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倉敷 めいにゃ/奇妙な骨董品店の留守を守る猫

遠い遠い昔 この世の呪詛の全てを体現したような神がいた 厄神として畏れられ奉られたこともあったが溢れ出る呪いは留まることを知らず、ついには陰陽師によって討伐されることになった しかし力を持った怪異は肉体を滅しても存在は滅びず、そのため黒猫に封印し管理する運びとなった 呪いにより永遠の命を持った猫は、陰陽師の家系で代々飼われることになった……はずだった 「……で、うちに預けたい、と?」 ここはとある骨董品店 飄々とした雰囲気を感じる少女と、スーツを着た中年男性が相対していた 男性は陰陽師を先祖に持っているそうで、先の歴史とともに黒猫を差し出す 「もう私どもには手に負えないもので、どうか管理を代わってもらえないでしょうか」 女主人は何も言わずに黒猫を抱き上げる そのまま男の方に向け、手をあげさせる 「分かったにゃん♪無能な子孫に代わって私が管理してあげるにゃん♪」 完全に小馬鹿にした態度で店主は男に言い放つが、男の方は戦々恐々としていた 「それで、額の方ですが……」 店主は猫に向き直り、じーっと観察した後指を3本立てる 「300万ですか!?いくらなんでも……!」 「……は?」 抗議しようとした男だったが、少女の目線に射抜かれ動けなくなってしまう 「分かりました、では300万で……」 「……君はどこまで愚かなのかなー。億だよ、億」 男性は目を見開く その様子を気にせず店主は続ける 「国を滅ぼすだって?笑わせる。これが呪うのは世界そのものだよ」 「君たち、ここに連れてくるのに何人持ってかれたの?君たちが力をつけなかったせいでどれだけの人を巻き込んだ?」 「……国家権力って便利だね。全部事故で済ませちゃえるんだ。でも、私は君たちを軽蔑するよ」 普段は明るい店主と聞いていた男だったが、あまりにも禍々しい雰囲気に呑まれた 結局は3億を振り込むことに同意して男は去っていった 「……さて」 「喋れるんでしょ?どうぞ」 「……なんだ、気づいていたのか」 猫は伸びをした後、机から飛び降りる そのまま地面に着地したのは、人間の姿をした少女だった 「あら、かわいい」 「ふん。金に目が眩んだ人間め。私の力をモノにしようとするなど不可能ぞ」 そう言うと災いの権能を発揮しする 周囲はより禍々しい雰囲気になる 「先ずはその命を奪ってやろう!」 そのまま呪詛を店主に浴びせる 弱体化しているとはいえ、生身の人間では即死、良くて廃人になる呪いだった しかし、その中でも店主はニコニコと立っていた 「……どういうことだ……?」 困惑している厄神に、店主はゆっくりと近づく そしてそのまま抱きしめた 「な、なな、何をする人間!?」 慌てふためく厄神に、店主は優しく語りかける 「無理して悪役を気取らなくていいよ。君の望みは分かってる」 「……なに?」 「君は死にたいんでしょ?罪悪感か、それとも永遠を生きる苦しみから解放されたいのか。あるいは両方?」 図星を刺されたのか、厄神は押し黙る 「私は君の力の影響を受けない。それどころか、その呪いを人に移すことも出来る」 そういうと店主は彼女から呪いを抜き取る そしてそのまま自分の中に入れてしまった 「バカが、何をしている!」 「……っ。これが世界を呪う災厄の力か……!」 取り乱す厄神の頬に店主はそっと手をあてる 「君を今すぐ殺すことは出来るけど、そんなことはしてあげない」 「……」 「その代わり、君に“寿命”をあげる。君はもう厄神じゃない、ただ1つの命として生まれ直すんだ」 「……っ!」 店主の真意に気づいた少女は、驚きとともに目に涙を浮かべる 確かに死にたいのは本心だったが、それを見抜いただけでなく望み以上の事を彼女はやってのけたのだ 店主の懐の深さに、そして久しく触れてなかった優しさに、黒猫は涙するのであった 「あ、どうせならペットじゃなくて家族になろうか」 「……誰がペットじゃ!いや、家族にしたって烏滸がましいぞ!」 「名字は倉敷でー、私は冥夜だから君はめいにゃね♪」 「ふざけんな、こらー!」