真夜中2時を過ぎた頃、丑三つ時に目が覚めた。 一般的なガラス窓から差し込む月明かり、白塗りの部屋によく映える。そして、その月明かりを受けたのは綺麗な漆塗りと独特な円を描いた木目が印象的なベッド、その上をモゾモゾと一枚の羽布団が今この瞬間に動きを始めた。右へ左へ、左右交互に寝返りを打つようにモゾモゾと動く羽布団のおばけ。 ___ガバッ 今まさに羽布団のお化けが正体を表す。…否___、 ……この私は、目を覚ます。 ___ふぁ〜…。 そんな、か細い欠伸が少女の口元で室内の静寂さに溶け込むようにして儚げな吐息が漏れる。開く少女の小さな口元を隠すように伸びた、彼女自身の華奢な両手指が月明かりを受けて、その純白のような肌をベッドの上で輝かせていた。 ___少女は問く。 「なにか……、不穏な気配がしますね?」 そう艶やかな声で呟かれた問い、その声に応えてかベッドの上、まだ眠っていた際の熱気を閉じ込めた羽布団の中をモゾモゾと蠢く生命、その未知に満ちた存在が少女の布団から顔を出し、鳴き声を挙げる。 ___ナァ〜 猫の鳴き声、黒猫が布団から正体を現したのだ。 「ふふっ…、あなたも起きたのですね、虎次郎」 猫の名"虎次郎"を呼び、その艶やかな全身の黒毛を頭から顎先、果てには尻尾の付け根から先端にかけて少女の月明かりを受けて光沢を帯びた綺麗な爪先、それらを惜しげもなく飼い猫に対してふんだんに活用する事で、その猫の全身と余す事なく戯れていくのだ。 次に、猫の腹を優しく撫でる。少女の指先に感じたのはサラサラとした毛並みと、猫から発せられるゴロゴロと喉を鳴らしたグルーミングの振動であった。そして、ひと撫でする毎に猫はその肉体美を捻って別の箇所を撫でるように要求を示す。 その飼い主たる少女は、その光景に感極まったのか飼い猫の柔らかな毛並みと皮膚、そして十分な脂肪を蓄えた腹部へと顔をゆっくりと沈めていく。 ___スゥゥゥゥゥゥゥ…、ハァァ……、、、 猫の豊満な肉体、その一部に触れた鼻先。そして満遍なく飼い猫の体臭を嗅いだかと思うと、次に漏れた少女の熱い息遣い、飼い猫の腹部にて熱気がムワッ…と、その表面上に分散しては周囲の温度に熱気を吸われて徐々に平熱へと立ち戻っていく。 ___スゥゥゥゥゥゥゥ…、ハァァ……、、、 いわゆる"猫吸い"、その行為を少女の抗えぬ欲望のまま満足するまで繰り返す。その礼拝にも通ずる行為を何度か繰り返しているうちに自身の吐息に熱されて、蒸れた額や頬から仄かな酸味を帯びた少量の汗を放出させた。その微かな汗と、猫から発せられる独特な体臭が重なり、それはそれは口にするのも恐ろしい爆発的な化学反応を引き起こしたのである。 「ふふっ……♪」 少女から漏れた笑い声、少女は満足そうに顔を上げる。その表情はどこか恍惚としてトロけたような印象を受ける。顔を覆う熱気、少女は蒸れて汗ばんだ顔を拭い、歯を見せて笑うように無意識に微笑んでいた。少し荒い息遣い、そこから覗かせる表情たるや、彼女の脳みそで脳内麻薬がどれほど矢継ぎ早に駆け巡っている事か、それは実際に脳内を確かめずとも火を見るより明らかな事であった。 「んゥ〜、虎次郎ォ……!」 自身の飼い猫の頬、そこに自身もまた片方の頬を擦り付けて再びスキンシップを図ったのだ。猫の硬く、そして太く長いヒゲが少女の柔肌に擦れて微かにチクチクとした感触を生み出した。 ___ナァ〜! さすがに猫の方も限界が訪れたのか、足早に少女のいるベッドから降りると何処へと風に吹かれたように消えていく。 「……むぅ、興奮のあまり…つい」 そんな言い訳、そして悔しさの滲み出た少女の声がする。又、この少女の飼い猫に対する求愛行動の話は一旦置いておき、ここからは本題に映るとしよう。 「ハァ……、、、」 溜息を一つ、少女は気を取り直して自身が先程に目覚めた理由を振り返る。 「まさか、フウタローに何か……」 脳裏に最悪な事態を想定する、もし……もしも先程に感じた不穏な気配の正体がフウタローのものだった場合、私はどうするべきか? ___いや、考えるな。己が信じ、感じるがままに道を行く。 少女は、意を決して細く綺麗な足先を床へと付ける。ブルルッ…と、足先から始まりその肉体を芯から震えさせる、床から発せられた冷たさが少女の足裏を無慈悲に貫いた。 ___さ、寒い……。 モコモコで温かい自身のスリッパへ改めて履き直し、少女は羽布団を肩から全身に羽織った状態でベッドから立ち上がる。数歩ほど歩いた先で触れたスイッチ、それをパチリと指で押して電源を付けてやると部屋全体が1秒にも満たない僅かな時間で一瞬のうちに明るくなっていく。 「さて、出かける支度をしなければ……」 ___クローゼットの前まで来た瞬間、少女の羽布団がハラリと床に舞い落ちる。 そして、両手でガチャリと開けた同時に適当な外向けの服を上下合わせて彼女自身の美的感覚を根拠に精査していく。 「まぁ、今はこれでいいですかね」 そう言うと、今着ている寝巻きのボタンを首元から順番に一つ一つ解いていく。首から鎖骨、次に鎖骨から胸元へ、そして胸元から腹部までボタンを解くと少女の着ていたパジャマが床へと静かに落下する。 露になった少女の可憐な肌色と下着のブラ、そして露出した皮膚の表面を今晩の寒さが牙を剥いては少女の体を微かに震わせる。そして、次は下を脱ぐ……という、タイミングで少女の手がピタリと止まる。 何もない空間、そこをゴミを見るような目で見下ろした。 ___ガシッ…!? 何もない空間、そんな無い筈の物体を掴んで少女は淡々と呟いた。 「これ以上覗いたら蹴り殺しますよ」 ___ゾクリ…ッ! 存在しない背中を駆け巡るは恐怖、そして必要な言葉はただ一つ。 は、はい……スンマセン…。 ___バタン…! 少女は自室を出た、電球が一つも灯っていない廊下に出たのだ。月明かりが少女の瞳を照らす、そして一言……。 「明かりをつけて」 ___ピカッ…! 瞬間、廊下に明かりが灯った。まるで魔法、いや……むしろ現代技術の結集されたホームオートメーション技術ではないだろうか? しかし、この少女が住まう古い屋敷内部にそんな現代的な仕組みは残念ながら存在しない。それでは何故?、今この瞬間に灯りがついたのか?、その正体とは一体…!? 「さしずめ、ポルターガイストの様なものです」 少女は、誰もいない空間にそんな返事を返してみせた。そして、少女は歩き出す。フウタローの安否を確かめるべく歩みを始めたのである。 「まぁ、フウタローの事ですから、大した心配はしていませんが……一応、念のためです。」 どこか儚さを帯びた美少女、"伯内 愛(はかうち あい)"は一言呟いた。そして、その長い長い廊下の奥へと掻き消されるように姿を消してしまったのである。 https://ai-battler.com/character/e731f577-86b8-4f0b-aac7-455b1c7b9f1b