?」 「…えっ?それ本気で言ってる?無理でしょそれは。SF映画じゃあるまいし。」 「えっ、ちょ、待っt…」