ログイン

オニキス・ブラックパール/甘味を愛した鏡世界の少女騎士

 ――その世界の“彼女”は、悪しき者に苦しめられる世界で生まれ育った姫君だった。  覚えている祖国の最後の記憶は、燃え落ちる王城。血を噴き出しながら、年端もいかない妹を逃がすために必死に戦う兄たち。そして矢傷を受けながら、必死に脱出のための場所に連れてゆく従者の姿。  泣き叫んでいた。何もできずにいた。けれど、何もできない彼女にはそれでもついてきてくれた家臣がついていた。彼らの助けを得て、彼女は寒村に身を寄せて臥薪嘗胆の日々育ったのだ。  ――いつ頃からか暗雲が渦巻き、荒れ果てた“この世界”に蔓延る怪物たちから身を護るために彼女は、“必要に迫られて”鎧を纏い、武器を手に取った。  初めはバランスよく戦えるランスと大盾を使おうとしたが、その才能はなく……仕方なく、彼女はナイトソードを握り込む。  最初は武器の重みに振り回され、どうしようもないことになっていた。  けれど、彼女が年頃の娘になる頃には――己の手先のように動かせるようになっていた。そして、砂塵を払う外套(マント)を羽織り、ハーフアーマーを纏い、彼女は旅立った。  土を踏み、乾いた風に黒い髪を揺らめかせ、落ちた祖国を取り戻すために。そして、祖国を戦火に包んだ者たちを始めとする、この世界の“悪”に苦しむ人々を救うために。