「おらァよ、昔あのでっけえ緑のと相撲をとったことがあるだよ。村のみんなはおっかねえおっかねえ言うけンど、あいつはまあ、気のいいやつだったがなァ」 〜ある農夫の思い出話〜 「ゴブリン退治の依頼で仲間と一緒に連中の住処の洞窟に潜り込んだ時の話よ。通路の向こうから地鳴りのような恐ろしい音が聞こえてきたの。何かと思っておそるおそる覗いてみたら、そこには……!? ……間抜けなデカブツちゃんが大鼾をかいて眠りこけてたってワケ」 〜お喋り好きな女盗賊〜 『ホブゴブリンは大柄なゴブリンである。その大きさは人間の一般的な成人男性よりももう一回り程大きいというのだからかなりのものだ。通常のゴブリンが人間の子供程度の背丈しかない事を考えると尚更である。しかしその体格に反して(或いはその体格故に)彼らは通常のゴブリンよりも良く言えば温厚、悪く言えば愚鈍である事が多い。 農村部の民間伝承において、このホブゴブリンの間抜けな生態、滑稽な失敗などが笑い話として伝わっている事は多い。これは力こそ弱いものの、悪辣で人に害なす事が大半のゴブリン種らしからぬ事実である。 一説に、"ゴブリンは妖精である"というものがある。彼らの祖先は古の時代に繁栄した多数の妖精族のうちのひとつであり、その中でもとりわけ闇に近しく、悪しき妖精とされた者達の末裔こそが現代のゴブリンである、という説だ。 間抜けなホブゴブリンに人々が抱くある種の親しみの感情は、他種族を揶揄って遊ぶ事を何よりの楽しみとするという悪戯好きな妖精族の、謂わば愛嬌の残滓のようなものを感じさせるのかもしれない』 〜書きかけの論文より抜粋〜