ログイン

【私が世界を救うッ!?】魔法少女・ハピネスムーン

 えと……私、茨田月美(まつだ つきみ)は普通のOLです。  まぁ、でも…勤めてるテレビ局のイメージキャラクターを演じてる時点で普通ではない可能性が……?  うん!、まぁでも、そんな事は置いといて、私は小さい頃は誰かを守るヒーローに憧れていました。  小さい頃か、いや……本当はまだ………  「見てなさい!、悪に付ける薬はないのよ!」  魔法少女が声高らかに宣言する。  _____と、言っても演じてるのが大人のせいで魔法"少女"かと言われると疑問ではある?  「悪霊退散!、福はうち!、煌めく星空に還りなさいッ!!」  _____ムーン・スタードロップッ…!!!  星空が怪人に降り注ぐ、たぶんテレビの前のよい子たちにはそんな風に見えている事だろう。  「悪は滅びる!、善は栄える!、そして星々はいつだって君たちのそばで輝いている!」 _____魔法少女・ハピネスムーン…!  魔法少女の決め台詞。そうだ、私は皆んなを守る魔法少女、その名も………ッ!!  「ハイ!、カット〜!」  監督の撮影終了を知らせる合図、私は……。  「マツダさん、お疲れ様です!」  そうだ、私の名前は茨田月美である。  魔法少女でもなんでもない、ただの一般人である。  現実という仕事現場を足早に退場する私はしがないテレビ局の幼児向け番組、その看板キャラクターに扮して働く社会人である。  _____ガチャ…!  私専用の控え室、その扉をそっと開いては閉じた。週一回のヒーロー劇、私は自分自身の顔を鏡で覗いてみる。  「はぁ………」  先程まで、カメラの前で見せていた笑顔は何処へやら、疲れた顔の私が自分自身を覗き込む。ピンク色のウィッグ、そしてフリフリな衣装。それを身に纏う、そんな己の顔を覗き込んでみたのだ。  「ははは……、へんな顔」  乾いた笑い声を出しながら自分自身の顔に触れてみる、少し周りより顔立ちが整っているというだけで、私自身には特別な"才能"と呼ぶべき要素はこれっぽっちも無かった。この役だって上司や役員が勝手に決めた企画のキャラ、たぶん私がどれだけ頑張って役を演じているかなんて上の人達は興味なんてない、私は一種の着せ替え人形のような存在なのだ。  そんな現状、そんな現実、こんな私に少なからず嫌気が差していた。  _____だけど、、、  「……頑張れ、がんばるのよ…私」  少しだけ歯を食いしばる、私はまだ……頑張れる!  ふと、誰かの声_____!  「素晴らしいでちね、さすがは魔法少女でちよ!」  _____バッ…!  私は不意に天井を見上げた、何かが手を叩きながら舞い降りてくる。  「えっ、なに……あれ…」  「あれとは酷いでちね。わたちは妖精スター、よろちくでちよ!」  私は幾度も目を擦る、夢……では、どうやらないらしい。  「妖精?、なんだか訳が分からないんだけど…??」  私はふらつく足取りで妖精と名乗る物体から距離を取る。  「わたちは魔法少女のスカウト担当でち!、あなたには魔法少女の資質があるでちよ!」  妖精・スターが私の顔の真ん前まで迫り来る、私は理解が及ばずに壁まで後ずさった。  「ま、ままま魔法少女…!?、バカ言わないでよ!、それに私は三十路よ!、今さら魔法少女なんて……!」  その様子にスターは首を傾げた。  「知らないのでちか?、人間たちは30歳を過ぎると魔法使いになれるでち!、だったら魔法使いも魔法少女も大きな差はないでちよ!」  「いやいや、それとこれとは別の問題で……」  「んぅ〜、あなた少しうるさいでちよ〜!」  _____ピカァ〜…!!  有無を言わさずスターから放たれた光。それを一身に受けた私、茨田月美を眩しく照らす。  「ちょっ…、眩しいってば!」  「これで契約完了でちよ。おめでとうでち、魔法少女ハピネスムーン!」  _____はぁ…???  何がなんだか分からない私、なので妖精と名乗る存在を無視して身支度を始めた。  「あーやだやだ、早く着替えないと」  「わたちの話を聞くでちよ!」  そんな妖精スターの声が聞こえないふりをして私は鏡に向き直った。  _____んっ?、あれ…??  鏡に映った自分の瞳、日本人特有の茶眼ではなく、どうしてか吸い込まれるように翡翠の宝石みたいに輝くエメラルド色の瞳に目を奪われた。  「あれ?、カラコン??、どうして色が……」  鏡に映る私、そして髪に触れてみたが先程までのウィッグのような雑な質感ではなく、まるで本物のようにサラサラとした感触と確かに手で触れられているという感覚が髪から伝わってくる。  「はいぃ…!?」  私は混乱した様子で頭のこめかみ、髪の付け根を上げてみる。そこには黒髪ではなく、ピンク色の髪がたしかに生えていた。次に私は、衣装の隅々を見渡してみる。すると一回転した際、ふらりとスカートが舞い上がる。これは先程まで着ていた安物のコスプレ衣装ではないと分かった。私は訳が分からず、衣装部屋に用意されていたパイプ椅子に座り込んた。  「ごめん、ちょっと待て、訳が分からないんですけど……」  「これが魔法少女になったという証拠でちよ!、まだ信じないでちか?」  妖精スターが私の顔を覗き込んでくる、私は引き攣った表情でこう呟く。  「待って….、こんな姿でどう生活すればいいのよ!」  行きつけのスーパーでこんな姿で買い物をする自分自身を思い浮かべて頭を抱える魔法少女。  「大丈夫でちよ、怪人を倒せば元に戻れるでちよ!」  _____はっ?、怪人…??  すると、部屋に備え付けられていた古い安物テレビから音声が流れ出した。  「ふははは…!、俺様は人類をタコ殴りする事を目論む怪人、タコヤキ男爵である!」  触手の生えた焼きタコのような姿の怪人、タコヤキ男爵が街中で暴れている様子が私の目に飛び込んだ。  「さぁ、あなたの出番でちよ!」  スターがぐいぐいと私を部屋から追い出す。  「ちょっ、ちょっと待って!、私まだ心の準備がぁ〜!」  ま…魔法少女・ハピネスムーンは、とあるテレビ局の片隅で隠れていた。  「何してるでちか?、はやく皆んなを助けに行くでちよ!」  「しーっ!、こんな格好で見つかったらどうするのよ」  恥ずかしい……、30過ぎにもなってテレビ局で魔法少女の役をやっているのも恥ずかしいのに、ましてや今から大衆野外でこんな格好なんて……。  「んっ、マツダか?、どうしたんだ衣装のままで?」 _____ドッキン……!!  「は、ヒャい…!」  変な声が出ちゃった、恥ずかしい…///  「どうした?、何かあったのか?」  「あっ、先輩……これは違くて」  「というか、今から飲み会の話が出てるんだけど、マツダも来るよな?」  「い、いえ……私は…」  「いやいや、皆んなも来るみたいだし?、なっ?、いいだろ?」  「い、いえ……その、私は…」  私は、どうしても自分の意見を口に出せない人間であったのだ。  "今"までは_____、  「先輩!、きょう私…!、用事があるので先に上がります!」  魔法少女の格好で歩く羽目になったせいか、今日の私は少しだけ勇気が湧いていたのだ。  「先輩!、それでは!」  「あ、ちょっ、マツダ!」  ふりふりのスカートで走り去っていく後輩を止めようとしたが、もう遅い。  「いや、せめて衣装は脱いでから帰れよな…?」  「ふはははは…!、タコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコ殴りィーッ!!!!」  無数の触手による横転したトラックに対するタコ殴り、鉄の塊が呆気なく歪んで炎上する。  「ふはははは! 所詮、人間どもは我々の奴隷となるべき運命なのだァ!」  _____そんな時…!  「今の言葉…、聞き捨てならないわ!」  「___なにヤツ…!」  建物の屋上、そこに彼女は立っていた。  "星空から世界を見守る、ハピネスハッピーな月の使者…!"  _____魔法少女・ハピネスムーン!  背後で煙幕が舞い起こる、自然と口にした決め台詞、魔法少女は屋上から高々に飛び出した。  「とぉー!」  あとは華麗に着地するだけである。  _____あっ、ちょっ待って!  「ちょっと思ったより高いかも!、きゃ〜っ!」  可愛らしい悲鳴と共に魔法少女は地面に尻餅をついていた、いてててて………!  「か、怪人…!、覚悟なさい……///」  魔法少女は頬を赤らめながらも怪人を指差し、決めポーズを取った。  _____すると、  「魔法少女だ!、ハピネスムーンだ!」  「うそだろ、コスプレか!?」  「ハピネス…!、頑張って〜!」  「んっ、テレビの撮影…??」  周りからの様々な反応、私は少し照れ笑いを浮かべながらも怪人を睨む。  「天が貴方を許しても!、魔法少女・ハピネスムーンが許さないわよ!」  _____ダッ…!  魔法少女は駆け出した、怪人からの触手が迫り来る。  「ヤバ…ッ!?」  _____ガシッ!  片足を掴まれた、そのまま空中へと思いっきり放り投げられた。迫り来る壁。  _____ガシャン…!  マンションの外壁に背中から突っ込んだ、周りの家具を蹴散らしながらも魔法少女はどうにか立ち上がる。  「俺の家が!、俺の家がァ〜!」  住人の絶叫。  「ごめんなさい!、請求書はテレビ局に送ってね!」  そう言うと、魔法少女は壁に空いた穴から飛び出して行った。  「ふはははは…!、無駄だ!、タコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコ殴りィー!」  回避不能な高速連打、魔法少女の肉体を激しく殴りつける。  「ぐっ……!」  為すすべなくタコ殴りにされる魔法少女、その肉体が再び空中を舞って壁に激突する。  「くっ…、痛ッ…!」  立ち上がるので精一杯、だけど……そこまでして必死に立ち上がろうと足掻くのは何故だ?、魔法少女の脳内にそんな疑問が木霊する。  _____私は…、私は……、わたしは!  魔法少女の脳内、そこに駆ける一筋の光、子ども時代の自分の姿、その目に映るヒーローの姿を思い出す。  _____ダンッ!  魔法少女は歯を食いしばって立ち上がる。  「私は、魔法少女!、皆んなの星となって明日を照らす魔法少女・ハピネスムーンだから!」  魔法少女の拳が天高くに掲げられた、そして口元から流れた血を拭って怪人を再び睨んだ。  「見てなさい!、悪に付ける薬はないのよ!」  魔法少女が声高らかに宣言する。  _____その時……!  「いけー!、頑張れ〜!」  「怪人なんか、やっつけちゃえ!」  「ハピネス!、頑張ってー!」  周囲からの声援、だから私は戦える。だからこそ、魔法少女ハピネスムーンは強くなれる!  「悪霊退散!、福はうち!、煌めく星空に還りなさいッ!!」  私は両腕でポーズを決め、怪人へと構えた。  「小癪な…!、俺様はそう簡単には倒せんぞぉー!、タコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコタコ……!」  魔法少女の一撃。  _____ムーン・スタードロップッ…!!!  「ウギャア〜!!?」  星空が怪人に降り注ぐ、それは紛れもない事実、怪人の肉体が木っ端微塵に消え去っていく。  記念すべき魔法少女としての初勝利である、しかし……  _____フラリ…  ふらつく足取り、魔法少女は全力を使い切り、片膝をつきそうになった。だけど、まだ私にはやる事がある。  _____キッ!  魔法少女は叫ぶ。  「悪は滅びる!、善は栄える!、そして星々はいつだって君たちのそばで輝いている!」  魔法少女の決め台詞。そうだ、私は皆んなを守る魔法少女、その名も………ッ!!  _____魔法少女・ハピネスムーン…!  背後で爆発した盛大な紙吹雪と煙幕の演出、それに呼応するように人々の歓声も一際大きいものとなっていた。  その様子に魔法少女は誇らしくも少し恥ずかしそうに笑ったのである。  時は過ぎて、今はもう真夜中、星空が煌めく空の下を私たちは歩いていた。  「はじめての怪人討伐、どうだったでちか?」  妖精スターが話しかけてくる、私は変身の解けた普段の姿で考える。  _____少し考えた後……、  「や、やっぱり今さら考えると恥ずかしかったかも……///」  無理もない、大勢の前でフリフリの魔法少女の姿で戦った上、あんな決め台詞まで言ったのである。そんな私は両耳を赤々と染めながらもこう言った。  「でも、悪くは……なかったかな?」  「ほんとでちか…!」  妖精スターは嬉しそうに笑った。  「まぁ、たまに変身するぐらいなら……」  私は突然、その足取りと言葉を止めた。  _____えっ?  自分自身を見下ろす、再び魔法少女の姿に戻っていたのである。  「また怪人が現れたでちよ!、これからも頑張るでち、魔法少女・ハピネスムーン!」  私は、開いた口が塞がらなかった。  「えっ?、まじ……体もうボロボロなんだけど!?」  魔法少女の表情がサァーと青ざめていった。  「うぉ〜ん、こんなのってあんまりだよ〜!!」  魔法少女は両膝を崩して叫んだ。  そして魔法少女と怪人、そんな両者の戦う日々はまだまだ続いていく事だろう。  ____頑張れ!、魔法少女・ハピネスムーンッ!! [完。]